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英雄ヒキニート  作者: ぺんぞじあぜぴん
1/1

引きこもりの毎日

ちなみに私はNOTヒキコモリン

 『――彼こそが、英雄だ。』


平和の国日本で起こりそうになった(・・・・・・・・・)未曾有のテロ。

そのテロを止めた一人の男性警察官は救い出した幼子を胸に抱き、息も絶え絶えにそう言ったという。





++++++++++++


「・・・今日も日本は平和そのものだ。」


自分一人の暗い部屋の中、光源はパソコンの画面だけ。目に有害だという青い光を抑えるPC眼鏡をかけて今日も今日とてネットの中を泳ぎ回る。一時間程で某有名掲示板やニュースサイトを巡回し終えて一息ついた。既にぬるくなってしまった麦茶を一口含み、海外の最新ニュースをまとめたサイトへと飛ぶ。ほとんどがゴシップネタだが、時たま未解決の凶悪犯罪が載ることがある。

しかし、今日の所は特に気になる記事は何も載ってないようだ。


「・・・世界は今日も平和だな。」


もう幾度繰り返しただろうか。

僕がヒキコモリになってからもう6年。時間とは早いものだ。この単調なヒキコモリ生活を始めてからはなおさら時間の早さを感じるようになった。毎日ニュースを巡回して、内容や気分によっては“()()だ(・)け(・)”コメントをする。空いた時間は録画したアニメやドラマを眺めたり、くだらないテレビ番組に笑ったり。そんな短調で平和な毎日。世界は僕を忘れたかのように回っていく。あぁ、なんて素晴らしい日々、かけがえのない日常。願わくば、このまま世界が僕を忘れて回っていかんことを。僕の望みはそれだけだ。それだけでいい。これ以上は望まない。望んではいけない。


世界が一変したのは小学六年生僕の時。冬休みだった。卒業式も近くなり、中学で離れる友達と、名残惜しむかのように遊び回る毎日。宿題は最後に全部纏めてってタイプだったし、家族の事が大好きで、小さな弟と物を取り合って喧嘩したり。不自由はあるけれど、幸せで、なんの不安もなく生きていた。まるで世界が自分を中心に回っているような、そんな全能感。世界の中というものが、まるでどんなものか分かっていなかった頃の話だ。僕の両親は小さいながらも工場を経営していて、幼い僕は不況に唸る親父の姿を覚えている。母は親父を必死に支えている、常に笑顔の太陽みたいに明るい人で、親父はそこに惚れ込んだんだってビールを片手に臭い息で語ってた。僕はそんな両親に憧れていて、小学校を卒業したら中学に上がり、やがては親父の工場を継ぐのだと思っていた。親父はもっとビッグな男になれって常々言ってたけど、僕の夢は大きくなくていい。小学校の作文に書いて、授業参観で大きな声で朗読してやった時、両親が泣いていたのを覚えてる。

自慢の父と母だった。


でも、そんな僕の世界は終わりを告げる。忘れもしないクリスマスイブ、12月24日のこと。



------

その日の僕は、白ひげの男の正体が自分達の親なのだと友達から知らされて驚天動地の真っ只中にあった。たしかに、一人で世界中の子供たちに無償でおもちゃを配るなんてどんだけ大きな工場や会社を持っていたって、1日で財布の中身はすっからかん。駄菓子を買うお金くらいは残ってたらいいなぁ、なんて馬鹿丸出しの会話をしていた。


でも、もしも本当に白ひげの正体が親父なら、明日の朝に僕の枕元に置かれている筈のゲームソフトは、へそくりと同じ場所、工場の事務所奥のロッカーに隠してあるはず。それを今日手に入れることができれば、親父は慌ててまたプレゼントを買いに行くに違いない。明日と合わせて二個もプレゼントを手に入れられる――。僕らは喜び勇んで工場に忍び込んだ。


普段からうろちょろしている工場内は僕らの庭みたいなもんだ。親父は見つけると怒るけど、決まってその後は工場の仕事を見せてくれるし、気のいいおっちゃん達は工場長にはないしょだぞって言ってお菓子を分けてくれる。今日は工場は休みだから、おっちゃん達もいないはず。勿論、ロッカーの鍵の番号も知っているから、この任務(ミッション)はお茶の子さいさい、難易度イージー。流行りのゲームで皆が難しいっていう()を一番最初にクリア出来た僕ならなんの問題もない。


僕を先頭に、皆でソロソロと工場二階の事務所を目指す。既に家から持ってきた事務所の鍵はズボンのポケットに忍ばせてある。


カチャリ。


鍵を差し込み、回す。気分はもう、ゲームの中の主人公だ。敵に見つからないように細心の注意を払う。扉を静かに開けると、皆を事務所に招き入れたら、ドアノブを回した状態で扉を閉めて音が出ないようにノブを回したままでゆっくりとドアを閉める。事前に決めていた手信号で友達に『ここで待機せよ』の合図を送り、自分は奥の部屋へ。


…!! (クサ)い!!


異臭。事務所に立ち込める異臭。低学年の男の子が大便をおもらししてしまった時よりひどい。鼻が曲がりそうな程のにおい。今まで嗅いだことのないにおい。


…何のにおいだ?


仲間達もすぐに気付き、そわそわしだした。しかし、ここでしくじる訳にはいかない。「()は投げられた」というやつだ。すぐにジェスチャーで静かにするように促す。…どうやら、この異臭は奥の部屋から流れているようだ。換気扇が回っていることにも気が付いた。


━━━━まさか、誰かいるのか?緊張が走る。壁伝いにそろりと移動。ゲームの見よう見まねで奥の部屋を覗く。


……ぁ、電気が点いてる…!!!


これは、マズイ。勝手に事務所に忍び込んだなんてばれたら大目玉だ。もしかしたら学校の先生にも怒られるかもしれない・・・。高揚していた気分が地に落ちる。異臭のことなんて、もう、気にしてなんかいられなかった。幸いにして部屋は無人。それなら誰かが帰ってくる前にことを済ませれば――!素早くロッカーに近寄り、四桁のナンバー式錠前を手に取る。


あれ・・・几帳面な親父がいつも合わせているそれは『0000』になっているはず。しかし、錠前の番号は『8629』になっていた。

これは、正解の番号。親父め、うっかりしやがって。見つけたのが僕じゃなけりゃあへそくりは勿論、僕のゲームソフトだって盗まれていたかもしれないじゃないか。

でも、今だけは好都合。そのまますんなりと開錠。後はロッカーの中から例のブツを手に入れて逃げ帰るだけだ。



開けられたロッカー。出てきたのはプレゼントだけではなかった。扉を開けると、途端に広がる腐敗臭と鉄の匂い。扉を開けた衝撃にゴトリ、とロッカー内の赤い袋が倒れてきた。ゴウンゴウンと古い換気扇の音だけが満ちていた事務所に、ビチャリ、と水っぽい音が響く。事務所の床のタイルに、赤い水が広がっていく。倒れた袋の口から見えたのは、血まみれの親父。工場で使っているズタ袋に入れられた親父はピクリとも動かない。事務所に満ちる異臭と親父のたてた物音で友達がやってきた。


ズタ袋の足元には、少しひしゃげた、真っ赤になったプレゼントの箱があった。




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