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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者は恨みを忘れない

※あらすじは正直、嘘です

 元々は普通に暮らしていた。

 朝起きて、ご飯を食べて、荷物や教科書を確認したら鞄を持って家を出て、学校に向かう。

 元の世界。

 地球と呼ばれる星の日本という島国で、ありふれた高校生だった。

 特に何かあるわけでもない。学校で授業を受けて友人と話し、時々帰りに一緒に遊ぶ。宿題やテストに苦労して、夜まで机の上でペンを走らせていた。

 それは突然だった。

 ある日の帰り道、目眩と浮遊感を感じて視界が暗くなった。思わず頭を押さえて、倒れないようにその場にしゃがみこんだ。

 しばらくして、地に足が着いた感覚。

 目を開けると、知らない場所だった。ゆっくりと立ち上がり、周りを見回す。大きな部屋に囲むように並ぶ人々。とんがり帽子に杖を持った異様な集団と重そうな鎧を着た数人に守られるように真ん中にいる高そうな装飾の服を着た男。

 そして、まったく状況の分からないまま連行される。近づいてくる自分の身長よりも高い鎧の者達に威圧感と恐怖を覚え、後退り逃げようとするが、後ろにいたローブの一人に手を捕まれる。

 そのまま、案内と呼ぶには乱暴に、部屋を出て通路を曲がり、階段を登って何処かへ連れていかれる。

 そして、やっと解放された場所。

 今思えば、謁見の間であるが、当時は何がなんだか分からなかった。

 そして放たれた言葉。

 ああ、今でも忘れない。一日足りとも忘れたことのないあの言葉が玉座に座る人物から告げられる。

「おお勇者よ、よくぞ参った。どうかこの世界を救ってはくれないか!」


 ♢


 全ての始まり。

 最低最悪の思い出に、ヘドが出る。

 くそったれ。こんな悪夢を見て目が覚めるのは。

「こんなところで寝たからか」

 かつての栄光あったきらびやかな謁見の間。輝く玉座は、広間全体に撒き散らされた血と同じ真紅に染まっていた。

 血塗れの玉座から身を起こし、目の前に縛られ転がされている五人を見下ろす。

「どうだ、少しは俺の気持ちが分かったか? いきなり呼ばれ勇者だなんだと持て囃されて、武器を持たされ殺し合いをさせられて、遥か遠い地にいる魔王を殺してこいと有無を言わさず送り出された俺の気持ちがっ!」

 王が何か言いたげにこちらを睨む。しかし言葉は発せないし話せない、あの偉そうな声をもう聞きたくなくて声帯を潰したからだ。

 王妃は眼が気に入らなかった。国のために働いて当然といったような、こちらを蔑んだあの眼が嫌いだった。だから抉った。

 王の息子二人は四肢の建を断ち、まともに動けない。何もわからなかった俺を訓練と称していたぶったのを忘れない。

 王の娘の花のようだと讃えられた美貌は見る影もない。言葉巧みに誘惑し誘導し、日本でのことを忘れさせようとした。

 

