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TRUE LOVE  作者: shion
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第五章 苦悩 (4)

 あおいは事の全てを大まかに説明した。

 隼人は黙って聞いていたが、話が終わるとテキパキと指示を始めた。

 もともと自分のような子供達を助けたくて弁護士を目指していた。

 今でも勉強は続けている。だから、最近出来たこの法律に関しても、きちんとした知識があった。

 

「でも、法での規制には限界があるんだ。例えそれをやったとしても、効果があるかといえば、そうでもないのが現状なんだ・・・」

 

 仕事の話をする隼人はとても精悍で、そして頼りがいがあった。

 あおいは隼人の始めてみる一面に、少女のような戸惑いを覚えた。

 

「とにかく何とかしてあげたいの。だってあんまりでしょ?愛する人を守るために愛する人と別れなきゃいけないなんて。この現代の日本じゃ考えられない事だよね。」

 

 友人を守りたい、助けてあげたいというあおいの態度は真剣だ。

 俺が勝手に思いこんでいたのとは全然違う・・・

 まじめで思いやりのある子なんだな・・・

 隼人は心底力になってあげたいと思った。

 それが、傷付けてしまったあおいへの罪滅ぼしになるとも思っていた。

 でもそれはもう、自分の罪の意識から逃れたいとか、そういう感情ではなかった。

 もっと違う何かが、芽生え始めていた。

 でも今はその事に触れたくはなかった。

 

「とにかく一度、その大悟って人に会わせてくれよ。」

「うん、ごめんね、何だか・・・でもどうか力になってね。」

「ああ。とにかくあおいはその大悟って人とは二人だけでは絶対会うな。誤解されるとあぶねーから。カノンちゃんてのもだぜ。彼女は辛いだろうけどこの際しょうがねえ。

 4年も追っかけてきてんだ。

 どっちにしろ、フツーじゃねーからな、その女。」

「うん・・・」

 

 

 

 あおいはこれからしばらくカノンを欺かなければならない事を思うと、憂鬱になった。

 ああは言ったものの、本当に黙ってなければいけない事なんだろうか・・・そうも思う。

 大悟の独りよがりな結論な気もする。

 だけど、その根底にあるものはカノンを守りたいという強い思い。

 カノンに対する深い深い愛・・・。

 

 ・・・絶対バレちゃいけない・・・

 

 大悟の気持ちを思うとそう思う。

 

 大悟さんが覚悟して、決めた事なんだもの・・・

 私だって、カノンを守りたい気持ちは、同じだもの・・・。

 心の中に広がる言い知れぬ不安な気持ちを振り払い、あおいは覚悟を決めた。

 

 

 

 あおいは隼人と別れて急いで家路に着いた。

 

「ただいま。」

「もう!おそかったじゃん。」

 カノンが少しすねてみせる。

「ごめん、ごめん。どうしても断れない用事が出来ちゃってさ・・・。ハゲづらオヤジ達とご飯食べてきちゃった。」

「ふーん。」

 

 あおいはカノンにウソをついた。心が痛んだ。

 ごめん、カノン。でも今はしょうがないの・・・。

 意外とサラリとウソを言ってしまえた自分にも、少し驚いていた。

 

「電話してみよっかな・・・。」

 カノンが夕食に作ったチャーハンをつまみながらポツリと言った。

 あおいはギクッとした。

 

 ダメだよ・・・今は彼に近付いちゃいけない・・・。

 

 だけどどういう風にしてカノンを大悟から遠ざければいいのか、このカノンの傷ついた心に、大悟の置かれた苦しい状況に、どうフォローすればいいのか、あおいには全く解らなかった。

 

 

 

 

 

 

 カノンを欺きながらの生活は、一ヶ月以上が過ぎた。

 その後は、隼人が大悟と直接会って対策を練ったり話をしたりしている。

 あおいはその報告を、電話や昼休みを利用して隼人から受ける、といった感じだった。

 その間、あおいはカノンを大悟に会わせないようにする為に、ほとんど毎日カノンと一緒に過ごしていた。

 

「あいつ、電話もよこさない・・・」

 不意にカノンがつぶやいた。

 今日はカノンの家に泊まりにきていた。

「ほんとはね、少し期待してたんだ・・・そのうち、やっぱりお前がいいって戻ってきてくれるんじゃないかってね・・・。バカだね、私・・・」

 カノンの切なそうな言葉に、あおいは胸が引き裂かれそうだった。

 愛し合う二人を自分の一方的な想いでこんな風に引き裂くなんて・・・

 大悟にストーカーしている女を、つくづく憎いと思った。

 どうにも手立てがないこの現状が、本当にもどかしかった。

 

 カノンが弱音を吐けば吐くほどあおいの心は揺れた。

 いっそのこと全部ブチまけてしまいたい。その方がいいのかもと思う事もある。

 それで対策を考えれば・・・だけどその女がカノンを見つけてしまったら、逆上して何をするかわからない・・・そんな事だけは、絶対あっちゃいけない。

 大悟さんがこんなにもカノンを傷付けてまでも、守りたかったんだ。

 そこまで突き放しても守りたかったんだ・・・。

 その想いを無駄にするわけにはいかない。

 なんとしてもカノンを守らなければ・・・結局はそこに行き当たって、あおいは複雑な思いをかみ締めるしかなかった。

 

「わかるよ。カノンのそういう気持ち・・・」

「わたしもう、みっともなくてもいいから、あいつに会って見ようかな・・・。

 電話でもいい。会いたい。声が聞きたい。もう一度付き合ってって、泣いてすがっちゃおうかな・・・。」

 カノンが傷付いた眼をして言う。

「やめなよ・・・そんな、傷をえぐるような事。」

 あおいはそう言うしかなかった。

「あおいはさあ、あいつがやっぱりそういう奴なんだって思ってる?

