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2話 魔王予備軍、ノア

ノア、包丁に興味津々です。

暖かい日差しがノアの顔に当たる。


「ん…、どこ?」


ノアは眩しくて目を覚ます。知らない天井が見える。起き上がり、辺りを見回すと、台所にはルカがこちらに背を向けて立っている。コーヒーを片手に新聞を読んでいる。ふと、いい香りがした。コーヒーではない、少し焦げたベーコンと目玉焼きだった。

(魔法以外興味が無いのかと思っていたが、案外生活力はあるのか。)


トントンと音がしているが、ルカではない。ノアはベッドから出ると台所を覗き込む。


「え?」


台所には、誰も持っていない包丁が勝手にキャベツを切っている。この世に料理をする魔法はない。ノアは何かの間違いだと思ったが、何度見ても包丁は勝手に動いている。


「どうしたのかな?勝手に動く包丁をまじまじと見ても、何も分からないだろう?」


ルカが振り向き、いたずらな笑顔で言う。


「どうした?じゃないですよ!包丁が勝手にキャベツを切ってるなんて、どうやってるのかわからないです。魔法なのは分かりますが、浮遊魔法?でも、それだけではない。動きを模倣する魔法なんて聞いたこともないし…。」


ブツブツと考えるノアを見て、ルカは少し安堵した。


「朝食にしようか。勝手に動く包丁の種明かしもしないとだ。」

「?!種明かしをしてくれるんですか?」

「そりゃ、疑問を無くしてあげないとね。色々話さなければならないこともあるし。君は疑問を無くさないと、大事な話も聞かないだろう?だから、まずはご飯だ。」


ぐぅ〜

ノアのお腹が空腹を訴える。


「確かに、まずはご飯ですね。お手伝いします。キャベツはお皿に盛り付ければいいですか?」

「自主的に手伝ってくれるなんて、嬉しいなぁ。キャベツと、フライパンの中のものも盛り付けて欲しいな〜。お皿は好きなの使ってもらって構わないよ。」


そう言いながらルカは席に着いていた。自分で盛り付ける気は初めからなかったことが伺える。


「分かりました。」


いつの間にか包丁は動きを止め、まな板の上部に横たわっている。ノアが触れると、魔力が微かに残っているが動くほどの魔力はもうない。

盛り付けを済ませ、食事を持ってテーブルに向かう。ルカの向かい側の席に着くと、ルカと目が合う。


「手伝ってくれてありがとう。それじゃ、食べようか。いただきます。」

「いただきます。」


食べ始めてしばらくするとウズウズしているノアにルカが気づく。


「包丁の話だね?あれは模倣する魔法だよ。まあ、あれはまだ開発段階。上手くいけばもっと応用して生活に活かせるだろう。あれを説明するには、模倣というものを理解する必要がある。模倣とはなんだと思う?」

「真似…ですよね?」

「そうだね。ただし、僕が想像するのはただの真似じゃない。同じ動きをして、完成形まで同じになる。そんな模倣魔法。魔力使用量が多いし、まだ動きを真似する程度だけど、改良すれば完璧な模倣が実現可能だ!」

「凄いです!魔法の創造なんて!どう生み出すのでしょうか?融合させたことはありますが、包丁には私の知らない魔法まで使われています。浮遊魔法と空間魔法を使っているのは分かります。模倣魔法はまた別に公式を組んでいるんですね?」

(まさか、公式を見つけられる程魔力が見えているのか?)


ルカは少し驚いた。魔力を見ることができるというのはその魔法使いの第六感が鋭いということである。並の魔法使いは魔力を感じ取れる程度で、熟練でも纏っている魔力がはっきりわかる程度。魔法公式が見分けられるほどの第六感が優れた者の前例は歴史上たった1人。


「よくわかったね。そうだよ。複数の魔法を単体でかけている。混合させるとどうなると思う?」

「混合魔法となって、全く別の魔法になってしまいます。」


ルカは目を輝かせる。


「君はすごいね。魔法学院の2年生にこの質問をしてわかる子は1%くらいだよ。3年生の内容だからね。いや〜、クララとロアンはどれだけのことを教え込んだのやら。」

「ロアンとクララ…」


2人の名前を聞いた途端、ノアは思い出した。


「あ、あのクララとロアンはどうなったんですか?私、あの後気を失って…。そうだ、それで目を覚ましたらここにいたんです。あの2人はどうしたんですか?あの黒いやつらは魔王の使いですよね?」


