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TRUE LOVE  作者: shion
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第三章 追憶 (2)

 そんな事があってから、私の心はすごく傷つきやすくなっていた。

 元々明るい正確だった私は、反対の、暗く、マイナス思考の人間へと

 変わっていった。明るくいられる材料なんて、何ひとつ無かったんだから。

 自分の存在自体すら、嫌悪するようになっていった。

 

 両親が迷惑をかけてしまった親戚の何人かが、そんな私に

 人間不信の‘‘ダメ押し‘‘をやってのけた。

 

「あおいちゃん、あんたの親のせいでうちまで迷惑してんのよ!うちだって

 まだちっちゃい子供がいるのに、どーしてくれんの!」

 幼い頃からとても優しかったおばさんが、ある日電話してきてそう言った。

「すみません・・・私の親のせいで・・・」

 私は謝った。涙が溢れた。

 

 おばさん・・・ずっと優しかったおばさん・・・

 確かに私の両親が、迷惑掛けたのかもしれない・・・

 でも、私に言わないでよ・・・

 私まだ、16だよ・・・私がこの状況、作った訳じゃないよ・・・

 私だって好きでこんな風になったんじゃないよ・・・

 私の力じゃ、どうにもできないよ・・・

 

 そんな電話のやり取りが、何度もあった。

 

 私に言わないでよ・・・もう、何をどうすればいいって言うのよ・・・

 

 どうにもならない現実が、私に覆いかぶさっていた。

 

 

 

 

 私の心は崩壊寸前だった。何もかもに対して、失意のどん底だった。

 一番頼りたかった母は、自殺未遂を繰り返し、心配なだけの

 存在になってしまった。

 親戚の嫌味、債権者、イジメ・・・

 私は何もかもを、一人で背負わなくてはならなかった。

 ただ、孤独だった。

 

 

 そんな時、一人の男の子が声を掛けてくれた。

 同じ学校の、隣のクラスのたける君だった。

 

「何かいろいろ大変そうだけど、がんばれよ!氷川元々美人なんだから、

 笑ってる方がいいよ。」

 

 学校の帰り、一人でトボトボと歩いている私を追いかけてきて彼はそう言った。

 やけに笑顔が眩しい人だった。

 うちの会社が倒産した事は、周知の沙汰だ。

 そして、イジメにあっている事も。

「うん。ありがと。」

 優しく微笑む彼の笑顔に、こんな私を思いやってくれた彼の優しさに、私は

 すぐに恋に落ちた。

 

 

 どちらかというと色白で、栗毛色の髪をサラサラとなびかせ、スッキリとした

 顔立ちの彼は、女の子に人気があった。

 彼とだんだん親しくなっていくと、周りの風当たりはやっかみと嫉妬から

 余計に強くなった。その事で、余計落ち込む事も多かった。

 それでもたける君の前でだけは、私は笑顔を取り戻して、本当の自分

 というものをさらけ出す事が出来た。

 彼はいつも穏やかな笑顔で、私を優しく包んでくれた。

 私という人間を、理解してくれた。

 

 

 

「たける君、私なんかと仲良くしてると、たける君までイヤな思いする事に

 なっちゃうよ。」

 夜、公園で待ち合わせた私は、ベンチに並んで座るたける君にそう言った。

「いいんだよ。俺はそんな事全然気にしない。俺はあおいと一緒にいたいから

 一緒にいるだけだもん。」

 彼はそう言って、優しく微笑んだ。

「それに、何か俺のせいで、ますますイヤな思いしちゃってるだろ。ゴメンな。」

 彼の優しさが心に染みて、私は思わず泣き出してしまった。

「ううん、いいの。たける君のせいじゃないし・・・」

「泣くなって・・・。俺、できる限りお前の事守るから・・・。

 俺、あおいのこと好きだよ。ずっと側にいたいんだけど、いてもいいかなぁ?」

 彼の告白に、私は余計に涙が溢れた。

 

 私を守ってくれるだなんて・・・こんな私を、好きだなんて・・・

 そんな風に思ってくれるの?

