13話 ノア「研究を始めましょう!」
〜3日後〜
建国祭も終わり、学院では夏休みが始まろうとしていた。
「皆さんは、夏休みって何するんですか?」
「俺は課題に追われるな。1学年は課題で夏休みが潰れるんだ。」
「バカインだから、課題が終わんないんでしょ〜!プププッ!」
「ちげーよ!」
「あら、知らない?エースは1学年の夏休み課題、夏休み開始1週間で終わらせてるのよぉ?私すらできたのにぃ、バカイン君はできないのね〜w」
レオンハートがカインをからかう。
だが、カインの言葉通り、学院の長期課題は恐ろしく多い。1学年に遊ぶ時間はない!
「ちょっと、レオンハート?からかうのをやめなさい!」
「え、エルヴィ先輩?!今日は来れないって…」
「来るのが"難しい"って言っただけね。あ!レオンハートは確か、1学年の夏休み課題を、夏休みが終わる1週間前からやり始めてたよね?」
「ノア!私、オムケルの世話!してくるね!」
レオンハートは急いでその場を離れた。
「ノア、そろそろレオンの扱いに慣れてくれ…」
「すみません…。言いづらくて…」
「ま、仕方ないか…。ところで、研究計画案が3つ程出ている。決めてくれ。」
「はい!カインさん、授業頑張ってください!」
「おう…」
カインは、とぼとぼと自分の教室に行った。ノアはエルヴィと研究室の中央にある、大きなテーブルに向かった。テーブルにはセレディとイリシアがおり、計画案で言い争っていた。
「まずは、ディバインとオムケルの魔法を使う姿を観察するべきだよ!観察して、記録を取ることで声の響きの違いから、詳しく理論を構築すべきだ!」
「いいえ!まずは仮説を固めるべきです!今の曖昧な仮説は、返って研究方針がズレてしまいます!研究方針がズレたまま、研究するんですか?」
今の研究方針は
"魔法動物の声の響きから、応用ができるか調べる"。
「ずっと、あの調子でね…」
「確かに…。なら、今方針を決めましょう。私的には、どちらも大事ですが、方針があればスムーズです。」
ノアは顎に手を添えて考え始めた。
(研究を段階的に分けた方がいいなぁ。あ!なら…)
ノアは思いついたように、紙に書き始めた。
「こうしましょう!
1 魔法動物の魔法を放つ仕組みを調べる
2 声の響きと魔法式のパターンを調べる
3 魔法式を空気中に書く方法を生み出す
4 魔法式の簡略化をする
これが、研究方針です!段階的に考えて、このように複数の方針が必要になると思います。…どうですか?」
「それがいい!」 「そうしましょう!」
2人は同時に返事をした。ディバインとオムケルの世話をしていた、ミリアとレオンハート、ゼファティスの3人にも説明し、研究方針が決まった。
「では、研究を始めましょう!」
ノアたちは、2週間かけてオムケルとディバインに、何度か魔法を放ってもらう。途中、カインが課題を終えて研究に参加した。
「やっと終わっ…」
ヒヒーンッ!
ディバインは水属性の魔法を放ち、
ぎゃぁぁうっ!
