6話 花火を見せたいのです
お酒は、ほどほどに…
広場にはルミスティアの郷土料理専門店があり、どの料理屋よりも人気があるようだった。
「ここ!ほんとにおいしいんだよ!キャラバンが来る度にここに出店してくれて、学院生御用達!」
店に入るとミリアが言った通り学院生で満席だった。
「ほんとに学院生ばっかりですね。」
席を探していると、少し遠くから手を振っている人物がいた。
「ミリアー!助けてくれ!」
「誰でしょう?行ってみますか?」
「院長っぽいし、面白そうだから行こ!」
近寄ると酔っ払ったルカとルカにだる絡みされているヴァルロスがいた。
「あなた、なんでそんなに酔っ払ってるんですか!仕事はどうしたんですか?」
「そぉんなのぉ、おわらせたぁ。」
ルカはすでに出来上がっている。
「だる絡み、大変ですね〜。院長!」
「あぁ、ミリア。もう疲れた。バトンタッチしてくれ。」
ヴァルロスは帰りたいようで、ミリアに泣きつく。
「ヴァルはまだ帰るなぁ!」
「帰りませんから!もう私に枝豆の皮食べさせようとしないでくれ!」
「んふふ〜。ノア〜食べろ〜!腹減っただろぉ」
「はぁ。飲み過ぎですよ。それは学院長ですから。私たちがごはん食べたら、帰りますからね。」
「おうっ!ふふっ」
ルカはニヤニヤして、酒瓶に抱きついている。
「キモいね。ノア、院長。」
「はい。とても。」
「いい歳して何やってるんだ、この人。」
3人で顔を見合わせながら、ノアとミリアは席につく。
「あの、この人は何歳なんですか?学院長より若く見えますけど…」
「私も気になるな。いつも教えてくれないし!」
「年は知らんが、ここだけの話、私に魔法を教えていた時から、見た目は全然変わらん。」
「えっ?」
「はっ?」
((人間だよね?))
ノアとミリアは同時に驚いた。年齢不詳のルカに対して、同じ疑問が2人の脳に浮かぶ。
「まぁ、この世には不死石という、持っているだけで不死になれる石があるというおとぎ話がある。もしかしたら、ルカは持っているのかもしれん。」
「それはおとぎ話でしょ?ないない!」
「まあ、そうだな!ルカは暇だと死ぬ病らしい。長寿になったところで、暇で死んでしまうな!わっはは!」
「そうに違いない!あははは!」
ヴァルロスも少し酔っているようで、ありえない話をし出す。
「不死石があるんですか?」
ノアはその石を研究したくなって、ウズウズしている。
「ないよー。ノア、この世には嘘と誠があるの!全部を信じちゃダメだよ?」
「ないんですか…」
ノアはしょんぼりする。料理を頼み、一通り食べ終えた。今晩は、ヴァルロスの奢りだ。店の外に出るとルカがヴァルロスに絡みだし、ミリアが止めに入る。すると、
ヒューッ、パーンッ
空に花火が上がった。ちょうど21時らしい。
「これ!これを見せたくて…」
ミリアがノアを見る。
「綺麗…。クララとロアンに見せたい…」
ノアが呟くと、3人がノアの周りに集まる。
「綺麗でしょ?実験を失敗して見る爆発花火より!」
「爆発花火か…。ん?なんだそれは?手持ち花火も買えるぞ!」
「そぉだぞ〜!この花火はきれえだろお?つぎのキャラバンもみにくるぞお!」
「みんなで一緒にね!」
「次も、みんなで…!」
ノアは涙目になりながら満面の笑みを浮かべる。それを見た3人も笑みが溢れる。
「じゃ、帰ろうか!」
「はい!」
4人で歩き始めると、ノアは少し後ろの方で3人を見た。3人はルカの変な話で盛り上がっている。
(この人たち、次も一緒に来てくれるなんて、とっても嬉しい!今日も楽しかったし、学院でもこれから頑張れそう!クララ、ロアン、私はいい人たちに会えました)
それと同時に、路地裏から声が聞こえた。
「のあぁ。」
「のあ、こっちだよ」
声のする方に顔を向ける。細道でよく見えないが、ノアにはクララとロアンの声が聞こえた。
(2人がいる…?ゴーストとして来てくれたのかも!)
細道に入ると暗かった。奥に進むほど人が減り、静かになっていく。
「クララ!ロアン!どこなの?」
角を曲がったところで黒いモヤモヤしたものがいた。手招きをする。
(これがゴースト…?)
