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TRUE LOVE  作者: shion
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第一章 出逢い (3)

 私はカノン達と別れて家路へと向かっていた。

 駅から自宅までの帰り道の途中に、大きな川がある。

 その川に掛かった橋の真ん中辺りで私は佇んでいた。

 闇の中で川面がキラキラと輝いている。それを見てフーッとため息をつく。

 水を見てると心が落ち着く・・・

 カノンと大悟さんの優しさに、心がチクリと痛む。二人は責めるどころか一切問いただしたりもしなかった。

 ありがとう・・・こんな私の友達でいてくれて・・・心の中でそっとつぶやいた。

 

 私は自分がキライだ。

 自分に自信なんか何ひとつ無いし、自分のこと、全然愛せない。

 自分を愛せない人間が、他人を愛せる訳なんてたぶん無いのだろう。

 いつもこの人なら、と思って付き合いを始めるのに、結局余計に落ち込む結果を招いてしまう。他力本願なのかも知れないが、誰かを愛する事で自分も変わりたかったのかもしれない。その人ときちんと向き合う事で、

 自分自身ともちゃんと向き合える様な気がしていたのだ。

 だけど結果は、人を真剣に愛する事が出来ない自分を突きつけられるばかりだった。

 心が萎えていく自分を、どうしても止める事が出来なかった。

 考えてみれば、結婚を考えられない自分が誰かと付き合うなんて事事態、してはいけないのかもしれない・・・

 

『所詮君は誰も愛せないんだろ・・・』

 彼の言葉を思い出す。

 

「その通りだよ。だって自分さえも、愛してあげられないんだもん・・・」

 私は一人つぶやいた。

 そしてしばらくボーっと川面を眺めていた。

 

「おじょ~ぉさん!」

 ふいに、誰かが後ろから抱き付いてきた。

 何?!何なの?!

 私はあせった。

「なっ、なっ・・・・」

 突然の出来事に対する恐怖と驚きで、上手く言葉が出ない。

 ボーっとしていて人の気配に全く気付かなかったんだ。

 

「こんな所に一人で居ないでおじさんとあそぼ~よ~。やさしくするよ~~。」

 

 何とか振り返って見て見ると、その男は50代ぐらいのオヤジだった。

 私は何とかその腕を振り払おうとしたけど、酔ってベロンベロンらしく、オヤジが全部体重をかけてくるので橋の手すりとオヤジに挟まれる

 格好になって、身動きできない。

 ハゲ上がった頭に油ギッシュな顔、酒臭い息・・・

 どうしよう・・・心臓が激しく波打っている。

 

「やめて、離してよ・・ちょっと・・・」

 

 抜け出したいのに体が硬直して、上手く動かない。

「おじょ~さん美人だね~。おじさんといいコトしようよ~。いくら~?お金なら持ってるよ~。」

 そう言ってオヤジが、洋服の上から胸の辺りをまさぐっている。

「きゃぁぁ・・・」

 叫びともならない叫び声を挙げたその時、

 

「オイ!やめろよ!」

 

 誰かの声がした。

 ‘‘助かった‘‘と私は思った。

「ん~?なんだぁ~おめぇ~。かわいコちゃんの前だからって、カッコつけんじゃねーぞ~。」

 オヤジが誰かに気を取られた隙に私はオヤジの手から逃れた。

 そこには、20代後半ぐらいのスーツ姿の男の人が立っていた。

 オヤジはその人に殴り掛かろうとした。しかしベロンベロンに酔っているのでそんなパンチなどすぐに交わされてしまった。そして勢い良くそのままスッ転んだ。

「イッテ~!ヤリあがったな~」

 尚もオヤジはその人に掛かっていく。

 

「いい加減にしろ!いい歳こいて!何ならケーサツ呼んだって構わないぜ。俺は全部見てたからな。お前がやってた事、証言してやる!!」

 

 その人は強い口調で言った。

 

「なんだよ!ちきしょ~!!おぼえてろ~!」

 オヤジはあまりにもお決まりな捨て台詞を吐いて、おぼつかぬ足取りで去っていった。

 

 

 

「大丈夫か?」

 

