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第五話 ダイニングメッセージ

 これはホラーではないですね。この話だけ読むとくだらないオチですね。

 夕食の料理を終えるときでした。最近発生した連続殺人事件の聞きこみに、鈴木たかおという警察官が家に来ました。警察手帳にそう書いてありました。

 三件の殺人事件が一ヶ月に立て続けに起こっていて、全国的にも知られ、近所でも騒然としていました。私は何も知りませんでしたし、正直にそう言いながら、軽い質疑応答を繰り返ししていました。

 しかも私の住む市内で多発していましたので早く解決して欲しいものでしたし、刑事さんのご苦労も察しましたし、でも、本当のところ、それは推理小説や刑事ドラマにはまっていた私の好奇心を呼び覚まし、「お疲れでしょうから、夕飯でもどうですか」と家に招きいれました。

 人なつっこい笑みを浮かべるその警察官は最初は断っていたものの、私の秘めた熱意にほだされて、「すいませんねぇ、見つかったら上から大目玉ですよ」と言って上がり込みました。

 私は警察官にテーブルの椅子に座ってもらい、コップを取り出し、ビールを勧めました。そして、多めに作っていたお鍋の料理を皿に分けます。

 そうしながら、少しでも捜査の状況を聞こうと尋ねていました。

 警察官だけあって「捜査のことは一切話せません」の一点張りでしたが、私が穏やかにですがしつこく「でも、このまま犯人が捕まらないのでは安心できません」というようなことを繰り返し、困ったような警察官は「大丈夫です。警察の巡回を増やしていますから」と笑いながら言います。

 警察官は本当に人がよくてビールを飲んだせいか、口調で口が軽くなっているようですがなかなかもらしません。

 私はそれでも「でも、その巡回している間にも事件は続けて起こっているじゃないですか」と反論すると、

「面目ないのですが、私共もただこうして聞き込みしているわけではないのですよ」

「ご苦労はわかりますが、今こうしている間にも犯人は殺人の計画を練っているのかもしれないし、もう殺人をしているのかもしれないじゃないですか」

「そう私を攻めないでください。実を言うと、もうじき事件は解決するというところまで来ているのです」

「へえ、そうなのですか」

「はい。でなければ、私はお宅に上がりこんでなんていませんよ」

 警察官は笑っていいます。

「犯人の目星がついているのですか」

「さあ、私は下っ端なのでよくわからないのですが、上の者からそう聞かされています」

「ほんとは捜査はいきずまってるんじゃないですか?」

 私が疑い深げに言うと、

「奥さん、きついなー。穏やかに針を刺すみたいで。仕方ないな、奥さんだけに少しお教えしましょう。他言無用ですよ。でないと、私クビになってしまうので」

「わかりました。誰にも言いません」

 私は真剣な表情で言いましたが内心、うれしくてたまりません。

「テレビで放送されたとおり、ひと気のない路上で老人がナイフで殺害されたり、歓楽街のラブホテルで若い女性が後ろから鈍器で撲殺されたり、 首を吊って自殺と思わせるような男性会社経営者の事件、いずれも被害者たちの交友関係に共通の接点は見つかりませんでした。下っ端ですので上は外に何か掴んでいるのかもしれないのですが、少なくとも私はそう聞いております」

「そうですわね。無差別殺人というのですかね」

「まあ、そうですかね。私は警官になって二十五年経ちましたが、今回の事件は多分生涯で一番の記憶に残るものになるでしょう」

「そうでしょうね」

 私は相槌を打ちながらも料理をテーブルに並べます。

「でも、奥さん、被害者に全く接点がないのに一連の事件を、なぜ警察が連続殺人事件と判断したかわかりますか?」

 事件報道の時間の前後は曖昧だけれども、初めのころはこの地方で有名だった男性経営者の自殺が扱われ、いつの間にか、路上殺人、ラブホテル殺人が、別個の犯罪が同一犯ではないかなどの報道がされていたのを思い出した。

「何か争った跡とかあって、犯人の血痕とか、落し物なりあったのですか?」

「捜査上のことですのでそれは言えませんが、やはり私はある意味変種の通り魔的なものだと思いますね。場所もこの市内には限られていますが、 殺害場所も殺害方法もバラバラで、世間にはまだ発表されていませんが、こないだ郊外の国道で小学生の男の子が死んだでしょう。あれも犯人の仕業らしいのですよ。上の方ではそう見ています」

「へえ、そうなんですか」

 私は警察官の話しぶりで、かなり事件の捜査が終盤に差し掛かっているのだとわかりました。

「そうです。車のブレーキのあとが見つからず、現場の状況から、正面から歩いてきた男の子を、ひどい事に男の子が逃げようとしたのにかかわらず、追いかけてひき殺しています」

「ひどいですね。でも、よかったわ。もうじき解決するのですね」

 ビールに飲まれたのか、私がのせたのかわかりませんが、警官は次から次と楽しげに話します。

「犯人も馬鹿なのかしれません。でも、逮捕は時間の問題ですよ!くたばれーわはは!」

「おかしいのですよ、たぶん頭が」

「そうですね。普通はやらないですよね!それにほんと馬鹿だな、犯人は。どの現場も自分では痕跡を残しませんでしたが、被害者が全員ダイイングメッセージを残しておりまして……」

 私はいよいよ推理小説じみた好奇心が芽生えていました。こういうときはテレビでは謎のはがきが被害者に届けられていたり、指輪やネクタイピンが落ちている。鋭い観察眼の刑事がそれを鑑識から報告され、あるいは自分で気づいて見つけ、被害者の経歴や人間関係を調べながら、犯人に出会い、捜査協力を名目に犯人と接触しながら、犯人のアリバイを崩し、追い詰めていき、見事に事件を解決していくのだ。たぶん今回の事件も担当刑事が鋭い頭を働かせて犯人を割り出していったのだろうと、私はウキウキと想像しました。そして、どんなダイイングメッセージがどんなものだったか聞きたい衝動に駆られた。

「被害者は何を残したのですか」

「それは言えません。勘弁して下さい」

「エー!もうそこまでわかっているのなら教えてください」

 警察官も乗せられやすく、口を滑らせます。

「しょうがないなー。本当に内緒ですよ。実は……」

「実は?」

 私は料理を置き終えると警官に座り、上体を乗り出して聞きます。

「実はダイイングメッセージはペンやら鉛筆で走り書きされていました。まあ、被害者によって漢字であったり、カタカナであったりと違いますが、私どもには犯人がわかればどうでもいいですが……」

「どんなことですか?」、

 私は目を輝かせます。

「実は……」

「もったいぶらないで!」

「実は……」

「言ってくださいよ!」

「実は犯人のフルネームが書いてあったのです」

「えっ!」

 私は一瞬わかりませんでしたので、聞き返しました。

「謎の文字とかじゃないの?」

「わはは!奥さん、何か小説やドラマみたいに想像してましたね」

 そうです。現実はそんなものなのです。ちょっとがっかりしましたが、実際の事件なんて人が殺されているんですから、死んだ人も回りくどい事をするはずがありません。私は推理小説を読みすぎだと思いました。

「図星です!あはは、さあ、どうぞ!」

 私は不謹慎ですが、恥ずかしくもおかしくもあり、笑ってテーブルの料理を勧めました。私が秘密を教えてくれた警察官に感謝し、お礼として料理を食べていただきます。私の好奇心という毒が含まれているかもしれませんが、あくまでお礼です。それは私の気持を込めた夕食、ダイニングメッセージ、なんてね。





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