第七章 心の行方 (4)
あおいは揺れていた。
隼人に愛を告白され、立っていられない位嬉しかった。
でも、それに舞い上がる事は出来なかった。
彼の告白を、そんな薄っぺらい感情で受け止めちゃいけないと思った。
そういう人じゃない。もっと本気で・・・心から向き合わなくてはいけない人。
それが出来ないのなら、途中で放り出す位なら、向き合ってはいけない人。
勢いだけでは、付き合えない人。
隼人に惹かれている、それは事実・・・だけど・・・
私なんかが解ってあげられるのだろうか。
彼を失望させずに、いられるのだろうか。
逃げ出さずに、きちんと彼と向き合えるんだろうか・・・
大体結婚を考えられない私が、誰かと付き合うなんて事自体考えちゃいけない気がする・・・
その思いが、あおいを隼人に踏み込めなくさせていた。
それに、私なんかのどこがいいんだろう・・・
私のどこがよくて、彼はあんな風に言ってくれたんだろう・・・
自分に自信の無いあおいは、そう思っていた。
自分に自信がないせいで、いつも先へ進めない。
こんな自分を、何とかしたかった。
こんな自分が、たまらなくイヤだった。
あおいは隼人を想った。
隼人は部屋に戻り、煙草をふかしていた。
『隼人さんの気持ち、すごく嬉しい。でもごめんなさい。今は返事できない。』
あおいの言葉を思い出す。
真剣に考えてくれているのだろう・・・
あおいはそういう人だ。そういうところに惹かれたのだ。
たとえあおいが断ってきても、もう憎むとか、やっぱり女なんてとか、そんな風には思わない。この想いは変わらない。
だけど、出来れば俺を受け入れて欲しい。
そして愛して欲しい・・・。
彼女が見せてくれたものは、自分に与えてくれたものはとても大きい。
彼女に出逢っていなければ、こんなに深い想いを知る事はなかっただろう。
こんなにも深く誰かを愛せる自分に、出逢う事はなかっただろう・・・
ずっと女を憎み続けたまま、生きていった事だろう・・・
隼人はため息をついた。
だいたい自分が本気で愛した相手が、同じように自分を愛してくれるなんて、奇跡に近いよな・・・。
相手の好きな人が自分だなんて、そんな都合のいい事、ありえねーよな・・・
隼人は、切なさと不安を抱えながら、あおいを想っていた。
「あおい~どーしちゃったの?」
悦子はぼやいた。
ここ数日、あおいは元気がない。何を言っても上の空だ。
ちょっと前までは、すごく明るくて元気だったのに・・・
悦子は腑に落ちない。
「何でもないよ・・・」
いつもその言葉で終わってしまう。
「行って来るよ。」
三上が通る。
「いってらっしゃい!」
明るく言葉を返す。いつもは冷やかしてくるのに、やっぱりあおいはテンションが
ひくい。
「もうあおい!ほんとどうしちゃったの?あの彼とケンカでもしたの?」
悦子はしびれを切らしていった。
「そういうんじゃないよ・・・」
「じゃあ何?」
「うん・・・悦子はいつも元気がいいね。そこが悦子のいいところだよ。」
そう、そこが悦子のいいところ・・・じゃあ、私のいいところってどこ?何?
隼人さんは、私なんかのどこがいいんだろう・・・
あおいは考えていた。
「なんじゃそれ?」
「なんだろね・・・」
そこを、近藤が通った。
あの夜からしばらくは、ツンと知らん振りして通り過ぎていた。
その後は、カノンの事があって忙しくて彼どころではなかった。
だけど、最近の近藤は、通る時必ずあいさつをしてくれる。
「どうも。」
「いってらっしゃいませ。」
こんな風に言葉をかわせるようになった。
私の事を許してくれたのね・・・よかった・・・
彼を傷つけてしまったことが、あおいはずっと気になっていた。
全部私が悪いんだもんね。恨まれたってしょうがないよ・・・
そう思っていたのに、彼は軽く笑顔で通り過ぎていく。
紳士的ともいえる彼のその笑顔と態度に、罪悪感が薄らいでいく。
彼の傷が癒えた事に、彼の心の広さに、心から安堵し、感謝するあおいだった。




