第四話 「侍女長」
律花の話によれば、同じ高校に通っていた俺が昔(といっても会った覚えはないが)
いじめられていた神童を、助けていたという。
まあ、確かに覚えがなくてもしょうがない。俺の記憶は勉強とか以外はどこかに
メモをしておかないと、すぐに忘れているのだから。
だから今まで自分が何をしていたのかも覚えていなかった。
だが、衝撃が強かったのか今日のことははっきり覚えている。そりゃそうだ。
いきなり拉致されたり、仕事場が変わってしまったのだから。
「今から君には、共に鏡華様のお世話をする侍女長に会ってもらう。来てくれ」
「あ…ああ。」
長い廊下を律花先頭に進む。
廊下を見ると俺と律花しか歩いていない。まるで他の人間は消えてしまったかのように静かだった。
着いた所は大きなドアの目の前。
そのドアを律花が開けると廊下に射し込む光よりも、明るい日差しが入った。
「侍女長。新人が来た。挨拶を頼む。」
律花の声に気づいた人物は座っていた椅子から腰を上げ、
こちらまで来た。
「新人さん?ああ、鏡華お嬢さまの推薦で入った…」
「慧花。その話は機密事項だ。」
慧花という女性は、俺の目の前で制服のスカートをつまみ、まるでお姫様のような振る舞いで
自己紹介をした。
「私は桜庭慧花。姉さんにはもう会ったかしら?あの人、本来の業務を投げ出してまで
執事長になったのよ。」
「姉さん…?」
「慧花。」
律花は少し苛苛しているようだ。
「ああ、ごめんなさい律花。じゃ、これから細かく仕事の事を教えるわね。」