第六話 「先輩/後輩=上/下関係」
俺、雨傘流麗はこの春、神童家で、次期社長「神童鏡華」のSPをすることになった。
今日はその二日目。
しかし、その守るべき対象である神童の顔をみたのは、一日目の一瞬のみ。
そんな彼女に仕えようと思う俺の頭は傍からみれば、ただの変人にしか見えないだろう。
だけど。
一度決心をつけたのなら、やらなければならない。
俺は自分の為に用意された豪華(しかも一人で住むには贅沢すぎるー…)な部屋の扉を開け、
あの長い廊下に出た。
身なりはしっかりしているつもりだ。
昨日に侍女長の慧花から貰ったスーツを着て靴も家から持ってきた。
今日はいよいよ、神童家次期社長と会う日なのだ。
あの少女のサポートをすることが俺の役目であり、また身の回りの警護をするのも仕事の内。
俺は、長い廊下を勇み足でつっきり、目的地のドアまで来た。
深く、深く、深呼吸をする。
覚悟を決め、勢いよくそのドアを開けると、そこには俺よりも早く先客がいた。
「鏡華様。お早う御座います。朝食は如何なされますか?」
耳に残る(男にしては甲高いー…)声の主。
予想どうりのその人物は、入ってきた俺に気づくと少しイラついた顔をこちらに向けた。
「何や。ノックもせぇへんのかいな?最近の若造は」
お前も同じ若造じゃないか。そう思いながら俺は神童の前に立つ。
彼女は早く起きていたようで、支度から何まで全てしていた。
もしかしたらこいつー…桜庭六花がやっていたのかも知れないがそんなことはまあどうでもいい。
とりあえず、挨拶をしなければならない。
「えっと…雨傘流麗です。これから宜しくお願いします。」
「え…あ、は…はい。宜しくお願いいたします。」
彼女の声は、まだ強張ったままだった。
だが、最初に会ったときの言動とはまた違って、恥ずかしがっているようにも見えた。
「鏡華様、少し新人をお借りします。」
後ろでむすくれていた桜庭は、急に俺の首襟をグイっと引っ張ると、そのまま神童の部屋を飛び出し、
長い廊下を俺をつかんだまま、走っていた。
「な、なな、なにを…!?」
「ええから、黙っとれ。今からお前に、礼儀っちゅうもんを教えたる。覚悟しとれよ…?」
ここでの生活、二日目。
少し、判断を変えるべきだったかな…と後悔する朝のことだったー…。