9話 オムケル、爆誕!!
〜現在〜
「とうとう、孵化したのかなっ?諸君!何が出た?何が出た?やっぱり、フェリックスかねっ!アハハハハハッ!さぁっ!入りたまえ諸君!」
卵にヒビが入った報告で、5ヶ月ぶりに再会したアズトラは、ノアに出会う前のアズトラに戻っていた。
「あ、失礼します…」
エースたち「…」
うるさいアズトラに戸惑いながらも、ノアたちは魔法動物学科に足を踏み入れる。客間に案内され、出されたお茶を飲む。落ち着いたあたりで、アズトラが切り出す。
「それで、卵が!ようやく!孵化したんだろう!魔法動物は!何が出た!」
一同
「えっと、私の卵は、まだ孵化はしてません。ヒビが入っただけなので…」
ノアは少し、しょんぼりした風に言った。
「…そうか。これからも地道に世話をしなければな。」
アズトラはノアの気持ちを察したのか、ウザさを控えて話し出す。
「ノア君の卵を初めて見た時、ワイバーンだと思ったのだ。だが、もしかしたら"ドラゴン"かもしれないな。」
「ドラゴン…ですか?おとぎ話の動物ですよ?」
「そうだよ。最も古い文献に"ドラゴンのようなものを見た"としか、書かれてないんだから。アズトラ、どうかしてるんじゃない?」
アズトラの言葉に、ノアとエルヴィが反応する。
「た、確かに。文献にはそう書かれている。だが、地球は多くのことを覚えている。その過去の記憶が、ダンジョンになる。なら、ドラゴンだって産まれる可能性があるだろう。」
一同(確かに……!)
一同は、アズトラと初めて、まともな会話が成り立ったことに感動した。そんなことを他所に、アズトラは説明を続ける。
「ランダムエッグには、古代文字の1つが使われている。それを読み解くと、何の魔法動物が産まれるかがわかる。」
「それと、ドラゴンに何の繋がりがあるんですの?」
「ワイバーンとドラゴンは似た部分が多いことが、研究でわかっている。つまり、ランダムエッグに書かれた古代文字も、類似点が多いと思われるのだ。」
「なるほど。では、ドラゴンの場合は、あとどのくらいで産まれますの?」
「わからないな。」
「えっと…どういうことですの?」
ゼファティスの質問に即答したアズトラは、頭を抱えた。
「さっきも言ったが、"ワイバーンとドラゴンは類似点が多い"程度しか、わかっていない。遅産まれのワイバーンの可能性の方が高い。」
「なら、ワイバーンならどのくらいだい?」
「わからない。」
ルシルの質問も、アズトラは即答だった。
一同「…」
「すまない。1ヶ月、研究を進めなかったが故、遅れを取り戻さなければならない。君たちを手伝いたいが、私には不可能なのだ。」
「そんな。謝らないでください。色々教えてもらったのは、私たちの方です。それだけでも、十分です。」
「役には立てていたか…。良かった。では、これからも、孵化のために、頑張ってくれ。」
ノアたちは魔法動物学科をあとにする。研究室に戻ると、ユニコーンのディバインがお出迎えしてくれた。
「ただいま、戻りました。おはようございます、ディバインさん。」
ヒヒィン
ノアの挨拶に返事をするように鳴く。
「おはよう、ディバイン!」
ミリアが抱きつきにいく。ディバインは嬉しそうに鳴き、ミリアに突進する。
ドテッ
「痛てっ」
ミリアは受け止めようとしたが、ディバインと一緒に転んだ。
「アハハハ!」
そのまま2人は遊び出した。
(いいなぁ)
ノアはとても羨ましかった。自分もあんな風に遊びたいと、ずっと思っている。
「ちょっとちょっと!君たち、遊びすぎよ!研究するわよ!」
レオンハートが切り替える。"つまらないなら来ない。"と言っていた割には、しっかりと研究に参加している。
研究室内の5ヶ月は、あっという間だった。産まれたディバインの世話と卵の世話があっただけでなく、ノアの教育もあったからだ。
「今日は、ミリアとルシルとセレディの3人が、ディバインの世話でしたわね。他の4人はノアの卵の世話ですわ。」
「じゃ、行ってくるね〜」
