第一話 「雨傘流麗」
なんなんだこの状態は。正直夢じゃないかと思う。
俺が採用されたバイトはこんなところではなかったはず。
そんなはずなのに、こんなだだっ広い見知らぬ家の中にいて今、目の前にはパジャマ姿のまま
顔を赤くする女とその目の前で跪く男がいる。
もう訳が分からない。
立ったまま放心している俺に向かって男のほうは怒鳴っている。その関西弁の口調からして、関西人のようだ。
…言うのが遅れたが、俺は雨傘流麗。
普通な男子高校生であり、一般人だ。
そんな俺が何故、こんなところにいる?
あれは一日前。
友人の紹介でコンビニの面接を受けに会場に向かった俺はそこで、このふたりに出会った。
女は俺に気づくと、うしろの男と一緒にこちらに来た。
「こんにちは。面接を受けにきたのですか?」
「あ…はい、そうですけど。」
あきらかに年下な彼女の大人びた話し方にこちらまで敬語をつかってしまった。
「そうですか。私は神童鏡華といいます。どうぞ、宜しく雨傘さん。」
「あどうも…宜しく…?」
ちょっと待てよ?なんで俺の名前を知っているんだ?
俺は何で自分の名前を知っているのか、聞こうとしたがそれはもう遅く、彼女は男とともに
消えてしまったのだ。
そして今日。
面接に受かった俺は、バイト先に向かっている最中だった。
その時。俺の目の前に一台の車ー…それもかなり豪華そうなーが止まり、
俺を二人の巨漢が車の中に押しやり……今に至る。
これから始まるのは、普通な高校生の日常ではなく、非日常的な一人の男の話である。