 思い出すだけで再び怒りが湧き上がる。

 尽きることのない源泉のように、思考が染まる。殺せと囁いてくる。

 だめだ、堪え切れない。そもそも何でこいつら相手に我慢する必要がある? そんな事をする必要は欠片もない。

「よし、殺そう」

 発言に恐怖し震えた息子二人の首を玉座に立てかけていた剣でもって切り飛ばす。

 鬱憤を晴らすように死体に向けて何度も何度も剣を叩きつける。原型を留めない肉塊になってからようやく手を止める。

「ああクソっ、まだイライラする。もう一人くらい殺すか?」

「それくらいにしておきなよ。公開処刑用に一人は残しておかないと」

 崩落した扉から現れたのは俺の唯一の仲間にして信頼できる同胞。

 腰までの艶やかな黒髪に血で染まったドレスを着こなした少女。果ての地で魔王と呼ばれていた女だった。

「そうだったな、なら後一人ならまだ大丈夫だ」

 息子の死を悟り悲鳴を上げて五月蝿い王妃を切り刻む。

「私の分も残しておいてくれよ?」

「お前にはこの国の人間を譲ったろうが、こいつらは俺の獲物だ」

「しょうがないなあ」

 王とその娘を崩れた壁に向かって放り投げる。魔法で浮かせ、城下を見させる。

 拒否した娘は無理矢理瞼を固定する。

 崩壊した王城から見下ろせる城下は、それ以上に悲惨な有様なのだろう。

 あちこちで今も火の手が上がり燃え盛り、街は瓦礫の山と化していた。広場にはうず高く積まれた死体の山、磔にされた首なし死体、拷問を受けた人々の残骸。

 流血で彩られたこの世の地獄がそこにはあった。


「見えるか? これがお前らがやったことの報いだ」

「……なぜ……このような……惨たらしい……」

 娘が信じられないといった風に呆然と訪ねる。

「なぜ? 恨まれていないとでも思ってたのか? いきなりそっちの都合で呼び出しておいて戦わせて、挙句の果てにお供とは名ばかりの監視役で固めて俺に人も魔物も魔族も竜も何もかも殺させたくせして、俺が喜んでやったとでも思ってたのか?」

「勇、者……とは……光を……」

「勇者だから魔王を倒せってか? 巫山戯るな、勝手な都合を押し付けやがって! 知ってるぞ、俺は知ってるからな。お前たちが勇者のお供と言って各国の選りすぐった人物と言っていた奴らは監視役で、勇者が反逆しないように枷をはめて、そのくせ防衛のためと国に軍を残していたよな。はっ、何が防衛だ。数万数十万の大軍をただ自国を守るために使うのか。違うだろ、勇者が思惑通りに魔王を倒したその後に、枷で抑えて数で潰すつもりだったんだろう。その後は領土争いだ。人間同士で戦うために少しでも軍を残したかったんだろ?」

 娘は声も出さずに俺の感情を受け止めて、何かを決意したように表情を締めると口を開いて。

「もう何も喋らなくていい。声を聞くのもうんざりだ」

 一閃。

 喉を切り裂かれ、発そうとした言葉は呼気となって漏れるだけだった。

「忌々しい枷を外すために、相打ちになったとデマを流して、あの場で仮死状態にもなった。真実を聞いた時は驚いたよ、まさか魔王が俺の前の勇者だとはな」

「ふふふ……そう、こいつらは自分のことしか考えない。自分たちが痛い目を見るのは嫌だから他人に頼って、事が終わったら始末して解決しようとする最低の屑だよ」

 

 魔王から全て聞いた。

 魔王の先代も、その前もその前もその前も。

 全て召喚された勇者だ。

 昔は本当に人類の天敵たる魔王が存在したらしいし、それで人類は滅びかかったんだそうだ。

 そして禁断の秘義、勇者召喚を行った、それが連鎖の始まりだ。

 最初の魔王を倒した勇者の活躍を見て、奴らは味をしめた。

 ――なんだ、こっちの方が楽じゃないか。召喚に使う生け贄など瑣末なことだ。軍を動かす労力と被害を考えればなんてことはない。これなら勇者に任せてしまえば国力も削がれない。

 そう考えて、しばらくしてから今度は勇者が怖くなった。

 魔王を滅ぼすほどの力。向けられれば危険だと。そして勇者は人類の敵とされ、絶望した勇者は魔王となった。

 そこからは繰り返しだ。

 魔王を殺すために勇者を呼んで、失敗から学んで枷を作った。望めばその場で勇者を殺せる秘密の枷。

 そして失敗。枷で殺しきれず次の魔王が誕生する。

 また召喚。次は枷の発動と同時に弱った所を精鋭が襲いかかった。

 失敗。魔王が生まれる。また召喚。

 枷を殺すことよりも弱らせる方向に進化させ、強力な呪いと化した。弱った勇者を殺せるように秘術でもって強化された者達をお供につける。

 これで殺せるはずだった。今度こそ、完全に。

 

