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──零日目──

心中、BL、性行為を連想させる描写があります。



  「けい、一緒に死んでくれないか」


 いつもと変わらない顔で、幼馴染がそう言った。






──零日目──


 生まれた日が同じで、新生児室のベッドが隣だったらしい、家も隣だ。そこから親同士が仲良くなって、幼稚園、小学校、中学校、ましてや高校までずっと一緒の幼馴染だ。

 学校じゃ、俺【坂本さかもと けい】はヤンキーみたいな格好してる上に無愛想だし、幼馴染の【谷口たにぐち あきら】はどことなく不思議な雰囲気を漂わせている美青年だから、俺たち二人は違う意味で近寄り難いのだろう。

 騒がしい教室の中ふたりで昼飯を食って、夜になると一緒に湯船に浸かったりして。お互いが寂しい時は月明かりの下、家族にバレないように二階のベランダを辿って密かに同じ布団に入って眠る。

 付き合ってはいない。なんとも言えない、男同士の曖昧で幸せな関係。

 馬鹿馬鹿しいけれど、たぶんこれが運命とか言うやつだ。


 そんな幸せな学生生活も高校三年生の七月となった。いつものようにふたりで家までの帰り道を進んでいたところ、強い日差しの中で吹いた風が、男にしては長いあいつの髪をなびかせて見惚れた。少しの沈黙。弱く開かれた唇はやけに鮮明に見えて、

「啓、一緒に死んでくれないか」

 いつもと変わらない顔で彰はそう言った。相変わらずの景色なのに、その時はなびく髪と共に踏切の遮断機が下がるのが少しだけゆっくりになった。

「どうしたんだよ急に」

 あまりの暑さに笑った俺の顔はきっと引きつっている。そんな俺を無視するかのように、彰は宙ぶらりんな眼差しを向けてくる。

「ほら進路。ふたりとも決まってないだろ?」

「進路第一希望を死亡にしようってか?」

 つい癖でいつものようにテンポよくツッコんだけれど、長年一緒にいるからかこれが冗談じゃないことがわかる。

「うーん、死亡っていうか、心中?」

 彰は俺から視線を離した。ゆっくりと垂れてくる汗なんか無視して、前を通る電車の風を浴びて気持ちよさそうに笑っている。

「俺寂しいからさ、お前とずっと一緒にいたいんだ。だから。」

  遮断機が上がる頃には彰の鼻先がじわじわと赤くなっていくのが見えて、俺は何も言わずにあいつの手を引っ張って踏切を歩き出した。

 だけどあいつの握り返す手はあまりに弱々しくて、俺はそれが離れないように握る力を強くした。


 ──無言のままどれだけ歩いたのかはわからないけれど、「カナカナカナカナカナ」というヒグラシの鳴き声は大きく聞こえた。

 気がついた時にはもう家の前まで来ていて、俺は迷わず彰を自分の部屋に連れ込んだ。

 部屋に冷房はなく、ジワジワとした空気が広がっていた。その蒸し暑さと、汗で湿ったシャツが俺たちをその気にさせていた。

 今は何も考えたくなくて、気がついた時には俺の手はあいつの方へと伸びていたのだ。、、、ただ自分の気持ちをかき消したかっただけなのかもしれないけれど。

 意識を失うようにふたりでベッドに倒れ込んで、俺はこれでもかというくらいにあいつの身体に自分を擦り寄せた。そこにいることを確かめたかった。

 家の前を通る小学生の声や、木にとまるセミの鳴き声なんか耳に届かないくらい、俺は彰の心臓の音に食らいついた。振動が鼓膜へ運ばれる。

「彰の音を聞くと、死にたくないと思う」

 俺だけがそう思うのか、と早とちりした思考が頬を濡らした。

 あいつは心地よい視線を向けてきて、優しい手つきで俺の身体を撫でる。

「ごめん」

 もうシャツははだけてて、そこからはお互いの体温を交換し合った、、、


 夏の空も暗くなってきて、空気が少しだけ涼しく感じた。ふたりでベッドに沈んで、俺だけが彰の横顔を見ていた。あいつも見てくれると思ったのに、彰はただぼんやりと天井を仰いでいた。

「幸せじゃないのか?」

 そう聞いた俺の声はいつもより低く掠れていたのかもしれない。

 首は少し傾いたけれど、顔は合わせてくれなかった。

「幸せだからだよ」

  話したいことは沢山あったけれど、彰を傷つけたくなくて、ただ何も言えずにそのまま眠りについた。





読んで下さりありがとうございます。

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