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ルームメイトが幽霊で、座敷童。  作者: 巫 夏希
ドイツ・猿の手編
87/212

催眠の術式と深夜一時(後編)


 碧さんの言葉に俺は頷いた。頷かざるを得なかった。玉城さんが巫女さんを操っていたにしろ居なかったにしろ本人を探さねばそれを議論しても証拠がなくてはこっちの権限で逮捕は出来ても立件が出来ないだろーし。

 神事警察は基本的に一個人が様々な権利を持ち、その代わりに様々な義務を持つ。その権利の一つのあるのが『無証拠照合での逮捕』の許可だ。それが行った証拠が照合に時間がかかるものだとしたら、神事警察側の人間の信用に於いて逮捕してもよいというものだ。多少問題には残るが、これにより検挙率が大幅に上がった。

 つまり俺はこの時点で玉城さんを逮捕するのは不可能なのだ。『彼を犯人と決め付ける』証拠がないからである。


「……静かだな」

「そりゃ深夜の一時だからな? これがピーク時のパチンコ屋並みの煩さだったら寝りゃしないと思うがね」


 碧さんのその例えが良いのか悪いのかは別として確かにそうだ。だが……、それでも“静かすぎる”。

 普通、いくら深夜一時でも虫の奏でる音色とかときたまに車とかが走ってもいいものだが、今あるのは完全な無音状態だ。流石にこれは少しやべぇぞ。


「……なるほど。相当な強さの結界を敷いているのかな? だが強すぎて霊体には隠しきれない程の違和感が残っているけど」

「霊体には隠しきれない……?」

「結界って大体は『そこに近付けたくないから』貼るものだよね。まぁ、封印のもあるけどその辺はあまり考えないでおいて。……だから結界は『人が無意識に嫌がる周波数』の波を光速に近い速さでその範囲に出すためにソニックウェーブが発生するんだよね。それが霊体になれば結構敏感になるんさ。便利だよ、この身体。あんたもなったら?」


 遠慮しときます。


「……何か聞こえる」

「なんだって?」


 やっぱり霊体ってのはそーいうのも聞き取ってしまうのか。まるで地獄耳だな。


「こっちの部屋よ」


 碧さんはそう言って襖を開けて廊下の奥に向かった。俺は一応起こさないようにゆっくり歩いているが、もう大半の人が知ってるように碧さんは幽霊だから足はない。つまり超高速で無音走行することも理論上不可能ではない。だが碧さんはそんな性格ではないのか、非常にゆっくりと歩いて(?)いた。


「ここは……?」

「巫女さん二人が寝ていた部屋ね。物音が聞こえた気がしたけど、気のせいかしら?」

「……いや、ここならはっきりと俺にも聞こえる」


 なにか口論をしている二人の女性の声が襖を挟んで聞こえてくる。口論、というよりかは片方が一方的に話していて、もう片方がそれを否定したり、肯定したり、たまに長く話したり。……話のリードを取られてしまったように思えた。


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