ノアは酷く混乱していた。2人を失ったショックとそのことをすっかり忘れていた自分に対する怒り、魔王への憎しみ。


「落ち着いて。まず、クララとロアンは君が着いた時点で、死んでしまっていた。そして、君が倒したのは魔王の使いだと思うよ。僕もあの場にいた。君が着くより前に。」

「いたのに、なんで助けてくれなかったんですかっ!」

「だから、落ち着いてって。僕が助けられなかったのは、あそこに結界が貼ってあったから。確実に君と2人を殺すために邪魔が入って来れないようにしたんだろう。君が使いを倒した途端に結界が崩壊しだしたから、使いたちが結界を張ったのは間違いない。だが、君の家族を見殺しにする形になったのは正しいよ。こんなことになって、すまない。」


ルカはノアに対して深々と頭を下げた。


「いいえ…。私こそ、状況を理解せず怒鳴ってすみません。悪いのは、あの使いと魔王です…!」


ノアは立ち上がり、ルカに頭を下げる。


「私は魔王が憎いです。そのために、魔法を教えてください。お願いです。私ができるのはきっと、これくらいなんです。私の生みの親も魔王に殺されました。育ててくれたあの2人も殺されました。もう、私は何も失いたくないんです。」

「っ!」

(ノアはまだ7歳。生まれてすぐに生みの親を失い、クララとロアンに大切にされてたのに…。ノアは7年間で失いすぎている。)


ノアの目には憎しみがはっきりと刻まれている。


「魔王が殺したいほど憎いか。いいかい、ノア。僕はね、憎しみとかの負の感情を持つ者には魔法を教えないと決めているんだ。」

「え…」


ノアは頭を上げる。ルカは魔法の話をする時とは違う、怖い目をして酷く冷たい声で言った。だが、ノアが顔をあげるとすぐに普段の表情に戻る。


「ノアは、勇者のお話を知っているかな。5000年ほど前の勇者が魔王を倒した話だ。昔は4人の魔王が人間の生活を脅かしていた。勇者パーティはその魔王4人を倒したんだ。今でこそ平和を保っているが、魔物は決して消えない。それは、まだ魔王がこの世に存在していることを示している。」

「4人の魔王を倒したのに、なんで魔王が存在してるんですか。」


ノアが落ち着いて、質問をする。


「それは、大魔王の存在だ。」

「大魔王?」

「そう。大魔王は勇者パーティが全員亡くなってから250年ほど経って自ら存在を明かした。そして、また4人の魔王を生み出すことを予告した。100年も経たないうちに4人の魔王が生まれ、各国に置かれた。それぞれの国が1人ずつ魔王と戦い続ける状況が、3000年以上続いた。だが15年前、ある1人の剣聖がパーティを結成して大魔王を倒した。各国にいる4人の魔王は魔力が底を尽いて、干物のようになって死んだ。魔王だったのは魔物もいたが、人間もいたな。まあ、そんなこんなで平和が訪れたが、魔物は今でもいる。大魔王が弱体化しているからか、魔王を4人作ることが困難なのかは分からないが、大魔王は生きている。」


ルカはコーヒーを静かに飲んだ。


「…それで?あなたが負の感情を持つ者に魔法を教えない理由はなんですか?」

「まあ、そんな急ぐな。さっき言ったろ?魔王の中には人間もいた。今の君は魔王予備軍だ。」

「!」

「賢い君ならわかるだろう?望んで魔王になる人間は普通のやつじゃない。普通の人とは違って何かが欠けていたり強い負の感情を持っていたりする。」

「私が魔王になるというんですか?魔王を殺したいのに魔王になったら本末転倒です。」

「あはは!確かにそうだ!だが、魔王を殺すためにとても大きな力が必要になったら?4人のうち1人を強く憎んでいて、そいつだけ殺せれば別にいい。なんて考える人間もいるかも。君だって、状況が違えば自分がどんな選択をするかわからないだろう?」

