8話 Mr.動物ファースト・人間ワースト
〜半年前〜
「育てるって言っても、どうすればいいのか私たちでもわかりませんわ。どうするんですの?」
ゼファティスがノアに聞く。
「どうしましょうか。私も魔法動物は初めてなので、よくわからないです。図書館で調べて育てましょうか。」
「あ!なら僕、"魔法動物学科"に友達がいる。あの人に聞いてみよう。こういうのは、本より実際に見聞きした方がいいしね。」
ノアが悩んでいるとエルヴィが提案する。
「助かります。…魔法動物学科って、なんですか?」
「その名の通り、魔法動物を専門に学ぶ学科で、常に魔法動物の生態を研究している。俺たちは全員が魔法学科。交流はあまりないが、エルヴィは自然が大好きだから友達がいるらしいよ。」
ノアの質問にセレディが答える。
「なるほど。専門なら安心ですね。では、行ってみましょう。全員で行くのはお邪魔かもしれないので、エルヴィさんに加えて2人。計3人で行ってみましょう。」
「それなら、ノアとあたしでいいじゃない?」
レオンハートが名乗り出る。
「ノアはわかるけど、レオンハートは元気すぎて魔法動物が敵だとみなす可能性があるだろう。俺は却下だ!」
「何よそれっ!喧嘩売ってんの?」
「事実だ!」
バチバチッ
カインがレオンハートの言葉を否定すると、カインとレオンハートの睨み合いが始まった。
「お、落ち着いてください、2人とも。レオンハートが行くと、動物たちが驚くという意味でしょう。別に喧嘩を売ったわけではないと思いますよ…。」
イリシアがその場を収める。
「イリシア先輩…。わかりました…」
(レオンハートは先輩の言うことは聞くのか…)
イリシアの言葉でレオンハートは落ち着いた。
話し合いの結果、魔法動物学科に赴くのはノア、エルヴィ、セレディの3人に決まった。
魔法動物学科のドアを叩くとエルヴィの友達、アニマ・ルラブが迎えてくれた。アニマは3人を客間に案内して、お茶を用意してくれた。
「エルヴィが授業の時間帯に尋ねてくるなんて、珍しいだすな。なにようだすか?」
「すまないね、アニマ。実は、これから始まる研究で魔法動物に協力してもらうことになってね。卵から孵化させる必要があるから、そのための準備とか産まれた後のこととか、全部教えて欲しくて。」
「なるほどぉ。わたすにできることがあれば、なんでも協力するだす!それで、何の卵を孵化させるだす?」
「ランダムエッグだ。」
バタバタバタッ!ガンッ、ガチャッ!
「ランダムエッグを孵化させると、風の噂で聞いて、私が来たよっ!」
「「「…?」」」
(((誰?)))
すごい勢いで客間に来た男に、ノアたち3人が困惑する。
「しょ、所長?どうしただすか?」
「アニマッ君!私はランダムエッグの研究がっ、したいっ!」
「いや、でも、3人たちはランダムエッグを研究するんじゃないだすよ。ランダムエッグから産まれる動物さんと協力して、何かを研究するだす。」
「なるほどっ!ならっ、諦めようっ!!それにしても、ランダムエッグの孵化ならっ、この私にっ、まっかせなさいっ!」
「そうだすねぇ。わたすができるのは、卵の環境を整えることぐらいだすし、所長の方がいいだすね。」
3人を他所に話が進む。
「ちょ、待ってくれ。アニマ、その方は誰だい?」
エルヴィが、"所長"と呼ばれる男を指し、アニマに問う。
「ああ、すまないだす。所長は、この学科のエースになるだすね。名前は"アズt…」
「私の名前はっ!"アズトラ・ダリウス"!君たちの研究は聞いていたが!こっちの研究で忙しくてねっ!申し訳なく思っているよ!ま、以後お見知りおきを!」
アズトラはそう言うと、ノアたち3人に強引な握手をした。
「あ、はい。えと、アズトラさんはランダムエッグのスペシャリスト。という認識で合ってますか?」
((えぇ!ノア、ダメだ!))