ミリアたち3人はディバインを連れて外に出た。ディバインの世話というのは、ユニコーンとして、魔法を使う能力を引き出す訓練のことだ。研究する上でも、魔法を使えるようになってもらわなければならない。
「今日は、あたくしが雷属性の魔法を教えますわ!」
「はい!今回こそ"サンダーボム"を成功させます!」
ゼファティスが魔法の話をすると、ノアの頭はすぐに魔法でいっぱいになった。
大練習場へ移動し、ゼファティスはノアにサンダーボムを教える。
ノアの教育というのは、いわゆる授業である。ノアには、学院の教えられる範囲を超えた知識が既にあった。故に、エースたちの魔法を教え込み、ノアに全属性を身につけさせるのが教育になった。
「"サンダーボム"!」
パチパチッ
ノアが詠唱すると、黒いボールのような物が宙にできる。黒いボールは天井へ向かって進み、止まった。
「「…」」
バチバチッ、ボンッ!バリバリバリッ
「ノア!やりましたわね!成功ですわ!私の魔法に劣らないくらいのでき!」
「やった!できました!ありがとうございます!」
たった一つの黒いボールが爆発し、大練習場全体に雷を落とした。結果、壁の防御魔法はボロボロになり、地面は黒焦げになった。
バタバタバタッ、バンッ
大練習場のドアが勢いよく開けられた。開けたのはエルヴィとレオンハートだった。
「ノア!来てよ!」
「君の卵が!」
ノアはすぐに研究室に向かった。
(何かあったのかも…)
研究室に着くと、ミリアたちとディバインが卵を囲んでいた。ノアが卵を覗くと、ヒビが朝よりも大きくなり、今にも産まれてきそうだった。
「もしかして…!」
「ああ!きっと、もう産まれる!側にいてあげて、ノア。」
セレディがノアを卵の前に誘導する。
パキッ…
一同「!」
…
一同「…」
パキパキパキッ!カランカラン…
「産まれた…産まれました!」
卵は勢いよく割れた。中にいたのは、アズトラが予想していた"ドラゴン"だった。まだ小さいが、真っ白な鱗で翼は少し透けている。差し込む太陽光が反射して、神秘的に輝いて見える。
一同「…ドラゴン!」
「おとぎ話の動物じゃ、ないのね…!ほんとにいるんだ!良かったね、ノア!」
レオンハートをはじめ、エースたちが祝いの言葉をかけていく。
「はい!皆さん、本当にありがとうございました!」
「いいんですよ!あ!お名前、考えましょう!」
「賛成!ドラゴンだから、"フレア"がいい!」
イリシアの提案に、レオンハートが乗る。
「フレアは"炎"ってことだろう?火属性かも分からないなら、中性的なのがいいだろ。俺は"アース"がいい。」
「あんただって、"地球"の意味で土を意識してるじゃない!」
カインが、レオンハートの意見を真っ向から否定し、バチバチと喧嘩が始まる。
「あっちは置いといて、ノアはどんな名前いいの?」
「そうですね…。"オムケル"とか、どうでしょう…?」
エースたち「いいじゃん!」
こうして、産まれたドラゴンは"オムケル"となった。意味は"全てにおいて至高の存在"。
ドラゴンはみんなが見守る中、立ち上がる。1番初めに目が合ったのは、ノアだった。
ギャーオ
「初めまして。私たちがあなたの家族ですよ、オムケル。」
ノアがテンプレのような挨拶をすると、オムケルがノアに近寄る。ノアは、恐る恐る手を伸ばし、顎下を撫でた。
キュルキュル〜
オムケルは気持ちよさそうに鳴いた。エースたちが順番に撫でると、オムケルは嬉しそうに口角を上げた。
一同(可愛い…!)
「ミリアさん!オムケルが可愛いです!」
ギャーオ!
ノアがはしゃぐと、オムケルがつられて鳴いた。まるで、ノアとお話するように。
エースたち(2人ともがわ゛い゛い゛!)
エースたちは、ニヤけるのを我慢した。
「よしよし。可愛いですね、オムケル!…あ!アズトラさんにお礼…」
エースたち「いや、アズトラは忙しいからやめよう!」
エースたち(流石にうるさくなる!)
「あぁ。そうでした。嬉しくて、つい…」
エースたち(いい子…!)
ヒヒーンッ!
ディバインが少し怒っているように鳴いた。
「あ!ごめんね!ディバインも可愛いよ〜!ほら見て!新しい家族だよ!」
ヒヒーン?
