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TRUE LOVE  作者: shion
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第三章 追憶 (4)

 もうすぐ8歳になろうとしていた俺は、家の用事をできる事は全てやらされていた。

 そうじ、洗濯、買い出し・・・その他いろいろな雑用を、全てやらされていた。

 勝野という男は、初めのうちこそ昼頃出掛けて行ったりしていたが、だんだん

 家に居る事が多くなっていた。

 

 俺はその日も、言いつけられた掃除をしていた。

 勝野の腕時計がテーブルの上に置いてあったから、拭くのに邪魔だったからと

 どかしたつもりが、畳の上に落としてしまった。

 ゴトッ・・・俺はヒヤッとして、おそるおそる勝野を見た。

 

「おい!てめー俺の大事な時計、雑に扱いやがって!!」

 勝野はいきなり俺のすねの辺りを思い切り横から蹴り上げた。

 俺は足をすくわれそのまま倒れこんだ。

「ごっごめんなさい!」

 必死でそう言った。

「ったく、前々から気にいらねーんだよ、オメーは!シケたツラしあがって!!」

 そう言って倒れこんだ俺の背中やわき腹を、何度も何度も蹴り上げた。

 

 なんで俺は、こんな思いをしなければならないのだろう・・・

 

 痛みに耐えながら、そう思った。

 俺はぐったりとしてしまった。勝野はようやく動きを止めた。

 俺はホッとした。これで許してもらえる・・・

 だけどそれは違った。

 

 勝野は煙草に火をつけ、おもむろに俺の腕を掴み、その火を俺の手の甲に

 押し付けた。

「ぎゃーッ」

 俺は声を上げた。勝野は薄ら笑いを浮かべている。

「この手がワリーんだろ?お仕置きしてやんねーとな・・・」

 熱くて痛くて怖くて、俺はパニックになった。

「あついよー!やめてよー!」

 勝野は俺の手を掴んで離さない。そこへ、お袋が帰ってきた。

「お母さん助けてー!あついよー!」

 俺は必死で訴えた。

 

 きっと助けてくれる。あたしの子供に何するんだって言って俺を救ってくれる・・・

 

 そんなすがるような俺の思いは、今さら届くはずも無かった。

 お袋の目が怪しく光って、ニヤリとした。

「あんた、また何かやったのかい?」

 ニヤニヤしながらゆったりとした口調でお袋は言った。

 

 ウソだろ・・・お母さん・・・

 俺は自分の耳を疑った。

 

「コイツ俺の大事な腕時計壊しやがった。」

 勝野はおふくろに言う。

「壊してなんかない!落としちゃっただけだよ。」

 俺は必死になって言った。実際時計は壊れちゃいない。

「口答えするなんて生意気なガキだね!あんた、あたしにも貸してよ。」

 お袋はそう言うと、ニヤニヤしながら俺の手に、煙草の火を押し付けた。

 

 このままいたら殺される・・・俺はそう思った。

 だけど幼すぎた俺には、逃れる手立てなど考え付くはずも無かった。

 

 

 俺が一人で外で遊んでいると、数ヶ月前に隣の部屋に越してきたおばさんが

 声をかけてきた。

「隼人君、毎日すごい泣き声聞こえてくるけど、あんた大丈夫かい?」

 大柄で、少し太めのおばさんは優しい表情で俺を覗き込んだ。

「何かされてるのかい?あんた。」

 そう言って俺の手の甲のジクジクした傷に目をやった。

「あんたこれ・・・」

 おばさんの表情が一気にこわばる。

「誰にやられたんだい?一緒に住んでる男かい?それともお袋さんかい?」

 

 俺は黙ってうつむいた。幼いながらにも言ってはいけない気がしていた。

 生きる本能ってヤツが、言ってはダメだと言っていた。

 

「ひどいことするねぇ・・・」

 おばさんの目には涙が浮かんでいる。俺はそれを不思議な気持ちで見ていた。

 

 何で他人のこの人が、俺の為に泣くんだろう・・・

 実の母親のお母さんでさえ、俺をキズつけるだけだってのに・・・

 

 

 その日の夕方、おばさんは俺の家にやってきた。

 お袋が怪訝そうな表情で見ている。

「あんた!!一体この子に何してんだい?毎日すごい泣き声してるし、

 この子の体はアザだらけじゃないの!やけどまで負わせて!!」

 おばさんはすごい剣幕でお袋にまくし立てた。でも、お袋は平然とした顔で

「別に。ただこの子がちゃんとした大人になるように仕付けてるだけよ。」

 と言ってのけた。

「しつけってあんた!こんなに怪我させるまでやるのを、煙草の火を押し付けるのを、

 しつけっていうのかい?」

「あたしがしつけって言ったら、しつけなんだよ!人んちのことにいちいち

 口出しすんな!」

 お袋が下品な言葉を浴びせる。

「こんなの黙っちゃいらんないよ!ケーサツ呼ぶよ!」

 おばさんも引き下がらない。

 黙って聞いていた勝野が、おばさんの方へにじり寄った。

「さっきから聞いてりゃ勝手なこと抜かしやがって!あんまり余計なこと言うと

 ここに住めなくしてやるぞ!」

 おばさんは少しひるんだ。

「何言ってんだい!こんな事、許されると思ってんのかい?こんな幼い子に・・・」

「うるせーババア!これ以上とやかく言うと、ぶっ殺すぞ!」

 そう言って勝野はおばさんのむなぐらを掴み、いつの間にか持っていた包丁を

 おばさんの喉元につきつけた。勝野は異様な笑みを浮かべている。

 おばさんは、何も言わなくなった。

「この事近所に言い振りまわりやがったら、タダじゃおかねーからな!」

 勝野が去っていくおばさんに、そう言った。

 

 部屋の隅で震えながらそれを見ていた俺に、二人が近づいてきた。

 恐ろしい顔だ。恐ろしい・・・俺は、条件反射で謝っていた。

「ごっごめんなさい・・」

「てめぇこのガキ!ババアにチクリやがったな!」

 勝野が言う。

「言ってません、何も・・・」

 恐怖で体が凍りつき、動けない。

「言ってなけりゃ、あのババアがわざわざ言いに来るわけねーんだよ!」

 お袋が一緒になって俺の髪の毛を掴みながらそう言った。

 

 俺の居場所はどこにも無い・・・俺は殺される・・・俺はボコボコにされた。

 

 

 

 次の日、誰だか解らない位腫れあがった顔の俺を見て、おばさんが

「ごめんよ・・・」

 と涙を流した。

 

 俺は本能で察していたんだ。言ったらタダじゃ済まないと。

 だから学校でも極力そんなそぶりは見せなかったし、たまに傷を指摘されても

 転んだとウソをついていた。それに、学校は俺にとって何より安らぎの場だった。

 たまに、あまりに傷やアザがひどくなると、休まされる事はあったけど。

 

 どうしてお母さんは俺を愛してはくれないんだろう・・・

 どうしてこんなに傷付けるだけなんだろう・・・

 どうしてみんなのお母さんみたいに、優しくしてくれないんだろう・・・

 どうして俺は、ここにいるんだろう・・・

 こんな地獄が一体いつまで続くんだろう・・・と幼い日の俺は思っていた。

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