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聖女様が敗北した後の世界  作者: 渡辺 佐倉


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3/8

変人の集まり

「あまり……。

一族には私より変わり者がわんさかいますから」


そう言って笑みを浮かべるその表情が何故か得意気で朱里は、ああ、と思う。


「その滅茶苦茶な髪の毛と、それに全くあっていないドレスも変人の一環なの?」


朱里の嫌味の言葉にエリーシャの令嬢は少し驚いた顔をした。

何に驚いたかは謎だった。

髪の毛が滅茶苦茶なのは誰が見ても明らかなのに。


「このドレスは今日のために急遽準備した物なんですよ。

宮殿にはドレスコードがありますから」


そう言ったあと髪の毛に触りながら「女性は髪が長くあるべきという常識以外ルールは無いんですよ」と言って笑った。


「あなたもそういう最低限のルール以外従う気が無い方だと思っていたので少し驚きました」


今度は朱里が驚く番だった。

聖女について言われていることは、何も学ばないで上流階級の男に侍ってその婚約者からいじめられたと嘘をついた。

そして逆に気に入らない人間に対して物を壊したり、暴漢をけしかけてみたり、そして直接暴力をふるったという話になっている。


暗黙のルールすら守らない人間だという評価になっていた筈が朱里がそういう風に言われることに驚いた。


「何故、上流階級のマナーを覚えなかったのですか?」

「多分、あなたと同じ理由よ……。優先順位の問題よ」


朱里は答えた。

この場所は二人しかいない。

本当に、二人しかいない。


「不要なのよ聖女に高位貴族レベルのマナーなんて。

覚えなければならないものが多すぎる中、不要なものは諦めるしかないわ」

「それが不興を買うとしても」

「どんなに私のことを嫌ったとしても、当初の話だと私は一年後には神殿の敷地から出れなくなるはずだった。

そもそも、顔を合わせることの無い人たちのマナーを覚えることに何の意味があるのよ。

神殿に高位貴族本人が来ること自体稀だし、正式に神殿に入った後は御簾越しでしか話さないのよ。

しかも私の言葉は一旦全て神官が預かり伝える形になるわ」


話もしない人間の話し方のルールを覚えても無駄だし、何度美しいカーテシーを練習しても披露する場はない。

お茶会での美しい所作も、そもそも聖女はお茶会には呼ばれない。


朱里にとってそれらは全く意味のない事だった。


「ただ、こうなってしまったのだから優先順位を間違えたって事ね」


朱里は言った。それから「男に侍る方が優先順位が高いんですか?って聞かないの?」と付け加えた。


「私が調べた範囲ですが、あなたに親しい男性はいないですよね。

そもそもそれは優先順位に入ってないでしょう。それこそ男は神殿に連れて行けないですし」


それからじっとエリーシャの令嬢は朱里を見た。

その視線は顔から体にそして、手枷につながれている彼女の手に注がれる。


「あなた、この国の言葉が分からない。

そうでしょう?」

「……別に私の召喚に関わった王宮の人間たちは皆知っている事実よ」


朱里は吐き捨てるように言った。

勉強もせずに男を侍らせていた。

家庭教師たちも匙を投げた。


一部だけはきっと事実なのだろう。

書かれたものがまるで分からないのだ。

しかも話せてしまっている。

恐らく召喚の影響なのだろう。


自分が話している言葉、聞こえている言葉とまるで関連の無い言語が書かれているものを理解する。

それは並大抵の努力では無理だ。

教える側は一切書物を使わないで教えるか、それこそ幼子に教える様に先にこの国の言葉を教えねばならない。

その上時間がかかるだろう。

けれど、調べた限りそういうことをしたという記録は無かった。


何故、教科書も読めない聖女を学園に途中編入させたかさえ合理的な理由は無い様に見えた。

そうして、マナーも覚えず、成績もいつも最下位。

授業を抜け出しては何かをしている聖女という存在が出来てしまったのだろう。


誰かにこびへつらってしまえば、あるいはと思った。

けれどそれが朱里という少女に不似合いなように見えた。

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