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ルームメイトが幽霊で、座敷童。  作者: 巫 夏希
最終章・百鬼夜行編
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【最終話】暗黒の世界と月の神

 なんか誰かの言葉が聞こえたような気がするけど……俺はそれを気にせずに走った。そうでもしないと間に合わないかもしれないからだ。碧さんに何かあったら俺はどうすればいいんだ。碧さんはがめつくて業突張りで厄介なルームメイトで幽霊で座敷童でカミサマだけど……それでも。

 俺の大切な存在であることには変わりない。

 俺が大好きな存在だということには変わりない。

 幽霊でもカミサマでも座敷童でも……そんなことどうだっていい。

 そうだよ、そうだったんだ。

 俺は碧さんのことが――大好きだったんじゃないか。


「碧さああああああああああん!!」


 俺は名前を呼んで、ただひたすら走る。

 森の奥へと続く道は、まだまだ先が長い。



◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇◇ ◇



 ツクヨミと私――アマテラスの戦争(たたかい)は窮地を迎えていた。考えても見て欲しい。私は姉だ。ツクヨミよりもスサノオよりも、高い存在にある。そんな私が負けるはずがない――。

 それは、ただの驕りだった。カミサマ同士の戦いで、そんな甘いことが起きるはずがなかったのだ。


「……姉ちゃん、弱くなったね」


 私の腕からは、赤い血が滴り落ちていた。

 今、私を包み込むのは。

 暗黒。

 漆黒。

 暗闇。

 なんと表現すればいいのか、解らない。ただ、黒が広がっていた。視界のどこを見渡しても光が見えない、そんな空間だ。その空間にツクヨミの声だけが響いている。なんとも不気味な空間だ。


「どうだい、姉ちゃん。この空間の居心地は」

「最悪だよ。こんなことをする弟がこの世界にいるとは思いもしなかった」

「へへへ。そう言ってもらえると嬉しいね」


 狂っている。ツクヨミは狂っていた。かといって誰かに操られている様子も見られない。ということは……。


「疑り深いなあ、姉ちゃんは」


 その時だった。

 私の背後から手が伸びた。そしてその手は私の首をがちりと固定する。それはツクヨミではなかった。

 闇だ。

 闇が私の首を絞めていたのだ。


「う……ぐ……」

「姉ちゃんが悪いんだよ。姉ちゃんが突然『広い世界が見たい』なんて言い出すから。結局そういうカミサマとしての力、姉ちゃんが持つ『天候操作(ウェザーコントロール)』の力、それをオオヤシマが管理することになったんだから。大変なんだよ? あれを操作するのも。大雨が続くところには日照りを与え、日照りが続くところには雨を与える。人々はそれさえあれば『カミサマを信じてくれたから』と喜んでいたものさ。だけど、今はどうかな? 僕たちを信じてくれているのかな? 昔と比べると、やっぱり違うだろうね。だって姉ちゃんみたいにそんな『荒れた』カミサマが出るわけないもんね。カミサマは皆静謐な存在でなくてはならない。清らかな存在でなくてはならない! オオヤシマでイザナギが言ったあの言葉、忘れたとは言わせないよ」

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