逃げ出す1
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「で、どうやって私をこの場所から出してくれるのかしら」
朱里は笑って言った。
「周りに人がいないことをきちんと察知できるんですね。
あなたの本当の能力の全容をぜひ知りたいです」
「でも、ここにいてもそれは見れない。
その位、知のなんて冠を頂いていなくても分かることだと思うけど」
ルシアと名乗った知のエリーシャは「要は相手に納得感を与えるだけの事なんですよ」と言った。
「あなたが死んでだときの呪いのリスクや神罰のリスクという前提を今度こそきちんと共有してあなたの価値を示す。
ただ、あなたを本当に宮殿に欲しがらせては駄目です。
ここで飼い殺しになりますから。
逆に無実を証明して神殿に逃げ込むのも駄目でしょう。今度は神殿に閉じ込められてそれでおしまいです」
「で?」
知のエリーシャはまるで最初から用意していたかのように言っていく。
「あなたは罪を償うために各地を回り呪いを祓います。
そのことでこの国に利益をもたらす。
落としどころはそのあたりでしょう」
ルシアは言った。
「あら、知のエリーシャが匿ってくれるんじゃないの」
朱里は言った。
「あそこは、同じ目的を持たない人間にとって、それほど楽しい場所ではないですよ」
そうそっけなくルシアは答えた。
「なにそれ聞きたいわ」
「変なことに興味がありますね」
「あら、私を助け出してくれる”王子様”のことはちゃんと興味があるわよ」
朱里はそう言って笑った。
エリーシャは少し不思議な顔をして「私は生まれ変わる前も女ですよ」と言った。
「それでは調査報告として謁見を申し込みます。
その場に誰が出てくるかは未知数ですがエリーシャの者として上手くやり遂げて見せましょう」
そう言って「それがダメなら実力行使で逃げ出しましょう」と付け加えた。
朱里はそう言われてから“知のエリーシャ”が魔法が使える一族なのか、それとも使えない一族なのか、何も知らないことに気が付いた。
けれどその時にはもうルシアは席を立っていて「あなたはここにいてください。地下牢には私ももう一度行きたいと思いませんし」と言って部屋を出ていった。
本人が言った通り、調査報告として謁見の準備をするのだろう。
朱里は、ふうと息を吐いた。
思ったよりも緊張していたのかもしれない。
けれど、本当にエリーシャがいたのかという驚きもあった。
朱里がエリーシャを知っていたのは学園に通わねばならないとなり無理矢理通わされていた時、なんとか通わずに済む方法を探した時だ。
学園に通っていない貴族がいる。
それを聞いた朱里はその一族について聞きまわった。
つたない語学力で調べたりもした。
だから知のエリーシャというものがあるということを知っていたのだ。
けれど実際のエリーシャはなんというかイメージとは違った。
朱里と同じ年頃の少女だとは思っていなかったしあんなにぼさぼさだとも思っていなかった。
本人に興味が無くても貴族なら侍女が何とかするものだと思っていた。
けれどそのエリーシャは朱里をここから出してくれるのだという。
むろんすべてを信じた訳ではない。
ルシアも言っていたが駄目なら実力行使で逃げ出す。
けれどその場合は朱里一人でだ。
貴人牢であろうその部屋をぐるりと見まわして朱里はこの後のことを考えていた。




