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ルームメイトが幽霊で、座敷童。  作者: 巫 夏希
ドイツ・猿の手編
124/212

視点A:瀬谷理斗の場合 -肆-


「……久しぶりですね、瀬谷理斗」

「なんであんたがここにいるんだ……!」


 そこには――まるで人形のような整った顔立ちの少女がいた。眉はきりりと透き通る程の白い肌に画一された一本の線として存在し、目は水色で吸い込まれそうな錯覚を覚える程綺麗で、かつ鼻もその顔に存在感を示すかのごとく高く聳えていた。

 金髪で、身長も俺より二十センチ程高く、リクルートスーツに身を包んだ彼女は――かつて俺に繰り返しの世界を見せた人間だ。

 鈴倉ヴォギーニャ。それが彼女の名前だった。


「人がせっかく助けに来たのにその態度はないでしょう」


 ヴォギーニャは溜め息をつきつつも、俺の傍にあるパソコンを操作していく。

 それから俺のロックを解除するのに数秒とかからなかった。


「……やはり『ソドム・ゴモラ』時代とパスワード形式は同じ、ですか……。まったく、こういうところが抜けているのに」


 ヴォギーニャはまた溜め息をついた。そして俺の目の前に立った。


「――どうした? もうロックは外れたはずだ。電子の身体を持つお前ならば、自由に巡れることだろうが」


 確かに、今は少しだけ身体が軽い。電子の身体――ならば、実体は何処に行ったのだろうか?


「実体は恐らく研究個体として保管されているはずだ。……まったく、翠名創理め。普通に研究者としていればよかったものを……」

「……やはり、元はソドム・ゴモラの人間だったのか」

「もっと言うなら、奴は分裂した『フォービデン・アップル』のメンバーよ。創立メンバー……ではなかったかな」

「分裂?」

「ソドム・ゴモラには日本に進出したが、巫女によって倒された。日本進出には元から反対派が多くてね。倒されてしまい、その反対派のメンバーが抜けて形成したのが『フォービデン・アップル』だ。彼らはある計画を信念としていた。それが……翠名創理を利用した“現人神計画あらひとかみけいかく”だ」

「ヒトをカミにするというのか……」

「そこまで詳しくは知らないけど、その計画の初期構想は昔のソドム・ゴモラにもあった。ヒトがカミになるのはそう難しくない。……二年前みたいに『カミサマの力を取り込む』とかすりゃいいんだから。でも、プロセスってのは大事でね。ひとつひとつ段階を置いてから遂行してかないとカミサマにはなれない」


 ヴォギーニャはそう言って部屋の電子ロックを解除した。ここまで来れば後は身体を取り戻すだけだ……!

 だが、まだヴォギーニャの話は続く。


「カミサマってのは人々の信仰心と、カミサマ自身がその慈悲を恵んでやれるか。そのバランスの元に成り立ってる。そのバランスが崩れれば……、ヒトから為ったカミサマはヒトに戻るし、純粋なカミサマは消えてしまうんだ。人々の心の弱い場所を救うのがカミサマだ。その人々に忘れ去られれば、カミサマの存在意義というものが無くなってしまう」


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