知のエリーシャという一族1
聖女の手枷はとかれた。
エリーシャの一族の馬車が迎えに来ていた。
この世界の貴族が乗るのは天馬の馬車だ 。
それに乗り込むところを王子は睨みつけるように見ていた。
聖女の威光をそぎたい。
それ以外に王子との接点は無かったはずだ。
王子本人は聖女についての罪が冤罪なのだと知っている人間だ。
疎まれることはあっても恨まれるいわれはない。
そんなにらまれるような因縁は調べた限りは無かった。
それなのに何故あそこ迄睨まねばならないのか。
ルシアは不思議に思った。
朱里にとってはまるで当たり前のことだったようで無視をして馬車に乗った。
けれど、話さねばならぬことが多すぎて王子のことは後回しになってしまった。
まずは報告のため、エリーシャの集う屋敷に向かうとルシアは朱里に伝えた。
「エリーシャというのは血の繋がる親戚なの?」
「はい。
魔術協会の様な才能のあるものが集まった組織という者とは違いますね」
朱里はルシアの返答に頷いて何かを思案した。
それから「私のいた世界では、態々血のつながった一族である利点は何か特定の目的がある場合なんだけどこの世界でもそうかしら」と聞いた。
ルシアは穏やかに笑って「当たらずとも遠からずと言ったところですね」と言った。
「そんなことよりも折角の美しい黒髪が台無しですね。
屋敷についたら髪を整えさせます」
そう言った。
ぼさぼさの髪の人間には言われたくない。
朱里はそう思ったけれど「私、ショートカットの方が好きなの」と答えるだけにした。
ルシアは納得した顔をして、「そうですね。ショートカットも似合いそうです」と言った。
朱里はこの世界に来た時には短い髪の毛だった。
それがこの世界の貴族にはそぐわないということで神を伸ばすことを半ば強制されていた。
そして自分たちが強制していたにもかかわらず、女の尊厳を傷つけられるだろうと乱雑に切り取られた。
ばかばかしいことを思い出しそうになって朱里は考えるのをやめた。
「あなたの家族構成は?」
「一族ではなく、家族、ですか?
ええと兄が一人、弟が一人おりまねす。
それから、両親は一応二人とも健在です」
では、向かう屋敷にはその人たちがいるのだろうと朱里は思った。
皆研究のため着る物や髪の毛の手入れに疎いのだろうかと本題とあまり関係ないことを朱里は考えていた。
処刑されなかったとはいえ、あの地下牢での生活は堪えた。
今は正直何も考えたくはなかった。




