知のエリーシャという一族2
* * *
「私ずっとショートカットだったの」
朱里は言った。
髪の毛はかなり短く切りそろえられていたけれど、朱里の表情は晴れ晴れとしていた。
「とても似合っています」
ショートカットの朱里のの髪の毛が何故長かったのか、それを何故無理矢理切り落とされていたのか。
理由は簡単だった。
この国で貴族女性の髪の毛は長いのが普通だ。
お付きの者が整え、長い髪を管理できているのは一種のステータスだ。
だから、朱里の髪の毛はこの世界にきてから当然のこととして伸ばされてそして、尊厳を奪うために切り落とされた。
「馬鹿みたいよね」
朱里は言った。
「郷に入れば郷に従えって言うけど、私はそもそも好きでこの世界に来たんじゃないの。
それで勝手に従わせて、尊厳を傷つけてやったって喜んでる」
あなたを見て、同じ価値観じゃない人間がこの国の貴族にすらいるって分からないのかしら。
朱里はそう言った。
「さあ。どうなんでしょう。
エリーシャは特別だと思い込んでいる方たちなので」
ルシアはそう言った。
それから「切った髪の毛ですが、こちらで回収して研究に使っても良いですか?」と聞いた。
「私に害をなす研究で無ければ。」
「それは勿論です」
ルシアは言った。
それから「我が一族はあなたを崇拝している様なものですから」と付け加えた。
「私を? 魔王ではなく?」
面白そうに笑ってから朱里は言った。
核心だった。
「何故聖女様はそのようなことを?」
ニコリとルシアが笑みを浮かべた。
朱里が答えようとした時だった。
「聖女様がこちらにいらしていると聞いたが!!」
腹から突き抜ける様な声をだして一人の男が部屋に入ってきた。
「兄の方です」
ルシアが言った。
ということは次期エリーシャの当主ということだろうか。
朱里は何かを確認するようにその男を見た。
大柄なその男はルシアと少しも似ていないように見えた。
「でかしたな。
聖女様が処刑などということになっていたかと思うと、王家に反旗を向けたい気持ちだ」
「まあ、お兄様。
それは現当主と次期当主が決めることですわ」
ルシアが言った。
「まあ、そうだがな。
俺もつい気が高ぶってそう言ってしまったが、研究の方が性に合っている」
「まあ、それがエリーシャの性ですから」
そう話してから、大柄な男は朱里に恭しく挨拶をした。
ルシアと違って最低限の貴族の嗜みはできている様に見えた。
彼女だけが普通ではないのか。
であれば何故王都に出向いたのは彼女だったのか。
普通はある程度役職のあるものが体面のためにも出向くのではないのか。
思考し始めていた朱里に、ルシアはそっと耳打ちした。
「王都でも色々と憶測があるようですが、次期当主は弟で決まっているんですよ」
吐息がかかりそうな位置でルシアは言った。
ぼさぼさの髪の毛に今はもう王都で着ていたちぐはぐな豪華ドレスは脱いで、軽装をしている。
それなのにとてもいい匂いがしたのが朱里には印象的だった。