ミリアが説明すると、理解しているように鳴いた。
この日はオムケルとディバインを愛でるだけで終わった。ノアは嬉しさから、この日はオムケルと一緒に研究室で寝た。もちろん、エースたちも一緒で。
〜翌日〜
ギャオーンッ!
「ん…?なんですか、オムケル…」
ノアがしっかりと目を覚まし始めた。
「っは…?」
少し大きな影ができている。オムケルの方を見る。オムケルは"子ども"なんてサイズではなくなっていた。研究室の天井まである、立派なドラゴンになっていた。
(あれ?私の"可愛い"オムケルが、たった一晩で"かっこいい"オムケルに…?馬鹿な…)
ノアはエースたちを見る。ルシルだけが起きていた。口が開いたまま閉じない。ルシルとノアは目が合う。
「ルシルさん、これはオムケルですか?」
「オムケルだね…」
ほげぇ……
2人は言葉を失い、ただ呆然とオムケルを見つめる。
ギャオォォォンッ!
「は!何!」
寝ていたエースたちがオムケルの声で起きた。オムケルを見上げると、ノアとルシルと同じ反応だった。
オムケルの叫びは学院全体に響いた。学院がパニックになり、魔法団を出動させる事態となった。しかも、昨日何の報告もしなかったヴァルロスとルカが、過去最速のスピードで研究室に訪ねてきた。
「今のはなんだ?ここから聞こえ…」
2人は研究室に入るなり、オムケルを見上げた。
「はぇ?」
「ノア。こ、これは"ドラゴン"だね…?」
ルカは固まり、ヴァルロスは状況を把握した。
「えーっと…。もっとデカい研究室を手配しなきゃだな。うん!」
(デカい…怖い…!)
ヴァルロスは考えることを放棄し、怒るであろう問題を片付け始めた。
(学院長はすごいなぁ。物怖じせず、仕事を始めるなんて。流石です!)
ノアは学院長を尊敬した。その間に、ルカの意識が現実を受け入れ始めた。
「っは!ノア!聞いてないぞ!今産まれたのか?」
「すみません。昨日産まれてたんですけど、嬉しくて報告を忘れてました…」
「はぁ。俺悲しい…。忘れられるなんて…!」
ルカは泣く動作をする。
「オムケル、この人がルカです。あまり良い人ではないので、騙されないように!」
「おい。全部聞こえてるぜ?で?どんな感じで産まれたんだ?お、オムケル?は。」
ノアたちが説明し始めると、ヴァルロスとルカは釘付けになった。
「へぇ〜!すげぇな!昨日は子どもだったのか?…これが?信じらんねぇな!ヴァル!」
「あぁ…!無詠唱の研究が終わったら、ドラゴンの生態を研究しよう!」
2人は子どものようにはしゃいでいる。
「まずは無詠唱が先ですからね!今日から、研究計画を立てると、1週間後には研究を始められますね!」
「そんな急がなくてもいんじゃないか?」
カインがノアの猪突猛進を阻止した。
「そうよ!まだオムケルは"体がでかいだけの子ども"かもしれないんだし!とりあえず、休憩!」
レオンハートが休憩を所望する。
「休憩ですか?まだ、研究は始まってませんよ?」
「違うわよ!この5ヶ月の疲れを、吹っ飛ばそうってことよ!」
「なるほど!では、1週間程、みんなで休みましょう!」
「何言ってんのよ!」
「…え?」
ノアは困惑する。そのことを察したイリシアが、レオンハートに注意する。
「レオン、ノアはまだ"ルミスティア建国祭"を知らないんです。ちゃんと言わないとですよ?」
「あ!そうだった!すんません…」
(ルミスティア建国祭…?何それ)
「何ですか?それ。」
「ルミスティア魔法国が建国された事を祝う祭りです。1週間続くんです。この時だけは、学院生も地上に出れますし、キャラバンはこの前の10倍の規模!学院生たちは魔法祭典で、日々の成果を発揮する"戦闘大会"も楽しめます!」
「戦闘大会ですか…!楽しみです!」
ルカたち(あらら、ノアが出たらすぐに終わっちゃうな…)
最後まで読んでいただきありがとうございます
10話は3月11日の2時に出す予定です
お楽しみに




