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聖女様が敗北した後の世界  作者: 渡辺 佐倉


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逃げ出す2

「逃げ出すことが悪いことだとは思わないわ。

でもこれから、あなたの言うところの『落としどころ』で納得する人たちを、ただそのままのうのうと生き

せてやる心の余裕もないの」


謁見の場はすぐに用意された。

まるでそれを待っていたかの様に。

その場に行く前に朱里はルシアにそう言った。


「まるで、自分でもどうこうできる言い方、みたいに聞こえてしまいますよ」


ルシアはそう言った後「そういう本質の話はこの茶番を終わらせてからにしましょう」と言って重厚な扉の前にいる近衛に扉を開けるように指示をした。

相変わらず髪の毛はぼさぼさのままだと朱里は思った。

そういう朱里も髪の毛は切られてしまい短いというだけで大して変わらない。


簡素な衣装は罪人だということを際立てている様だ。


扉を開けるとそこには朱里を召喚するように命じた王と、朱里を罪人に貶めた王子達とその婚約者たちがそろっていた。

ルシアがチラリと気にしたような視線を送ったのは確かこの国の宰相だったか。


神殿の人間が一人もいないことに朱里は少しばかり驚いた。

そしてすぐに、自分のことを見捨てたのだと朱里は思った。


政治的な有利が取れないのであれば聖女など不要なのだろう。


「この度は、このような機会を与えていただき、エリーシャを名乗る者として恐悦至極にございます」


ちゃんとした令嬢の挨拶は!! と朱里は思ったが一部この場に呼ばれていた令嬢が眉をひそめただけだった。

なによそれ! 私の時もそうしておけと思ったのを朱里はぐっとこらえてうつむく。


「して、知のエリーシャの出したふさわしい罪のあがない方は?」


国王陛下が王子に目配せをすると王子が偉そうにそう言った。


罪があったかの事実の部分はこの場にいるほとんどの者達にとってはどうでもいい事。

ただ知のエリーシャという特別な存在に落としどころを示してもらって罪過に対する責任から逃れたいという気持ちだけの様に見えた。


「聖女は聖女にございます、殿下」


ルシアは思わせぶりにそう言った。


「それはどういう意味だ?」

「聖女には聖女としての役目をもって罪をあがなう。それがふさわしいと」

「つまり?」

「各地の呪いを祓う巡礼の旅をさせるということにございます」

「その売女を自由にするということか!!」

「まさか! そのようなことではありません。しっかりと監視をつけた上で」


王子達はヒソヒソと話し始めた。

王子達は馬鹿なのかと朱里は思った。


普通、罪をどうするのかから、監視をどうするのかに話題を変える際、話術なり、仕掛けなり何かが必要だ。

今の話にはそんなものは何も無かった。

それなのに騎士団長の息子など「俺はあんな女のお守りは御免だぞ」と内緒話をするには大きすぎる声で言っているのが聞こえた。


「誰を監視人として推挙するつもりだ。

元にはなるだろうが聖女に付き従う者という勘違いを平民にさせるわけにもいかない。

貴族は元の役割がある」


王子はそう言ってルシアをにらみつける。


「それはわたくしめが」

「は?」


思わずといったぽかんとした顔を王子はした。


「私は平民ではありません。

また、王都での社交も我が一族には不要なもの。

知の一族としての役目は屋敷でなくてはできないものではありません」


そして、ゆっくりと区切ってルシアは言った。


「我々は功績とは無縁の一族、私が聖女と行動を共にしたところで何もかわりません」


その言葉には妙な説得力があった。

実際その場にいた者たちは「まあ、エリーシャであるしの」と言っていた者もいた位だった。


国王と王子はお互いに目配せをしてから「きちんと報告を怠らぬよう。また我が国の威光の元に行われる祓いの禊であることをきちんと知らしめるよう」と言った。


ルシアはその言葉をしっかりと書き留める書記官を確認した後「御意にございます。王国に栄光を」と答えて綺麗なカーテシーをした。

まるでここまでの無礼な態度が嘘だったかのようにそのカーテシーは高位貴族と変わらぬ美しいものだった。


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