「クララなの?」
ノアはゴーストを魔法書でしか見たことのないため、不安だった。
「くららですよ。はやくおかおをみせてください」
その言葉を聞いて、走り出そうとする。
「ノア、止まれ!」
その言葉と同時に目元が隠される。
「やってくれ。」
「はい!"ウィンドスラッシュ"!」
シュインッシュインッ
「…たい!いたいです!あぁ、のあぁ。たすけ…」
ノアは目元の手をどけ、黒いモヤがいたところにしゃがみこむ。
「クララ?なんで…。」グスッ
ノアの目が涙目になる。今まで、クララとロアンの死にちゃんと向き合って涙を流す時間がなかったから、尚更だ。ミリアが後ろからノアを優しく包み込む。
「すまない。でも、あれは魔物だった。クララとロアンではない。あのままだと、ノアは魔法に喰われて死ぬところだったんだ。」
「大丈夫です。学院長まで…。皆さん、助けてくれてありがとうございます。ミリアさんも。」
「ううん。先輩として、当然のことをしたまでだよ。怪我はない?」
ミリアはノアの顔を見て、肩を撫で下ろす。ホッとした表情をミリアに向けていた。
(怪我はしてない…。でも、少し無理はしてるな。)
「心配かけて、すみません。さ、帰りましょう!」
ノアは立ち上がり、歩き始める。
「だめだ。お前は、ここで泣かないとだめだ!俺は、教え子には心配かけられてなんぼだと思ってるんだ!お前は、俺の教え子だ!我慢なんて、絶対に俺が許さない!」
ルカはノアを抱きしめて叫ぶ。その言葉を聞いて、ノアは泣き始めた。今まで、クララとロアンの死にちゃんと向き合って涙を流す時間がなかったため、涙が止まらない。
泣き疲れ、ノアは寝てしまった。
「寝ちゃったな。」
「寝てしまったな。」
「うふふっ、かわいいですね。私、おんぶしたいですっ。」
3人はノアを起こさないように話した。話し合いの末、ミリアがノアを学生宿舎まで連れていくことになった。
「ミリアは、結構あっさりしてたな。聞いてたのか?ノアの事情。」
「もちろん!私を誰だと思ってるんですか、院長?でも、今日1日過ごしてみて、ノアはほんとに魔法が好きなんだ、って感じました。無詠唱で魔法を放てるように研究したい!って。凄いですよね。発想とか、仮説も凄かったです。尊敬しちゃいますよ〜」
「無詠唱か。いつかノアは、世界で初めて無詠唱で魔法を放つ人間になるのだろうな。魔法と共に生きていくのだろう。なぁ、ルカ?」
「もちろんだ!俺と出会い、お・れ・の教え子になるのなら、魔法と生きていくことになるぞ。ノアも、魔法とだけ向き合いたいはずだ。」
3人は通りに戻って、学院に向かって歩き始める。
学院の学生宿舎に着くと、ミリアがノアをベッドに寝かせる。ノアの卵を机に置いて部屋を離れようとする。
「ロアン…んう」
ミリアはノアの寝言で口元が緩む。ノアに近寄り、頭を撫でる。
「私はノアの先輩?いや、お姉ちゃんだね。うふふ。私はずっと側にいるからね。」
そして、ミリアは自分の部屋に戻った。
机に置かれた卵が、窓から差し込む月明かりに照らされる。昼間は白色の卵だったが、月光によって卵が神秘的に光る。
〜翌日〜
ノアは起きてすぐに支度をし、学院長室に向かう。
コンコンゴンッ
「失礼します!」
ノアは勢いよくドアを開け、ヴァルロスの前に行く。
「昨日の夜はお見苦しい姿を見せて、すみませんでした!」
ノアは思い切り頭を下げる。
「あははは!朝から何かと思えば、ノアか。別に見苦しくはなかったぞ。ミリアは、ノアの姉になると張り切っていたし。何より、あのまま寝てしまうのはとても愛らしかったぞ!」
ノアは恥ずかしくて耳が真っ赤になる。
「言わないでください…!とても恥ずかしいんですから!」
「そうだ!無詠唱で魔法を放つ研究をしたいとミリアから聞いたんだが、何か必要なものはあるか?」
「はい?」
ノアは困惑した。学院関係者になったとはいえ、ただのアシスタントにそこまでするとは思えなかった。
「私も無詠唱で魔法を放つ研究に興味を持ってね。是非、研究の援助を"学院全体"でさせてくれ。」
『好意は受け取るのも礼儀なんだからね!』
断ろうとしたが、ミリアの言葉を思い出す。
「ありがとうございます。結果を出せるように、頑張りますので、援助をよろしくお願いします…!」
「…!あぁ、そうか、よかった!ノアなら断るかもと思っていたが、受けてくれて嬉しいよ。それで、何が必要だい?私的には、まず魔法動物を育てる環境を用意しようと思って、もう手配済みだ。研究室は、大きいところを用意してある!必要な人員も候補を何人か決めたから、会ってみて決めるといい。もし、もっと必要なら…」
「ちょ、ちょっと待ってください!私はアシスタントの仕事の合間に研究しようと思ってたんですよ。研究室なんて大層なものはいただけません!ルカさんの研究室の隅とかでいいんですよ?」
「いや、だめだ!この研究は私も参加予定だからだ!ミリアも参加となると、仕事の合間なんて規模では追いつかん!勝手にルカと決めたことだが、ノアはアシスタントではなく、"研究者"として我々学院と共同研究することとなった!研究に没頭してくれて、構わない!」
知らないうちに研究者となったノアは、開いた口が塞がらない。
(へ?研究者?そんなことより、なぜ私に話は通さないの?ルカめ…!先生だからって、私のこと全部決めやがって…!でも、研究し放題ならいいのでは?)
「大丈夫か?ノア?」
「あ、はい。そういうことなら、研究に没頭させていただきます!」
すると、後ろから声がした。
「何の話してるんだ?」
「うわっ!」
音もなく現れたルカに、ノアは驚く。
「脅かすな、ルカ。」
「あはは!だって面白くて、つい!で、何話してたの?」
「研究者として研究してもらうことの話だ。」
「あぁ。なら、他の研究者候補、見に行こう、ノア!」
ルカがノアの手を引く。
「今からですか?」
「そうだぞ!日常生活でどんな感じも知っておいて損はない!しかも、全員この学院の各学年エースたち!」
「え、エース?首席とかってことですか?」
「もちろん!」
ノアは話が飲み込めない。
「学院長!会うって、予定合わせてとかじゃないんですか?」
「いや、会うのはどんな形でもいい。研究者候補になったことは伝えてあるからな。」
「そういうことだ。諦めて、行くぞ!」
ルカはノアを引きずりながら廊下に出る。
「急には無理ですぅぅぅぅ!」
ルカは叫ぶノアを無視してズンズン進んでいく。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