 その全てを聞いた。

 そして欺くために相打ちに見せかけ、死んだと思わせた。

 水面下で準備を進め、事を為した。

 その結果がこの王都、この城下の惨状。

「お前らの悲鳴は実に心地よかったよ」

「そうだね、私も楽しかった」

 隣で魔王が嗤う。俺も一緒になって嗤う。

 唯一の友人にして仲間にして同胞である、召喚された日本人の少女、俺の同類。

 

 魔法を使う。

 世界に向けて示すように巨大な杭が顕れる。

 王と娘を杭の先端に磔にし、適当に拾ってきた槍や剣でもって縫い止める。

「なんだよその目。許さないってか? それはこっちの言い分だろう。被害者なんだ、殺されるところだったんだ。なら、殺してもいいよな? 殺されても良いんだよな?」

「そうだね、殺していいんだよ私達。だって悪いのはこいつらで、この世界の人類で、この世界全てのせいなんだから」

 ドロドロに濁った瞳で魔王が嗤う。

 勇者である俺は救いの光りなのだと言っていた。ならば一度は果たしたはずだ。数ヶ月の平和を噛み締めたはずだ。

 なら今度は滅ぼしても文句はないだろう。絶望に堕としても良いはずだ。

 全てが許される。どんな罪も罪ではない。

 ――悪いのはこの世界なのだから。


「さてじゃあ、締めは派手に殺ろうか」

「そうだね、他の国にも伝わるくらい派手にしよう」

 手を組み、二人で魔法を使う。

 この世界の救世主。勇者二人分の魔力で使われた魔法は、どんな大魔導師でも出来ない現象も可能にする。

 光が広がる。

 黒と白の光りが王都を包み込み。消えた後には何もなかった。

 瓦礫となった城下街が消え、惨たらしく殺された人々は消え、王城は消え、暮らしていた王族も兵士も何もかもが消えていた。

 残っているのは巨大な杭の先端に磔にされた二人だけ。

 死んでいないのが不思議なほどの傷を負い、しかし魔法で延命処置を施され、死ぬことも出来ないまま苦しみ続ける。

 死ねるのは異常を察知した各国が確認しに来たその時。

 杭に刻まれたメッセージと共に伝えられる魔王の帰還として。


 ♢


 唯一勇者召喚の秘術を持っていた王国は文字通り消滅した。その秘術と共に。

 新たに勇者を呼び出すことも出来ず、復活した魔王に怯える人類。

 密かに召喚について研究していた魔法大国は、王国の消滅から僅かの時をおいて、同様に消滅した。

 同じ様に杭だけを残して、魔法大国の長たる大魔道士統括賢者機関総帥の、皮膚を剥がされ舌を抜かれ眼球を潰され四肢をもがれた死体をぶら下げて。


 ♢


 丘の上。

 少年と少女が手を取り合って歩いている。

「召喚が出来る王国は最初に消した。それについて研究して盗もうとしてた国も消した。残ってる目ぼしいのは」

「戦士の国と聖女の国は潰さないとね。後は傭兵国家とかも」

「魔族の方はどうする?」

「最後でいいわ。国をあらかた滅ぼした後に、逃げた人間を殺してもらうから」

「次は聖女を殺そうか。神秘と魔法と奇跡が無くなれば人類は魔物に対抗できなくなる」

 勇者と魔王が手を取り合って歩く。

 足取りは軽く、散歩でもするようだ。

 二人の進んで来た道の後ろには、通りがかった商人の馬車と従者と護衛の死体が転がっている。

「あ、そうだ。勇者とかもうあれだからさ。俺も魔王名乗ろうかな?」

「あら、いいわね。魔王が二人なんてなかなか楽しいことになりそう」

「だろ? 勇者がいないのに魔王だけいるよりも、更に魔王が二人いたほうが恐怖と絶望度合いが深まると思うんだ」

 魔王と魔王がお互いに嗤い合う。

 

 聖女の国を目指して。

 人類を根絶やしにしようと。

 この世界を滅ぼしてしまおうと。

 

ちょっと日々の不満が溜まっていた。

そんな状態で書くとこんなものしか書けないという……。

後悔はしていない。

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[一言] いや、いいんじゃないですか
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