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TRUE LOVE  作者: shion
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第三章 追憶 (3)

 俺は何となく、あの女の事を考えていた。

 あの日、俺が傷付けてしまったあおいという女の事を。

 というか、自分のやってしまった行為自体に、すごく落ち込んでいた。

 俺のせいで傷付いてしまった誰かがいる・・・

 そう思うだけで、激しい罪悪感に襲われた。

 

 

 今年で29にもなるってのに、大人気ねーよな、俺・・・

 これじゃあアイツらと同じじゃねーか・・・

 

 いつも自分では解決したはずの過去に、何かあるたびに翻弄されてしまう・・・

 

 俺の心の傷は、この体に刻み付けられた傷よりも深く深く傷跡を残しているんだ。

 自分で思うよりずっと・・・

 そしてそれは、一生逃れられない呪縛のように、俺の心に絡み付いて、

 決して消える事はない・・・

 

 

 

 俺は父親ってモンを知らない。物心ついた時から母親と二人で暮らしていた。

 ただ、入れ替わり立ち代わりのように、違う男が同居する事は、よくあったけど。

 でもそれは決して父親なんて代物じゃない。

 あくまでお袋の‘‘男‘‘だった。

 

 お袋はスナックで働いていた。今思い返してみても、下品な女だった。

 いつもくわえ煙草でしかめっ面をして、不機嫌そうにしていた。

 何か気に入らない事があれば、すぐに俺に当り散らして暴力を振るっていた。

 俺は物心つく頃から、夜、お袋が仕事に出かけて居なくなるとホッとしていた。

 

 これでビクビクしないでいられる。ゆっくり眠れる・・・

 

 そんな風にはっきりと自覚したのは、小学一年のときだった。

 俺はお袋から愛されてると実感した事は、一度もなかった。

 誰よりも愛されたいと、思ってはいたけれど・・・

 

 そしてその暴力は、俺が大きくなるたびに、むしろ凄まじい物になっていった。

 

 俺達は、6畳一間のぼろアパートに住んでいた。

 ある日、俺は昼に食べていた味噌汁を、手がぶつかってこぼしてしまった。

「コラ隼人!何てことしてんだ!!

 まったく幾つになっても手間かけさせ上がって!」

 そう言ってお袋は、すごい剣幕で俺の頬をビンタした。

「ごめんなさい、お母さん。」

 6歳だった俺は、怖くて必死にそう言った。

「あやまる位なら最初っからやるんじゃないよ!まったくお前を産んでから、

 ろくな事がないよ!!」

 お袋は益々すごい剣幕になって、近くにあった布団叩きを持ち出して、

 俺の手を思いっきり叩いた。

「この手が悪いんだ!!」

 パシッ

「痛いよお母さん!ごめんなさい!」

 俺は泣きながら謝った。これ以上お袋に嫌われないように。

 

 そんな事が日常だったから、俺は常に緊張を強いられていた。

 なるべくお袋の気に触るような事はしないようにしていたつもりだったが、

 幼すぎる俺にはそれがどういう事なのか、理解できるはずもなかった。

 

 

 

 いつもムスくれてばかりのお袋が、今日はヤケに朝からニコニコしていた。

 俺はいつもビクビクしてたけど、お袋が楽しそうにしているのを見ていると、

 何だか嬉しくなった。

 こんなひどいお袋でも、俺は愛されたいと思っていた。

 今なら思う・・・ガキだったと。

 

 だけどあの頃の俺は、幼い日の俺は、誰よりも愛情を欲していた。

 一度でいいからニッコリと微笑んで、優しく抱きしめてもらいたかった。

 甘えさせて、もらいたかった。

 さげすんだ様に冷たい視線しか向けてくれないお袋に、何よりも傷付いていた。

 どうしてお袋は俺を愛してくれないのだろう・・・いつもそう思っていた。

 

 俺はお袋が微笑んでいるのが嬉しくて、ただ嬉しくて、今日なら甘えられそうで

 思わず口にしてしまった。

「お母さん、今日はいつもと違って何だかとっても楽しそうだね。」

『そうだね』と笑いかけてくれる事を期待していた。だけど・・・

「今日はね、あたしの大事な人が来るんだよ!今日から一緒に暮らすから。

 それに何だ!その口の利き方は!あたしがいっつもムスくれてるみたいな

 言い方しやがって!!お前、あの人が気に入らないような事なんかしたら、

 ぶっ殺してやるからね!!」

 お袋はそう言った。

 

 たぶん俺はお袋にとって邪魔なだけの存在なのだろう・・・

 俺はこの時、幼いながらにそう確信したんだ。

 

 

「あんた~、来てくれたのね~。もう、待ってたわよ~。」

 お袋が見た事もない態度と、聞いた事もない声でその男に擦り寄った。

「おう。」

 男は背がヒョロッと高くて、パンチパーマにサングラスに髭ヅラで、やけに

 派手なシャツに派手な色のスーツを着ていた。首や指には金色のアクセサリー

 がジャラジャラと付いている。

 

 こわい・・・その男を見て、俺はそう思った。

 

「こいつがおめえのガキか?」

 男が俺を見てそう言った。俺は緊張して何も言えなくなってしまった。

 するとお袋が、すごく嫌そうな顔をして

「ほら!何やってんの隼人!ちゃんと勝野さんにあいさつしなさい!」

 と言った。その表情の冷たさに、俺はビクッとした。

「こっこんにちは。はやとです。」

 絞り出すようにそれだけ言った。男はただ俺をじっと見て、そして鼻で笑った。

 

 

 この勝野という男の出現で、俺の生活はさらに悲惨なものになった。

 お袋は何でも俺に用事を言いつけ、それを思うとおりにこなせないと

 俺に暴力をふるった。

 

「ちゃんと台所磨いとけって言っただろ!ったくこのガキ、遊びほおけテンじゃ

 ないよ!!」

 お袋は、目の前にあったグラスを俺に投げつけた。そのグラスがおでこに当たり

 俺は血を流していた。床には割れた破片が散らばっている。

 

 うう・・・・うめく様に俺はその場にしゃがみこんだ。

 ボタボタと血が滴り落ちる。

 

「早く割れたガラス片付けな!!この人がふんで怪我でもしたら大変だろ!

 それに血はなかなか落ちないんだ!畳を汚すんじゃないよ!」

 勝野はそれを見て、ニヤニヤと笑っている。

 

 俺は、泣きながらグラスを拾った。

 自分というものに対して、とてつもなく惨めな気持ちになりながら・・・

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