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戦姫ロイアス譚   作者: 藤出雲
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episode 0 「灰色の悪意」 第十三話

第十三話


「はぁっ…はぁ…」

トーナ闘技場を構成する、石造りの観客席が粉々になった。

キルンの一撃は、ユタの剣突によって吹き飛んだリィルナルへと命中した。

リィルナルの魔力は…その数秒後に消え去っている。

「すげーじゃねえの、キルン」

聖剣ガラを片手にしたユタが、キルンへと歩み寄る。

「はは…一応、俺の最強の攻撃魔法なんですよ。術式がかなり複雑で時間がかかるもんで、実戦ではまだこうして騎士団の方に援護して頂かないと…」


よろりと立ち上がる、キルンの顔色は悪い。

どうやら、先程の黄金龍の一撃は魔法力だけでなく、体力もかなり消耗する様だ。

「やれやれ…何とか、やったか…」

カルトローサが、小さく安堵の溜息をつく。

それに反応して、第一騎士団上位騎士達も剣勢を緩めた。


その、瞬間。


ずぶり、と、肉を抉る鈍い音が聞こえた。


「…あ…?」


ユタの横腹に、灰色の爪が突き刺さり、貫通する。

「なっ…!?」

声をあげたのは、第一騎士団の上位騎士…キルンの魔法詠唱時に援護についた、コザだった。

その声が、彼の最後の反応になる。

今度は灰色の尾が、疾風の様な神速を以てコザの首を斬り裂く。

「コザ!…きゃあ!」

コザと共にキルンの援護についていた、上位騎士アライアの真上から、コザの首を飛ばした尾がそのまま降り落ち、直角に曲がり襲いかかって来た。盾で横に衝撃を流す様に受け止めたが、彼女の纏う盾と鎧は粉々に砕け散り、身体はそのまま宙を舞った。

「くそっ…一体何が!?」

カルトローサが、キルンの黄金龍撃が命中した箇所に視線を移すが、煙も落ち着きかけた其処には、何も居なかった。

「…此処だよ」

ぞくりと、キルンの背筋が凍る。

彼が振り向いた其処には…リィルナルが居た。

但し、先程迄の巨大な体躯の化物ではない。

灰色の体色はそのままに、まるで人間の少年の様な小さな身体。

角、爪、羽根、尾は巨躯の時と同じ様な物が生えている。

「ありがとう。殻を破ってくれて…」

悪魔の右腕が、するりと上から下へと振り降ろされる。

その瞬間、キルンは自身の顔の右側に鈍い違和感を感じた。

「…綺麗な色だね」

悪魔の掌には、キルンの…金色の右眼がごろりと転がっていた。

「か…」

キルンの身体が、ばたりと力無く倒れる。

「中々…ね。破れなかったんだよ。僕達第一級悪魔を封印出来る魔法術式となると、その解呪はより複雑化される。段階もかなり沢山あるし…。魔的像封印自体は解けても、それは肉体だけに過ぎない。僕本来の魔力は殻に閉じ込められたままだった。時間をかけるか、何らかの外的な衝撃でもあればと思ってたんだ。そこに君達のあの攻撃だろ?「殻」を壊してくれるには調度良かった。本当にありがとう」

灰色の少年が、嬉しそうに微笑んだ。

「…キルン…!?」

闘技場の端から、ロイアスが叫んだ。

距離がある為、よくは見えなかったが…かなりのダメージを受けた事は理解出来た。

「おい!姫様!何処に行くつもりだよ」

突然走り出そうとするロイアスの右腕を、アスドガリスが掴んで制止する。

「離してよ!キルンが…!」

瞳に涙を浮かべながら、制止を振り切ろうと暴れるロイアス。

「っ…!あのな!姫様が一人であそこに乗り込んで何になるってん…いてててて!こ、こら!蹴るなよ!」

「うるさいうるさい!アスドガリスの馬鹿!いいから、行かせてよ!!」

それでも離さないアスドガリスに、今度は掴まれていない方の腕で殴りかかる。

「…あー…あのなあ…嬢ちゃんよぉ…」

無精髭の大男…ラゴロデが、眉を顰めながらロイアスに声をかけた。

「俺ぁテルヴィントレスのおっさんに仕事頼まれてよぉ、そいつを納めに来ただけの単なる鍛冶屋なもんでな。いまいち状況がわかってねえんだが…もしかしなくてもあれだよな?あそこにいるちっこい化け物…何とかしねえとって事だよな?」

すっとぼけた調子ではあるが、妙に通りの良い声でラゴロデは言った。

ロイアスは、その言葉でふと動きを止め、静かにこくりと頷いた。

「なら、アス坊どついてても仕方ねえってもんよ。どうせなら…どうも奴さん、人外のモノで、この国に仇する輩みてえだけどよ。どうせなら、よ。この国を護りてえなら、味方をどつく元気があるなら、その元気できちんと戦ってみるってえのが、筋ってもんだと思うぜ俺ぁ」

ラゴロデの言葉に、涙を拭き、再び頷くロイアス。

「ちょっと、ラゴロデさん!何無責任な事言ってるんですか!」

アスドガリスが、ラゴロデに反論する。

「えへへ、アスお兄ちゃん。大丈夫だよ!お父さんが今日、何を持って来たと思う?」

「え…?」

ラゴロデの隣にちょこんと、可愛らしく立っていた彼の娘…ラーニャがにこりと笑った。

「まあ、非常事態だ。テルヴィントレスのおっさんも許してくれるだろ。ほれ、どれでも好きなもん持ってきな」

言って、ラゴロデは担いでいた木製の巨大な箱をどすん、と地面に降ろした。

「これ…は…!!!?」

その木箱の中には…。


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