──一日目── (1)
──一日目──
気がついた時には太陽のギラギラとした視線に起こされていた。一瞬、ハッとしたけれど自分とは違う温度が手の内にあって安心した。ちゃんといる。
昨日は何もかも中途半端にしてしまったから、今日が休みで良かった。
俺より先に起きていたのか、隣にいたあいつがモゾモゾと動いてこちら向いた。
「おはよう」
昨日の事もあったからだろうか、その一言がただ愛くるしく感じて目頭がぼやけた。
あぁ、俺が心中を断ったら、こいつはひとりで死ぬのだろうか。それとも、他の誰かを見つけてそいつと一緒に死ぬのだろうか。
どちらにしても、俺は幼馴染の居ない生活が想像できなくて、こう応えるしかなかった。
「進路希望の紙っていつまでだっけ?」
彰が急になんだこいつ、なんて顔をするから俺の口角はついつい上に行ってしまった。
「丁度一週間後だけど?」
そしてそのままの顔で言った。
「じゃあ、あと一週間だけはこの世界にいないか?」
俺に微笑み返そうとしてるのに、あいつの目は潤って、何ともいえない表情をさせて言った。
「ごめん、ごめん。ありがとう……」
何か引っかかった。
「止めて欲しかったのか?」
こんなことを聞いといてだけど、俺には止める勇気はなかった。
「そんなわけないだろ」
彰はそう言って、確かに笑った。
その言葉に、少しだけ落胆した自分がいることは気づかないようにした。
「はーあ、お風呂入ろうよ。昨日あのまま寝ちゃったし」
どうやら湯を沸かしてくれたらしく、俺たちは昨夜の余韻に浸りながら浴室へ向かう。
脱ぐ服はなかったから、バスタオルだけ二人分準備する。家族ぐるみの仲だから彰用のタオルもある。
「先入ってるね」
「んーちょっと待って」
シャワーの出る音がした。
「待っててってば」
俺が不貞腐れた声でそう言いながら浴室に入ると、あいつはからかうようにこっちを見て笑った。
「髪洗ってあげるから許して?」
返事はとくにしなかったけれど、彰が招き寄せてきた方のバスチェアに座った。
規則性のある水圧と、人肌な温度が身体に伝わってくる。
「シャンプーするよ、目瞑っててね」
ホイップクリームのように柔らかいシャンプーの泡と、彰のあたたかい指先の感触が頭皮に伝わってきた。
視界が見えないからか、風呂場だからか、音がいつもより耳に届いてくるし、シャンプーの甘い香りもいつもより濃く感じる。
彰は機嫌がいいのか鼻歌を歌っていて、俺もそれを聞いていい気分になっていた。
「流すよ」
つむじからお湯が降ってくるから、少しの間だけ息を止める。
「終わりましたよ〜」
解放されたかのようにして、いつもより大きめに息を吸った。
「ありがとう」
「もう機嫌直してくれた?」
いたずらっぽく笑いながら聞いてきたから、俺も少しだけ口角を上げて言った。
「おかげさまで」
今度は俺が、と思い先に湯船に浸かり、彰のスペースを空けて「ん」とわざとらしくこっちに来るように呼んだ。
細身な彰は俺の膝と膝の間にうまく収まって、俺を背もたれと肘置きにした。
たまに水面が跳ねて細かい音が聞こえる。白い湯気の中、耳に馴染んだ声が浴室に響く。
「この時間が続けばいいのになあ」
咄嗟に答える。
「ずっと?」
「俺が満足するまで」
彰の顔、見えない。
「永遠にあるものなんてないのに、永遠になくなるものはあるなんて、理不尽だと思わない?」
ため息の混じったまま、彰はそう言った。
ぼんやりと眺めていた敷き詰められたタイルたちが、砂嵐に覆われるようにじわじわと見えなくなっていく。
「最近こんなことばっかり考えちゃうんだ。ずっと考えてたら、俺だけどこかに浮いてるみたいになる」
俺は考え込みそうになったけど、彰が辛そうにしているから何か答えなければ。
なんて言えばこいつは満足するんだろうか。というか、この発言に模範解答なんて存在するのか?
心のどこかでそんなことを思うけど、綺麗事なんかは絶対に言いたくなくて、俺は平然を装って声を出した。
「……今はお湯ん中に浮いてるし、それでいいんじゃねぇの」
「ふふ、そういうことにしておこうかな」
彰はいつもどこに落ちるかわからない言葉を投げてくるから、俺は上手くキャッチできない。
二人とも会話が下手くそなんだろうな。
でも、そこには確かに愛を感じたから、それだけでいい。少なくとも、俺はそう思ってた。
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