「それは…!」


ノアはそんなことはないと否定したかったが、自分でも実際にどう答えるのかわからなかった。ルカが食事を終えて立ち上がる。


「手が止まっているよ。食べないなら、僕が食べちゃうよ?」

「いいですよ。食欲が失せて…」


パクッ

ノアが言い終わらないうちにルカはノアの分の料理を食べ始めた。ノアはそんなルカを見て、唖然とした。口が開いたまま閉じない。


「そんな顔してどうした?あはは!変な顔〜」

「へ?」


そういうルカの口の周りはとても汚くなっていた。


「あははは!」

「?」


ノアは笑った。ルカの口の周りは卵の黄身、ベーコンの油、どうやってついているのかが不思議なキャベツで彩られている。


「だって、あなた食べるの下手すぎますよ。あはは!」

(やっと笑ったな。目を輝かせても、口角が全然上がらなかったから、心配してたけど。)


「うふふ。僕は"あなた"じゃないよ?ちゃんと"ルカ"って名前があるんだから〜。さあ、僕を笑った君に、罰ゲームだ!」


ルカはいたずらな笑顔を浮かべている。


「え?」

(何言ってるんだ、この人。)


ノアの顔がしかめっ面に変わっていく。そんなノアはお構いなしに、ルカが書斎から本を持ってくる。本には”魔法中級編”と書かれている。


「はい。これ、君の教科書ね。まあ、本当なら初級からだけど、見てたらこれくらいなら別に出来ると思う。」


ノアが驚く。


「いいんですか?負の感情を持ってる私に。」

「うん。いいよ?正直、復讐するもしないも勝手にしてって感じだし、今の君なら負の感情に染まりそうになっても大丈夫な気がする。」

(気がするって、そんなふんわりと…)


「しかも、僕の経験上、君のような魔法オタクは魔王なんてものより魔法に魅了されてそれどころじゃないからね〜。」

「な、なるほど〜?」

(今オタクって言った?そんなでもないと思うけど…?)


「でもでも!魔王になろうなんて思ったりしたら、僕が殺しに行っちゃうからね。」


ニッコニコの笑顔でサラッと怖いことを言ったルカは笑っていない。ノアはルカを怒らせてはいけない人ランキングトップ3に入れようか迷った。ノアの目には、ルカの身体を覆う魔力が今まで会ってきた人の中で1番濃く見えていたからだ。それと、本気の目をしている。


(とても怖い。返事しないからかな?ずっとあの目で見てる…)

「はい…、ならないです…。」


ルカの目がいつもの目に戻った。


「そーだよねー。本末転倒って自分でも言ってたし!うん!僕は別に疑ったりしてないよ?釘は刺しておくべきだと思っただけだからね〜。」

「あぁ…」

(釘刺すレベルの顔ではないけど…)


「さっ!そうと決まれば今日から僕は君の先生だね!僕は一応学院の先生なんだ。最低でも週3は教室に行かないとだからなぁ。時間がないね?しかもしかも!僕のところは研究メインなのに、この前アシスタント辞めちゃったんだよね〜。」


ルカは話しながら表情をニヤつかせて、ノアの顔を覗き込む。


「な、なんですか?」

「いやぁ?別にぃ?君は興味なぁい?新しい魔法作るの。アシスタントとして手伝ってくれれば、魔法をしっかり教えてあげれるし、魔法作りのことも学べるんだよ?いいじゃん!僕天才!」

「い、いいんですか?」


ノアは目を輝かせる。ノアとしては1日の大半を魔法と共に過ごせる最高の環境である。ノアは今この瞬間、復讐を忘れた。一方ルカは、新しいアシスタントを誰でもいいから連れてこい、という学院長の命令の期限が2日後に迫っていた。


「もちろん!学院長に見てもらって、合格すればアシスタントになれるんだけど…。まあ、僕から見て合格だから、大丈夫!」

「嬉しいです!魔法三昧の毎日が約束されているなんて、幸せですぅ!」


ノアの頭はすっかり魔法に溺れる日々でいっぱいで、ルカの話は1ミリも聞いていない。

2話、読んでいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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