オムケルは光属性の魔法を放った。
「おかえりなさい、カインさん。ルシルさん、2人の声は、魔法が発生した際に同じ響きですね。」
「そうだね。きっとこれが条件だ。1度、いつも通り鳴いてもらおう。ディバイン!オムケル!」
カインは、ディバインとオムケルの放った魔法をギリギリかわした。
「…手伝いますね〜」
今、響きがわかったのは"サウンドアナライザー"を使ったからだ。魔法具創造研究部の部屋にあった中で、1番大きな魔法具で、音の響きが可視化される。
「やっぱり、魔法発生がなければ、この響きもありませんね…」
「では、この響きが魔法式であるということですわね。」
「理論上はそうなります。」
ディバインとオムケルにおやつをあげて、休憩を入れる。その間も、ノアたちは話し合いを続けた。
「仮説の結論は、ゼファティスさんの言った通りでしたね。1つ目の方針はクリアできたと言っていいでしょう。」
「じゃ、次は響きから魔法式を読み解こうか!」
ディバインは水と風属性の魔法しか使えない。一方、オムケルは、ドラゴンだからか全属性が扱える。練習しなくとも使えるようになっていた。
「ディバインは、家族である私。加えて、レオンとエルヴィ先輩、セレディ先輩で見るよ!」
「はい!オムケルは私たちで見ますね!」
そこから1ヶ月、ミリアたちはディバインの放つ魔法の響きと、魔法式構造の法則を全て見つけた。だが、ノアたちは全然終わらない。
途中からミリアたちも加わって、全員でオムケルの魔法を見る。
一同「やっと終わった〜!」
ミリアたちも加わったが、夏休み終了の1週間前にやっとの思いで終わらせることができた。
「これが分かれば、あとは空気中に書く方法よね!でも、媒介はどうするのよ?」
通常、魔法を放つ時は魔法名を口に出して、詠唱することで発動する。声を媒介として、言葉に魔力を乗せることで形として発現させている。
だが、その媒介となる声を出さないということは、媒介を他の何かで補う必要がある。
「空気中に書くということは、ペンになるんですかね?」
ノアはペンを持って言う。すると、エースたちは笑いだした。ノアが不思議そうな顔を見ると、ミリアが説明する。
「あはは!ノアは面白いね!いい、ノア?空気中にインクを落としても、何も書けないよね?」
「はい…あ!」
「そう!だから、媒介はペンじゃなくてもいいの。空気中に、ディバインたちの出す特殊な響きが再現出来れば、なんでもいい。」
それから色々試した。ペンを使ったり、スプーンを使ったり、木の枝を使ったり…。
「これ、難しくないですか?」
「難しい!まず、この響きを書くのなら、細かく書かないとなんでしょ?それが難しいの!」
イリシアとレオンハートが嘆く。
「確かに…響きを記号化すれば、マシになるかもです。」
「その手があったか!」
早速作業に入ろうとしたら、誰か入ってきた。
「よぉ。やってるか〜?」
「ティーチャー・クローネ!ちょっと手こずってますね…」
「そーか!なら、俺の武勇伝が役に立つぞ!」
「こっちは忙しいんですよ…あなたは仕事終わったんですか?」
「終わらして来たんだよ!でも、聞かなくていいなら帰るからな!」
「いいですよ。」
「あーあー!せっかく"古代の魔法使いたちが使っていた無詠唱魔法"を教えてやろうと思ったのになー!」
ルカがそういうと、ノアたちはルカの周りに集まる。
「お仕事お疲れ様です!ティーチャー・クローネ。」
「武勇伝、聞きたいですわ!」
ルシルとゼファティスが言う。
「わかりやすいな、お前たちは…。ま、研究のためだ!ちゃんと聞けよ?
―古代の魔法使いは、木と魔力のこもった物を何日もかけて融合させることで、杖状の媒介を作った。その杖は、使う木と魔力のこもった物の組み合わせによって、性質が変わる。
また、魔法式は簡単に記号化され、その形を宙に書くことで無詠唱で魔法を放っていた。―
ざっと、こんな感じだな!うん!」
ノアたちは、ポケーっとしている。
「どうした?」
「どうした?じゃ、ないですよ!そういう大事なことは、もっと早くに言うべきです!」
エースたち「そーだ!そーだ!」
ノアたちは、ルカをポカポカと殴る。
