第六章 明けない夜 (4)
「何なの!あおい!どういう事なの?ちゃんと説明してよ!」
カノンは食って掛かった。
「ちゃんと説明するから。だから、とにかく落ち着いて。」
「落ち着けって・・・!」
「カノン!!」
あおいは大きな声でカノンを制した。そして、ハァーと息をひとつ吐いて、決意したように話し出した。
「カノン、今から全部話すから。すごく、大変な話するよ。」
「うん。」
「その前に、約束して欲しい。たとえどんな事聞いても、最後まで冷静に話を聞くって。」
「うん・・・」
「できる?」
あおいの表情はこわばっていて、そしてかたい。
「でき・・・る。」
「じゃあまず深呼吸して・・・」
カノンはそれに従った。
しばらくして、あおいは語りだした。
「あのね、カノンが大悟さんにフラれたって言ってうちに泊まった次の日、私大悟さんに会ったの。でしゃばるようでヤだったけど、どうしても彼があんたを捨てるなんて信じられなくて・・・。何か訳があるんだったら話して欲しいって言ったわ。そしたら彼・・・」
「彼、なんて?」
「彼ね、ストーカーにあってたらしいの。」
「ストーカーに?」
「うん。彼ね、4年も前にその人の被害にあってて毎日すごかったらしいの。
それでね、その女が一度だけ一緒に過ごしてもらえたら、それで諦めるって言ったらしいの。だから彼は、その言葉を信じてドライブに行ったそうよ。
そしたらその途中で、運悪く飲酒運転の車が二人を乗せた車に突っ込んできて・・・
彼女にケガを負わせてしまったんですって。今でも左足に少し障害が残っているそうよ。」
「それで?」
「うん、その事故が元で、彼女の親がすごく怒って・・・彼、自分が悪いわけじゃないのに何度も彼女の家にあやまりに訪ねていったらしいんだけど、父親の方が娘には会わせないって言って、会えなかったって。
でも、その人の母親が彼に言ったそうよ。
娘がやっていた事は知っている。あの子があなたにやっていた事は普通じゃなかった。この事故がいい機会だからあの子の前から姿を消して欲しいって。あの子はあなたを追いかけても決して報われないからって。
それで彼はその街を出たそうよ。そして、何事もなく月日は過ぎて、カノンに出逢った。
ところが最近、彼女が彼を探し出して、また付きまとうようになった。
カノンと一緒にいるとこも見てたらしくって・・・カノンと別れなきゃ、カノンを殺してやるって大悟さんに言ったそうよ。実際、彼の留守中に家に入られて、あんたの写真と洋服、全部切り裂かれてたって。
だから彼、仕方なくて・・・カノンをそんな狂った女から守るために・・・カノンと別れたの。あんたを守るためだから、あんたに恨まれてた方がちょうどいいって・・・私はカノンに話したらって言ったけど、彼、頑として譲らなかった。そして私はそれに従った。」
あおいは一気に話して聞かせた。
「そんな・・・そんな事ってある?そんな女、許せない!あたしが行って、その女と話しつけてやるわ!」
「カノン、あんたなら絶対そう言うと思った。だから、大悟さんと私は、あんたには絶対黙っとこうって決めたの。」
「ひどいよ!なんで?二人ともそうやって、あたしをだましてたのね!こんなのウラギリだよ。ひどいよ・・・あおいまでそ知らぬ顔して・・・信じてたのに!」
カノンはそう言って泣き出した。
「私がカノンをあざむいて、平気だったと思う?辛くなかったと思う?
ほんとに心が痛まなかったと思う?私だってこんな事したくなかった・・・
でも、あんたを守るためにはしょうがなかったんだよ。
私も大悟さんも、なんとしてもあんたを守りたかった。
電話は盗聴されてるし、どこで見てるかわかんないし、あんたを殺すって脅かして、あんたの写真まで切っちゃうような女だよ。
4年も追いかけてきてるような女だよ。大悟さん、絶対あんたをチラ付かせちゃいけないって、だったら他の女に乗り換えたと思われてるほうが都合がいいって・・・そこまで決心してまで、あんたを守りたかったんだよ。私だって同じ。あんたを一番よく知る私達だから、心を鬼にしてそうしたの。それ位、相手の女は恐ろしいヤツなんだよ・・・」
いつの間にか、あおいも涙が溢れていた。
「あおい・・・」
カノンが泣きながらあおいに抱きついてきた。
「平気なわけないじゃん・・・私達、親友だよ・・・だからこそ、絶対守りたかった・・・
あんたの心を傷付けても、絶対守りたかった・・・」
「あおい・・・ごめん・・・」
「大悟さんは、カノンの事本気で愛してるよ、今も。何も変わってない。彼が一番辛かったんだよ・・・あんたを愛してるから、あんたを守るために、傷付けるしか、なかったんだから・・・」
二人は、わんわん泣いた。
ひとしきり泣いて、落ち着いた後、カノンが話し始めた。
「でも・・・一体どうしたらいいの・・・。彼、今もその女にストーカーされてるんでしょ?」
「うん。私、前に隼人っていうすごく失礼なヤツがいるって話したよね?」
「うん。」
「その人ね、法律事務所に勤めてて、今、すごく力になってくれてるの。法的手段も講じてるわ。」
「そうなんだ・・・。」
「でも、効果はイマイチなんだって。それに、相手の女が何か決定的なことでもしない限り、警察も何も出来ないんだって。」
「決定的なことって?」
「家に侵入したとこ現行犯でとか、相手を傷付けようとしたりとか・・・
そのストーカー、ギリギリのとこでやらないらしいのよ、決定的なことは。」
「そーなんだ・・・」
カノンが頬杖を付いている。
「こうなっちゃったから言うけど、大悟さん、すごく苦しんでるよ。カノンを守りたい一心だったんだ・・・だから、彼を責めないで上げてね。」
「うん・・・」
カノンがすごく切ない涙を流した。
「私、何も出来ないのかな・・・彼に会う事も許されないんでしょ?」
「そうだね。そんな事したら、何されるかわかんない。それに、そしたら大悟さんが、あんたのためを思ってやった事、全部無駄になっちゃう。」
「うん・・・」
「とりあえず、電話してやりなよ。すごく心配してるだろうから。一回位大丈夫だよ、きっと。」
「そうする。」
「もしもし大悟?」
「うん。」
「あおいから全部聞いた。ありがとね。あたしを守ってくれようとしたんだね。」
「うん、ごめんな、カノン。こうするしか、なかった。」
「いいよ。あたし、待ってる。何年かかっても、ずっと待ってる。」
「うん、ありがとう。俺、がんばれそう。」
「逢いたいな・・・」
「俺だって逢いたいよ。だけど今は・・」
「わかってる。電話もダメ・・・だよね。」
「うん。盗聴されてると、やばいしね。俺のほうから連絡するよ。カノン、ほんとに・・・絶対に俺の前に姿現さないって、約束してな。」
「うん・・・約束する。」
「絶対にだよ。」
「解ったわ・・・。」
「ありがとう。愛してるよ、カノン。」
「うん、私も・・・愛してる。」