エルヴィとセレディは、2人でノアを止める。
「の、ノア?悪いことは言わない。彼はやめておこう…」
セレディがヒソヒソとノアに伝えた。
「なぜです?」
「彼は、他の研究で手一杯だからね…」
エルヴィがノアに説明した。だが、アズトラには全て聞こえていた。
「私は!今!とても暇だ!そうだろう!アニマッ君!」
「え?そうだすか?」
「そうなのだよ!私が今!言ったからね!」
「なるほどだす〜」
(アニマ、実はポンコツか?)
エルヴィの中で、アニマの評価がガタ落ちした。
「ま!研究室にお邪魔しよう!私が直々に見てあげよう!」
「それは助k、んむっ」
セレディが咄嗟にノアの口を塞ぐ。
「ああ…だ、大丈夫だ。アズトラ。危険が伴うから、ティーチャー方に教えていただくことにするよ。じゃあ」
セレディがノアの口を塞いだまま立ち上がる。
「ありがとう、アニマ。」
3人は魔法動物学科を立ち去ろうとしたが、アズトラが立ちはだかる。
「ま!見るくらい!いいではないか!行こう!」
アズトラはノアたち3人を軽々と持ち上げた。
「どちらかな!レディ!」
「突き当たりを右に曲がります。」
((ノア!))
「「何案内してるんだ!」」
「え?」
ノアが自分のせいで怒られていることに気づかず、アズトラは卵がある研究室に行った。
ガチャッ
「失礼するよ!ランダムエッグのことなら!私に任せたまえ!」
「え…アズトラじゃんかよ…」
アズトラが入ると、レオンハートが1番に反応した。
((((((学院1の変人…))))))
研究にいた全員が、心の底で嫌な顔をした。
「ど、どうした?アニマが来ると思ってたんだけどなぁ…」
「アニマッ君より!私の方が!ランダムエッグの!スペシャリスト!だからな!」
「あっと…そう…」
ミリアがアズトラに担がれているノアを回収する。
「ありがとうございます。ミリアさん。」
「どういたしまして。で?なんで彼がいるんだい?」
「ランダムエッグのことなら、全て知っているそうなので。」
「はぁ。ノア、いい?彼は、魔法動物のこと以外は何も考えていない。生粋の"魔法動物ファースト"なの!お陰で、全ての魔法動物が関係する研究は打ち切り。いい迷惑なんだよ。」
「なるほど…知らなかったとはいえ、すみません…」
「まぁ、今回はおかえりいただこうね。」
ノアはミリアの説明で、なぜアズトラがエースたちから好かれていないのかがわかった。
「はい。アズトラさん。」
「なんだい!ノア君!」
「えっと…今回は、お引き取りいただいてもよろしいでしょうか?」
「なぜだい!ランダムエッグを孵化させたいんだろう!」
「それは、そうですが…。あのー…ちょっと…」
ノアは困って、エースたちをチラッと見る。エースたちは棚の裏に隠れ、ノアにエールを送るだけだ。
(理由、どうしよう…)
「その…アズトラさんは、うちのランダムエッグちゃんと仲良くできないんです。多分?」
「私に!何か足りないのか!」
「足りない?えっと…」
(まあ、確かにアズトラさんは、うるさいけど。ていうか、ウザい…)
ノアの中で、ウザさを減らすいい答えを見つけた。
「アズトラさんは、少し賑やか過ぎです。もう少し、落ち着いてください。」
「なるほど!」
「あ、そういう感じが…」
「なるほど。」
ノアの指摘でアズトラのウザさが減った。それと同時に、エースたちが棚の裏から少しだけ、前に出てくる。
「その調子でいてくれれば、うちのランダムエッグとも仲良くできそうですね。」
「うむ。」
「では、ランダムエッグの孵化に必要な物、環境、手順などを、詳しく教えてください。」
「ランダムエッグの孵化に、協力させて貰えるのだろうか?」
「はい。その調子なら。の話です。」
「嬉しいぞ。ノア君!」
(話せばわかる人なんだろうな。)
ノアはアズトラを少し見直した。そこで、ランダムエッグの孵化に関して、色々教えてもらうことにした。
「君のランダムエッグを、見せてくれ。」
「はい。ミリアさんも。」
「あ、あぁ。」
ノアの声掛けに、ミリアはワンテンポ遅れて反応した。
「この2つの卵になりますね。」
「通常のランダムエッグより、大きいな。まあいい…。ふむ…。なるほど…。」