 あたしは選ばれなかった・・・平気で裏切る奴だ・・・そう思ってる?」

 カノンの言葉にあおいは返す言葉をさがした。

 そうじゃない、そうじゃないけど・・・喉元まで言いかけてしまう。

「結局その人の気持ちなんて、本人じゃなきゃわかんないからね・・・。人っていろんな面持ってるし・・・」

 その思いを押し殺して、違う言葉を並べた。

「前のあおいなら絶対そんな事無いって言ってくれたのにね。もう、ほんとにダメなんだね・・・」

 

 もう全部打明けたい。こんなのあんまりだ・・・あおいは心が痛かった。

 自分の勝手な想い込みだけで相手に付きまとうストーカー。

 そんな身勝手な愛情がまかり通るというのなら、カノンのこの純粋な想いこそ抱き続けていいものだ。それを許されるべきものだ。

 誰を愛するのも自由というのなら、この純粋な想いほど貫いていいものはない。

 あおいは心からそう思った。

 思ったところで口には出来ないのだけれど。ヘタに気を持たせるわけにはいかないのだから。

 そんな自分がたまらなくもどかしくて、落ち込むばかりのあおいだった。

 

「私がずっと側に居るから。がんばろう、カノン・・・」

 何だかやつれて小さくなってしまったカノンを、あおいはそっと抱きしめた。

 

 

 

 

 

 隼人は大悟と会っていた。

 一応法的な措置を取る事にしていたのでその申請が受理された報告と、最近の現状を聞くためだ。

 二人は何度も会っていた。隼人の抱く大悟の印象は、本当に優しくて思いやりがあってそれでいて男らしい・・・そんな感じだった。

 カノンを守るためにいさぎよく別れたんだから。

 自分とは全然違うタイプの人間だが気は合っている。

 最初は仕事上の付き合いだったが今は、1友人として話せる間柄になっていた。

 

「で、今日は?」

 隼人は気さくに話した。

「ああ、会社の前で立ってたよ、恐ろしい笑みを浮かべて・・・。昨日も帰ったら、

 何十件て留守電入ってて・・・あなたは私が幸せにしてあげるだの、なんだのって・・・

 恐ろしい内容てんこもりだったよ。行動だってどこまで見てんだか今食べてたパスタは美味しかったかだのってメールすぐに送ってきて・・・

 とにかく頭がおかしくなりそうだよ。」

 大悟は大きくうなだれた。

「ったく、どうしようもねーな・・・」

「もう、呼び止めて言ってやりたいよ、思いっきり・・・」

「それだけはダメだ。逆上させるのが一番良くないんだ。

 行方くらましたり電話番号変えたり・・・余計ムキになっちまうからな。

 4年前も、相手の親が言った事とはいえ、黙って姿くらましたから結局ムキになって探し出したんだろうから・・・」

「そうだよな・・・」

 大悟は余計に落ち込んでいた。

「あーあ・・・カノンに逢いてーな・・・泣いてんだろーな・・・」

 大悟はカノンを思った。

 確かにカノンも辛いだろうが一番辛いのはむしろ大悟だ。

 愛する人を守るため、愛する人を傷付けなければならなかったのだ。

 逢って思い切り抱きしめたい。なんて言われてもいいからもう一度愛し合いたい。

 あの笑顔を見つめていたい。可愛らしい声をずっと聞いていたい・・・

 とにかくカノンの全てが愛しかった。

 

「あおいが付きっきりでいるみてーだから、大丈夫だって。」

 隼人は、大した慰めにもならないだろうと思いながらもそう言った。

 あおいは自分と大悟と両方と連絡を取ってカノンの様子を伝えている。

 だから大悟もある程度のカノンの現状は把握しているのだろう。

『でも、泣いてばかりいるとはさすがに大悟さんには言えないよ・・・』

 あおいの言葉を思い出す。いつだかわざわざ深夜にうちまで来て辛そうに言っていた。

 あおいも本当の事は大悟には言えないらしい。

 その大悟にいえない部分を自分に話すという感じだった。

 隼人はその話を聞いているだけに、余計に大悟にかける言葉を見つけるのが大変だった。

 

 そんな事を思いながら何気に外に景色に眼をやると、一人の、言うなれば幽霊のような恐ろしい雰囲気の女が、こちらを見てニヤニヤ笑っているのが目に入った。

 

 あの女だ・・・

 

 隼人は確信した。

「なぁ、その女って、髪の長い女か?」

 隼人が大悟をジーッと見ていった。

「ああ。」

 大悟の顔色が変わる。

「いるぜ。そこに。」

 隼人は目線を外さずに大悟に言った。

 大悟は恐る恐る窓の外を見た。木の陰から半分だけ顔を出してニヤッとしている。

 大悟はそれを見て一瞬目を見開いたあと、ハァーとため息をついた。

「やっぱあいつか?」

「ああ・・・」

「行動は全て把握してますって事か・・・」

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