「ご、ごめんて!忘れてたの!もう、何十年も前の話だし、人から聞いた話だから、確認もしてたんだよ!」
「武勇伝じゃないじゃない!」
「ごめんって!」
レオンハートはブチ切れて、小さな爆発を起こした。爆発で研究室の壁に穴が開いた。
研究室の壁を直しながら話し合う。
ゼファ 「やっぱり、特殊な素材が必要になりますわね。」
セレディ 「なら、先に魔法式の記号化をしよう。そうすれば、あとは空気中に書くだけだ。」
イリシア 「それだと、記号が合っているのか確認できませんよ…」
セレディ 「そうだった…なら杖からになるな。融合するとなると、実験的に何回も行う必要がある。」
エルヴィ 「大量の素材が必要になりますね…」
一同「…」
素材は高く、数も多くないため貴重だ。そのため、一同は今のところ、為す術がない状態になった。
「なら、ダンジョン研修に参加すればいいじゃん!ノアもいい経験になるだろ!な?ノア。」
「え、でも…」
「行きたいです!!」
ミリアがルカを止めようとするが、ノアは目を輝かせて答える。
「ノア!ダンジョンって危険なんだよ?先生たちは例年、中に入らない。いくらノアが強いからって、心配だよ…」
ミリアがノアを説得するが、ノアは引かない。
「なら!ミリアさんも一緒に行きましょ!行っていい場所とか教えてもらいながら行けば、いいですよね!」
「そうだねぇ。えへへ//」
(ノア、かわいいなぁ〜)
ミリアはノアの、可愛い笑顔と上目遣いで了承してしまった。
「なら、俺たちも行く!」
「え?」
カインが言い出すと、エース全員が頷いた。
「ノアを独り占めするなんて、酷いですよ!」
ギクリ
「…あはは。みんなで行こうか……」
ミリアはノアと2人で、久しぶりのデート気分だったが、エース全員を止めることはできない。
「よし!2週間後に3、4学年の研修があるから、それに便乗する形で参加してくれ。ノアの監視はお前たちの仕事!やり過ぎないように、しっかり見てくれよ?」
エースたち「はい…」
〜2週間後〈ダンジョン研修当日〉〜
「皆集まったかー?今日から3日間、ダンジョン研修で、このダンジョンに潜ってもらう。もし、魔物を倒して素材が採れた場合は、学院の魔法使いギルドが買い取る。だが、採れた素材に対してポイントがある。単位習得のポイントのため、成績を上げたい奴らは報告に来い!」
3、4学年「はーい!」
合図があり、続々とダンジョンに入って行く。
「ノア、行こ!」
「はい!」
ノアたちは歩き出す。
入るとすぐに、ノアは魔法石に見惚れてしまった。
「純度が高すぎます!私、濃くても、この半分くらい薄い色だったのに!」
よく見ると、何か模様のようなものが描かれた魔法石があった。
「皆さん、これなんですか?」
「あ〜。それは"メモリーストーン"だね。」
エルヴィが答えた。
「メモリーストーン?誰かの記憶とかですか?」
「違いますよ。"ダンジョンの記憶"です。」
イリシアが答えるが、ノアにはよくわからなかった。
「アズトラが言ってただろう?"ダンジョンは地球の記憶を持っている"みたいなこと。だから、これはこのダンジョンの記憶。それか、地球のいつかの時代の、どこかの記憶だろうね。」
「なるほど…!」
セレディが丁寧に答えてくれた。
「これも、素材になりますよね!」
「うん!素材っていうのは、魔法石や魔法動物の一部、魔物の一部とかのこと。だから、多くの種類の素材が大量に必要ね!」
「とりあえず、5種類くらいにしましょう…」
興奮気味のレオンハートを落ち着かせる。
のんびりと素材採集をしていたら、遠くの方で3人パーティが"ビッグベア"と戦っていた。1人、負傷者が出ている。
「大丈夫ですかっ?」
ノアが走って行く。怪我している男の子は、太ももに大きな傷ができていた。他の2人はビッグベアの対処で手一杯だ。
「これ、ポーションです!飲んでください。」
「あ、ありがとう。」
飲むと一気に傷が治る。同時にエースたちが到着する。
「はぁはぁ。ノア、速いよ!ていうか、大丈夫?」
「こっちの人は大丈夫です!ビッグベアと戦ってる人達の所に行ってください!」
