穴を掘ってみました
「で、その知のエリーシャが何のためにこんなところへ」
朱里には意味が分からなかった。
この世界に来てからずっと意味が分からない、糞みたいなものばかりだったけれどそれにしても意味が分からない。
知り合いでもないこの人間が何故地下牢にきたのか。
「今回の件の調査を頼まれまして。
同世代で且つ、宮殿内に入ることのできる貴族で、且つ学園に通っておらず第三者の目で評価できるということで私が選ばれました」
「その心は?」
「あなたを極刑に処して、次の聖女を召喚するのは難しいので落としどころを探るというところでしょうか?」
令嬢、エリーシャの一族の者は笑みを浮かべた。
「私はいつ死んでもいいと扱われているのだと思った」
じめじめと酷い環境の牢を見回して朱里は言った。
エリーシャも牢を見回した、そして外に聞こえる大きな声で言った。
「私の様なか弱き令嬢がこんな劣悪な場所に居続けること等できません!!」
そういうと、悪い顔で朱里に笑いかけて「これでとりあえず貴人牢には移れると思います」
そう言った。
* * *
エリーシャの言った通り何人かの役人がバタバタと行ったり来たりをした後朱里は貴人牢に移された。
その代わり木でつくられた手枷をはめられたけれど。
二人は貴族用としては簡素なテーブルセットに座った。
「押し付けられた様なものとはいえ、私頼まれたからにはきちんと調査をしようと思いましたの」
エリーシャはそう令嬢の様な話し方で言った。
「まずはあなたが学園で行ったという悪行の数々を調べました」
朱里は王子が断罪の時に高らかに宣言していた朱里の罪とやらを思い出していた。
「男達を侍らせる。
ほとんどの一般的な感覚の日本人は気持ち悪いと思うでしょうが、これは、日本でもオタサーの姫と呼ばれる方もいますしね」
朱里は意図が分からなかった。
だから観察するようにエリーシャを眺めた。
「ああ、冤罪の証拠があるかどうかは最終的な落としどころとしては無駄じゃないですか。
勿論あればそれは武器になりますが、『王子が証拠や証言を捏造しました』と認めるのは国としてあり得ないので。
逆にやったという証拠があったらそれは落としどころを決めるために意味があるでしょうけど」
そう朱里は当たり前の様に言われた。
「だから、私は事実の確認と一緒に、異世界人にそれが精神的に可能かを考えたんですよね」
エリーシャは淡々と言った。
「教科書を破る、そして持ち物を水浸しにする。
この辺は人によりますができる人はいるでしょうね」
でも、そこで話を区切ってからエリーシャはいった。
「直接的に暴力をふるう。
階段から突き落とす。
ナイフで脅す。
そして破落戸を雇って襲わせる。
この辺はノウハウとそれをやっても精神を保てるバックボーンが必要なんですよね」
困ったようにエリーシャは言った。
「私もそういう人間かもしれないわ。
例えばそうね。ドラマで見たサイコパスみたいに」
朱里は少しだけ面白くなってそう聞いた。
エリーシャはパンと手を合わせて言った。
「私もそれは考えました。
そして大変申し訳ないですがあなたの家として与えられていた神殿内の小さな居住の庭を掘り起こさせてもらいました」
だって、ほら。そういうサイコキラーの様な方はまずは小さな生き物からというじゃないですか。
朗らかにいうエリーシャを見て、朱里は思わず心の中であなたの方が日本の考え方として行動がおかしすぎるじゃない!! と思ってしまった。
「勿論、何も出ませんでした」
「当たり前でしょ?」
朱里は今度こそ大きくため息をついた。
「あなた変わってるって言われない?」
そしてエリーシャにそう聞いた。
召喚でも転移でもいいんですが、悪事をいくらできる能力や伝手があったとしてもその選択肢を気軽に選べる精神と結果が出ても平気でいられる感覚って、あまり現実世界の現代人持ち合わせてないのではと思ったりしてます。カッターキャーができる精神性のキャラはそれはそれとして好きですが。




