資料と座敷童と意見交換(前編)
信楽さんが話を終えると、雰囲気は何処と無くしんみりとした感じになってしまった。返す言葉が見つからない、とはこの事を言うのだろうなと思った。
「……なんだか変な雰囲気にさせてしまったようで済まない」
「いや、大丈夫です。ところで、その……」
俺はここに来た目的を、まだ忘れてはなかった。
姉ちゃんから、頼まれた事があったからだ。
「……そうだった。彼女から聞いているよ。『ホープダイヤモンド・ゲーム』の詳細資料を君に渡すようにと言われていたんだ」
「資料なら、神事警察にもありますよ?」
「違うんだ。あの事件は僕が“視た”。そしてハイパーリファインをまず家宅捜索したから見つかったというもの」
「待ってください。あんなに人が死んだのに?」
信楽さんの言葉に俺は少しだけ突っかかるところがあった。それは、そう。ちょうど今言われたところだ。
今、信楽さんは『家宅捜索をしたことで』漸く判明した、と言った。あんなに死者が出たのに、それでは矛盾が生じないだろうか?
「……君は『ホープダイヤモンド・ゲーム』がどんなゲームか解るかい」
「一人のプログラマーによって作られたゲームで、『呪いのゲーム』と後に言われる程に死者も発生した、と……しか」
「よろしい。神事警察の資料はそれくらいしか無かった筈だからね」
つまり、何が言いたいんだろう。
「『ホープダイヤモンド・ゲーム』は所謂仮想現実を使ったゲームだった。とはいえ、精神そのものをダイブさせたわけではなく、付属のカメラで写真を撮り、それを加工してアバター化してそれを用いるんだけどね。ところで君、こんなこと聞いたことない?」
「……なんですか?」
「“写真を撮ると魂が吸い取られる”ってこと」
「あぁ。聞いたことありますよ。でもそんなものは迷信でしょう? なんでもカメラが普及する前に強いフラッシュで驚いてしまうから……だとか」
それを言うことすら笑っちゃうくらいではあるけれど。
「……と、表では結論がついた。しかし裏の世界では? どうだったんだろうな?」
「それが本当にある現象だと?」
「あぁ」信楽さんは大きく頷いた。「……まぁ、あくまでも様々な条件が合致しないと発生しない。非常にレアな物だがね」
「そんなこと有り得るんですか」
だって、そんなこと有り得ないだろう。
写真を撮ると魂が吸い取られる? そんなことを大々的に発表すればカメラ業界は大打撃を受けることになる。猛反発を受けるに違いない。
だから、オカルト側も発表を渋ったのだろうか。経済的にダメージを受ける発表だ。……政府が許す訳もない。
「……付属のカメラ。これが重要なんだよ。君、エクトプラズムって知ってる?」
「えぇ、もううんざりする程に」
少なくとも三回は聞かれているからな。
信楽さんはその言葉に少し首を傾げながらも、「そうか」と一言言って話を続けた。
「……まぁいいか。エクトプラズムはな、人工的に発生させることを可能としたんだ。その技術をそのカメラに内蔵させていた。写真を撮れば……魂と身体が分離するように仕掛けたわけだ」




