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ルームメイトが幽霊で、座敷童。  作者: 巫 夏希
ドイツ・猿の手編
81/212

神社と油揚げと状況把握(中編)


 已む無く碧さん、祐希、俺、玲奈さんの四人は恵美さんが来る迄待つこととなった。しかし、なんと言うか十月のドイツは寒い。

 『冷たい』の語源は『爪が痛い』が訛って出来たものと聞いたことがあるがこの状況だとそれも頷ける。


「胎児だ」

「……何だって?」


 玲奈さんが急に口を開けたと思ったらいきなり謎の言葉を言い出した。さっきの詩にも関係したりするのか?


「……胎児はいつも怖がっている。それは……人為らざるモノであったとしたって、変わりはない」

「生まれたときは誰も怖い、って?」


 こくり。玲奈さんは小さく頷いた。


「……人は寒がりだ。必ず一人では生きていけない。誰かと必ずは対になって生きていく定めだ」


 定め、とは。結構大きく勇み足を出したものですね。


「胎児から人は成長した? 否、そんなものならとっくに人間は自らの深みに嵌まって死ぬに決まっている。まだ種が存続しているのは、つまりそういうことだ」


 ……何をおっしゃっているのかさっぱり解りませんが。


「……もしかしてこの子神遷かみうつしなんじゃないの?」

「神遷? 神憑きとは何か違うのか?」


 言葉だけ聞くと同じように思えるんだが。


「神憑きが“自己を保っている”ことに対して、神遷は“カミサマに精神が取り込まれている”ことを指すんだよ。まぁ、悪く言えば呪い?」

「カミサマを呪いって言うなよオイ」

「でも悪いカミサマだっているよ? カミサマ全てが善神だと思ったら大間違い。むしろいいカミサマの方が少ないんじゃない?」


 ふむ、そう言われると納得してしまう。

 ならば今玲奈さんに遷しているカミサマは善神なのか、悪神なのかが気になるポイントだ。もし後者なら少々厄介だな。


「もし後者ならカミサマに仕えてる神主さんが気付かない訳ないと思うがね。それにカミサマが一々別のカミサマがいる神社に行くものかな?」

「……それじゃ神遷でない、と?」

「そうとは限らない」


 ますます解らない。


「だが、神遷でない理由もない。……その胎児の夢がいい意味だ」

「胎児の夢?」

「あぁ、そうだ」

「たしか夢野久作の『ドグラ・マグラ』だったっけ? その中に発表された架空の論文」


 碧さんが会話に参加したということは、俺のBOCCHIが確定したことになる。大丈夫だ、もう慣れた。


「……架空の論文。オカルトに詳しくない人間はそう言うだろう。だがあれは後にカミサマと人間の共通項について論じたものとしてオカルト界の学会では正式な論文として認められている。……僕が言いたいのはそういうことだ」


 つまり、何が言いたいんだ。会話が高次元過ぎてちんぷんかんぷんだぞ。


「……つまり、カミサマは胎児から変わらない存在で、裏を返せば胎児はカミサマであるともいえるんだ」


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