プロローグ
『所詮君は誰も愛せないんだろ・・・』
部屋に辿り着いた私は、ソファーにドサッと座り込み、煙草をふかしながらため息をついた。
脱力感で一杯だ。もう、何もかもうまく行かない気がする・・・
さっき別れ際、彼に言われた一言。口に出して言ってみる。
心に重くのしかかる・・・
誰も愛せない、か・・・確かにそうかも・・・
私はもう一度、さっき別れたばかりの谷口さんを思った。
キズ付けちゃったよな・・・私と結婚まで考えてくれてたんだから・・・
そう思いながらも、谷口さんを傷つけてしまった自分の行動に、自分自身も深く傷ついていた。そんな風にしかなれない自分を激しく嫌悪していた。
サイテーな女・・・こんな私でも好きでいてくれたあの人を、あんな風に傷つけるしか出来ないなんて・・・
谷口さんは親友のカノンの恋人大悟さんに紹介された人だった。
今日、私から別れを告げた。私のペースなど考えもしないでどんどん結婚をせまる彼に、着いていけなくなってしまったというか、心が萎えてしまったのだ。
でもそれは、私なりの心遣いでもあった。
いろいろ考えあぐねた末、このままズルズルと私に付き合わせてはいけないと思った。
私は結婚に対しての夢なんて一切ない。いや、希望を持てずにいる。
結婚を考えている彼と結婚を考えられない私・・・ならば少しでも早く彼を自由にして、新しい出逢いを見つけて欲しい・・・そう思ったのだ。
彼はとてもいい人だったから。
そして、その彼が最後に口にした一言が
『所詮、君は誰も愛せないんだろ・・・』
愛せないのか、愛さなくなったのか・・・今の私には明確には解らない。
でも私は、彼の言い放った一言に納得せざるを得ない。
だって彼の事、本当の意味では愛してはいなかったのだろうから・・・
だから余計に彼の言葉が私の心を落ち込ませていた。
何でこんな人間になっちゃったんだろう・・・私は過去に思いをはせた。
あのいまわしい過去・・・10年以上経った今でも決して癒える事のない心の傷・・・今でもたまに夢に見る、あの頃の事を。
そしてやっぱり夢の中でもがいている・・・
私の心にトラウマとして残ってしまった数々の出来事・・・
幼かった私・・・あまりに傷つきやすかった私・・・
一人で何とかするしかなかったあの頃・・・
あの数年の出来事は、私をあまりにも変えてしまった。
私はその傷を持て余しながら生きている。
私が味わったあの苦悩の日々は、何か意味があったんだろうか・・・
未だに私を苦しめるだけの、あの日々は・・・
この傷が癒える日なんて、いつか来るのだろうか・・・