 私はブルブル震えながら地べたに座り込んでいた。

 その人は私を覗き込んでいる。

 面長な顔立ちにキリッとした眉、あまり彫りの深くないスッキリとした目元、やけに印象的な・・・そう、言うなれば

 力のある瞳、存在感のある大きめの唇・・・

 少し長めの前髪が風に揺れている。

 私はその人をまじまじと見つめた。

 

 ・・・なんて優しそうな人だろう・・・

 

 彼の全てが、全然知らない人なのに彼を彩る全てが、私を安心させた。

 緊張の糸が一気に切れてしまった私は泣き出してしまった。

 

「大丈夫、アイツはもう、居ないから。怖かったんだな。」

 

 甘い声でささやく様にそう言って、彼は私を軽く抱き寄せ、

 背中をトントンと優しく叩いた。

「すみません、見ず知らずの人なのに・・・私、もうどうしようかって思って・・・

 怖くて・・・ありがとう。本当にありがとうございます・・・」

 彼の肩の辺りに顔をうずめながらそう言った。本当に感謝したい。

 この人が居なかったらどうなっていたんだろう・・・考えるだけで恐ろしい。

 

 

「腰抜かしちゃってるみたいだけど、立てる?」

 しばらくして彼が私の腕を優しく引いてくれた。

「はい、すみません・・・」

 何とか立ち上がったけど、まだ足がわなわなと震えている。

 

「女の人がこんな時間に一人でこんなとこに居ると、あぶねーぞ。」

 

 そっけない様な口調と甘い声でその人はそう言って、少し微笑んだ。

 その微笑みがあまりに魅力的で一瞬釘付けになりながらも、改めて彼のしてくれた事に私は感謝していた。

 

「すみません。本当にありがとうございました。何て言ったらいいか・・・。

 もし差し障り無ければ、お名前と連絡先、教えていただけませんか?助けて頂いたお礼がしたいんです・・・」

 すがるような思いで言った。

「いいよ、そんなの別に。お礼目当てで助けた訳じゃないから。」

 彼は静かな口調でそう言う。

「いえ、そんなこと言わずに・・・本当にお礼がしたいんです!でないと私の気が済みません!あっ、そうだ、私こういう者です。」

 私は震えの収まらない手で名刺を探すと、彼に渡した。

 彼はそれを受け取り、困った顔をしている。

 

 

 

 ◇            ◇           

 

 

 

 

 げっKビル・・・俺の会社の近くじゃねーか・・・

 別にあんま深く関わりたくねーんだけどな・・・

 隼人はやとは名刺を見てそう思った。

 受付嬢ね・・・どうりで美人だぜ・・・。

 氷川あおいと名乗るその女性は、すごくキレイだ。

 さっきだって土手下でボーっとしながら、一人佇む彼女の美しさに、実はちょっとだけ見取れていた。そしたら彼女がオヤジに襲われて・・・

 慌てて助けに向かっていた。

 

 だけど俺は女ってもんが大嫌いだ。イヤ、憎んでいる。

 この世で一番信用しちゃいけないもんだ、そう思っている。

 受付なんかやってる女なんて、どうせ高飛車で打算的で鼻持ちならないに決まってる・・・自分の美貌を武器に男をいいように利用して、もてあそんでるに違いない。

 今は助けてやったから素直でかわいらしい女を演じてるに過ぎない。

 裏っ側を見たらとんでもねぇってパターンの女だな・・・

 隼人は勝手な事を思っていた。

 

「どうかお願いします!お礼をさせてください。」

 

 尚も女は言う。その顔は、すごく必死だ。

 俺も関わりたくねーのに何で助けて優しくなんかしちまったんだろう・・・。

 隼人は少し自分をいさめた。

 ほっとけねーんだよな、俺って。悪事とか・・・

 

「お願いします!」

 

 彼女があんまりにも必死に言うから、足やなんかをガタガタ震わせながらも懸命に言うから、隼人はつい、「解ったよ。これ俺の名刺。携帯の番号も書いてあっから、いつでも電話してくれよ。」と言ってしまった。

 イヤだなと理性は言う。だけどこんな美人にすがられると、イヤと言えないのが男の本能ってもんだ。

 まぁ助けちまったんだ。俺が女でも、あーいう風になったらお礼すると思うし、しょーがねーよな・・・でも深く関わるのはよそう。

 隼人はそう思っていた。

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