「わかった!」
ミリアが加勢しに行った。すると、瞬く間にビッグベアが倒れた。
「大丈夫?これ、ポーション…って、サイフー!?」
「ミリアか!久しぶり!助けてくれて、ありがとな!」
「いや、先に気づいたのは、ノアだよ。」
「ノアって、あのノア?」
「もちろん!」
サイフーがノアの元に行く。
「助けてくれて、ありがとう。助かった!ポーションも、ありがとな!」
「い…いえいえ!ご、ご無事で何よりです…」
ノアは少し人見知りしたが、しっかりと言葉を交わすことができた。
「ビッグベアの素材、全部やるよ!感謝の印!」
「あ、じゃあ、ビッグベアの爪と毛をください!」
「え、それでいいのか?」
「はい!今、木と融合させるための素材を集めてるんですよ!」
「あ〜!ミリアが言ってた研究か!でも、爪と毛だけでいいのか?」
「はい!研究に必要なだけなので。」
「そう。なら、ちょっと待ってろよ!」
サイフーは爪と毛を採って、ノアに差し出した。
「はい。ほんとにありがとう!」
「いえいえ。」
「あ!ミリア、俺の財布知らね?」
「知らないよ!」
「そっか。じゃ、頑張ってな!」
そう言って、サイフーのパーティは分かれ道の右側に進んで行った。
「私たちは、左の道にしましょう。」
「そうだね。でも、いきなり走っていくのはやめてね、ノア!」
「すみません…」
ミリアに叱られたが、ノアの頭はダンジョンのすごさでいっぱいだ。
左の道は魔法石が多く、セレディによると、大きい魔石がある可能性があるらしい。
「うわぁ!すっごい!」
ノアが叫ぶ。行き止まりだが、魔法石が一面に広がっていた。中央には、高さ3m、横幅1mの長方形の形をした、デカすぎる魔法石があった。
「す、すごいですわね…」
「魔法石群だね…」
ゼファティスとセレディが立ち尽くしている。
「ねぇ、ノア!あのでっかいの見よ!」
「あ、はい!」
レオンハートに手を引かれて、中央の魔法石に近づくと、絵が現れた。
夫婦らしい男女が、赤ん坊を抱きしめている。とても幸せそうな絵だった。
「すごい!まるで絵画ね!」
「はい!これ、研究室に飾りませんか?」
「それ、めっちゃいいじゃん!そーしよ!」
セレディに頼んで、アイテムボックスを使って持ち帰ることになった。
「ふぅ。一通り集め終わったし、帰ろっか?」
セレディの一言で全員で、出口に向かって歩き出す。
「沢山採ったね!あとは融合させるのと、木を集めなきゃだね。」
「あ!木のこと忘れてました!エルヴィさん、今日採った素材に合う木って、魔法で出せますか?」
「もちろん。任せてくれ!」
「ありがとうございます。」
それから、2日目・3日目と順調に素材を集めたノアたちの研究室は、素材でいっぱいになった。
「これ、中に入れなくない?」
「そうですわね…ノア!テレポートですわ!」
「あ、はい!て、"テレポート"!」
一瞬で研究室に現れたノアたちに、ディバインとオムケルが驚いた。
「おはようございます!今日は杖作りですよ!」
ヒヒーン! おはよう!
融合には、ルカも参加して、順調にたくさんの杖が出来上がった。夕方には、計450本の杖ができた。
「こんないるのか?」
「必要です!集めた素材と木の種類から、組み合わせられるものは全部試したんです!」
「そのせいで、エルヴィがぶっ倒れたんだけどな…?」
「…」
ルカとノアはエルヴィの方を向く。まるで干物のように痩せこけたエルヴィがいた。
「あとで、しっかりと労ります…」
「そーしてくれ。じゃ、俺は帰るからな〜。」
「もう、帰るんですか?」
「ああ。昔の友達が来てんだよ。」
「あ〜!お話聞いた人ですか。飲みすぎないでくださいね…?」
「大丈夫だよ!今度、ノアにも紹介したいと思ってる。ノアはすごい!って言ってたら、会ってみたいってさ!」
「ありがとうございます…//気をつけて行ってきてください。」
ルカは帰っていった。
「明日はいよいよ、記号化ね!みんな、明日に備えて、もう帰りましょ!」
「そうですね。おやすみなさい!」
エースたち「おやすみ〜!」
最後まで読んでいただきありがとうございます
14話は3月23日に出す予定です