アズトラは縦1m、横45cmの真っ白な卵をじっくりと観察した。一通りの観察が終わって、真っ直ぐノアの方に向いて座り直す。
「では、まずはランダムエッグの孵化の条件からだな。」
一通りのランダムエッグの話を、ノアもエースたちもしっかりと聞いた。アズトラによると、
一.1ヶ月分の月の光を浴びる
二.卵のある場所の温度は、常に35℃〜40℃を保つ
この2つの条件が、絶対に必要だと言う。
「大変ですね…」
「そうだな。私たち、魔法動物学科でも孵化をさせたことはあるが、1日もせずに自然に帰ってしまった。」
一同(逃げられたんだ…)
「なるほど…」
ノアがあいづちを打つ。
「君たちのランダムエッグの動物は、自然に帰らないといいな。」
アズトラは立ち上がり、研究室を出た。しばらくして、ノアが気づく。
「お礼!言い忘れました!行ってk」
ガチャッ
一同が振り向くと、荷物を持ったアズトラがいた。
「えっと?ノア、あれ何?」
ルシルがノアに問う。
「お泊まりセットですかね?何するかまでは、流石にわかりません。」
エース全員でノアを見る。ノアの耳には、聞いてこい。追い出してきて。などという言葉が聞こえた。
「はい…」
ノアは恐る恐る近づく。
「あの…先程はありがとうございます。」
「うむ。」
「それで…何をしてるんですか…?」
「これから1ヶ月、私もここでランダムエッグの世話をするのだよ。」
「なるほど…?」
ノアはエースたちを見る。追い出せと言わんばかりに、嫌そうな顔をする。
「おかえりいただけたりは?」
「何を言う?君たちが最初に、魔法動物学科へと助けを求めたのだろう?」
「そうですね…」
(もう、いいや…)
ノアは、これ以上言っても無駄だと考え、追い出すのを諦める。
そこから1ヶ月は地獄だった。アズトラは何よりも魔法動物ファーストを徹底。ある時は、
「イリシア君が研究室に入らないでくれ。室温が下がる。」
「そ、そこまで寒くはないかと思いますが…」
「いや。実際に、君がいるといないとでは、室温が7℃も違う。研究室から出てくれ。」
と言って、イリシアを怒らせた。レオンハートとは、
「ねぇ、アズトラ先輩。この干し草、こんな感じでいいの?」
「もう少し綺麗にしてくれ。君はなんでも雑だ。色々とな。あ。だから、この前の魔法は失敗したのかもな。」
「はあ?そんなん今、関係ないじゃない!」
と、アズトラの余計な一言でレオンハートがブチ切れた。エルヴィとは、2人の自然に対するスタンスの違いで、馬が合わなかった。
ギクシャクしたまま、1ヶ月。ミリアの卵が孵化した。
「すごい!これは"ユニコーン"ではないのか?馬に角が生えている姿…正しく!ユニコーンだ!」
アズトラが興奮気味で言う。それを聞いたノアも、はしゃぎ出す。
「ミリアさん!良かったですね!ユニコーンって、おとぎ話の動物じゃないんですね!」
「うん!」
他のエースたちも近寄ってきて、ユニコーンを囲む。
「名前、どうしますの?」
一同「確かに。」
「今日は名前決め大会にいたしません?」
「いいね!それ。」
ゼファティスの提案で名前決め大会が開かれ、ユニコーンの名前は、1度"サンドボルト"になりかけたが、ミリアが阻止した。結局、名前は"ディバイン"に決まった。
「ディバイン…。いい名前ですね。ミリアさん。」
「うん!まぁ…ノアの卵も明日にでも孵化するよ!」
「そうですよね…!」
ノアとミリアが話していると、アズトラが割って入る。
「ノア君の卵が孵化するまで、いようかと思っている。いいな?」
「あ…」
「ん?なんだ?」
「いや、えっと…アズトラさんには、この1ヶ月間で沢山の事を教えていただいたので、その…。これからは、私たちだけで頑張ろうと思います。」
「…そうか。では、失礼しよう。」
「1ヶ月間、本当にありがとうございました。」
ノアはしょんぼりとしながら、魔法動物学科へと帰っていくアズトラに、感謝を伝えた。
それから、5ヶ月経って、やっとノアの卵にヒビが入ったのだ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
9話は3月8日に出す予定です。
お楽しみに