 

 みんなが私を傷付ける中、彼だけが優しかった。

 

「私なんかでいいの?私なんかと一緒にいると、たける君まで

 悪くいわれちゃうよ・・・」

「そんなの俺、全然平気だもん。そんな事より俺は、あおいと一緒に

 いられる方が嬉しいの!あおいはこんなにいい子じゃん。あおいにあんな事する

 みんなの方がどうかしてるよ。どーせやっかみか何かだろうけど。

 俺は解ってるから。あおいのいいトコ。だから気にするなって」

 

 そう言って、優しくキスしてくれた。ファーストキスだった。

 

「ごめん。返事聞く前に、こんな事しちゃって・・・」

 彼が照れくさそうに微笑む。

「ううん、いいの。すごく嬉しい・・・」

 私は涙でグチャグチャの顔で微笑んだ。

「あおいは笑ってる方がいいよ。俺、あおいの笑顔好きなんだ。すごくキレイだ。」

 

 彼との付き合いだけが、彼の存在だけが、私の生きる希望になった。

 彼といると心が安らいだ。彼といると、イヤなことも全部忘れられた。

 彼だけが、私という人間を解ってくれた。

 彼が、好きだった。

 

 私は彼に、どんな状況に置かれた人でも、どんな風に人に言われている人でも

 理解してあげるという、それを押し通すという強さを学んだ。

 そして、私も彼の様にみんなに誤解されているような人、辛く当たられているような人をこそ、不器用な人をこそ、私だけは理解してあげようと心から思った。

 こんな結果にはなってしまったけど、私が最初にとった行動は、決して

 間違えてはいなかったんだと、彼のおかげで思えるようになった。

 

 そんな彼との付き合いも、耐え切れなくなって夜逃げ同然に引っ越してしまった

 事で、終わりを告げた。

 私は心の支えを失った。そして淡い恋さえも。

 遠く離れているのに、彼を縛る事は出来ないと思った。それは彼も同じだった。

 でも私は言って欲しかった。ずっと側にいると・・・

 

 その後私は、ヤケになって好きでもない男と付き合っては別れるを繰り返していた。

 そうでもしないとこの心の痛みが、寂しさが埋まらないと思った。

 それだけを満たすために、みっともない位ジタバタしていた。

 そしてその結果、自己嫌悪に陥り、ますます自分が嫌いになっていった。

 今思うと、本当に愛していたのはたける君だけだった気がする。

 私はそこそこ顔が良かったのか、それなりにモテた。だけど外見だけを見て

 言い寄ってくる男なんて、薄っぺらくて、くだらなくて・・・所詮私の何も

 解ろうとはしてくれない。私の心なんて、見ようともしてくれない。

 本当に愛しかった、あの優しい彼の様には。

 

 私は気持ちの抜けた、人形の様だった。

 日増しに心が、死んでいった。

 

 

 そんな私を立ち直らせてくれたのは、カノンだった。

 彼女の存在に、どんなに救われただろう・・・。

 彼女を通して得たものは、とてつもなく大きい。

 彼女との出逢いが無かったら、今の私は無いと言っても過言ではない。

 

 転校した先で知り合ったカノンは、気さくに私に話し掛けてきた。

 元気が良くてサバサバした感じの彼女に、私は何となく好感を持った。

 よくよく話をしてみると、カノンは私と同じような経験をしていた。

 家が倒産して自分も2年前に引っ越してきたという。

 でも彼女はそんな不幸に負けるどころか、すごく前向きに生きていた。

 

 ‘‘人生多少波風あったほうが退屈じゃなくていいのよ‘‘

 

 サラリと言ってのけた。

 いろんな事を知り尽くした彼女から出たその言葉は、同じ苦労をしてきた

 私にとって、二人しか知り得ないとても大きな意味のある言葉だった。

 私はカノンが大好きになった。友達に散々裏切られてきた私は、友達なんて

 信じちゃいけないと思っていたけれど、カノンだけは、心から、大切だと思えた。

 実際、不器用にしか生きられない私を、カノンはとても理解してくれた。

 そして、ハチャメチャすぎて時に無節操に陥るカノンの事も、私はとても

 理解してあげられた。

 私達はいろんな話をした。お互いの事を、全て打ち明けあった。

 そして誰よりも、理解し、信じ合っていた。

 

 カノンのおかげで私は人を信じること、明るく生きる事を何とか取り戻した。

 全ての傷が癒えた訳ではないけれど、まだ自分を好きになる事は

 出来ないけれど、時が経つにつれ、私は大人になり、

 そしてカノンに支えられ、ある意味人生をやり直す事が出来た。

 

 不意に、あの頃の思いに心が捕らわれてしまう事はあっても・・・

 

 


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