地下牢にて
「あんた、誰?」
薄暗く、じめじめした空気が満ちている宮殿の地下牢で黒い髪の毛をざっくりと切られた少女が言った。
彼女の見つめる先にいたのは、上等なドレスを着た少女。
成人は迎えていないのだろう。
上等なドレスに不釣り合いな整えられていないロングヘア。生まれつきなのだろうか。
うねるようなウェーブのかかった髪の毛のボリュームがすごい。
「誰だと思います?」
「少なくとも処刑人じゃなさそうでよかったわ」
少女、少し前までこの国で聖女と言われていた朱里は馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
聖女は貴族たちの通う学園を乱した罪、この国の未来を担う若者たちを混乱させたということでここに閉じ込められていた。
その彼女に悪びれた様子は全くない。
その瞳は憎悪に爛々と燃えていた。
「魔法で刑を執行できるかもしれませんよ?」
「その上等なドレスで?
処刑人をやるような家系の人間はそんなドレス着れないでしょ?」
朱里に言われた令嬢は驚きはしなかった。
ただ、納得したように目を細めて笑った。
そして言った。
「ねえ。あなたが元居た場所が『日本』だというのは本当?
京都はあった? スカイツリーは? アメリカの大統領は誰だった?
好きなドラマは? 漫画でもいいわ?」
まるでまくしたてる様に言われ、朱里は目を丸くした。
この国に聖女として召喚されてから聴取を受けた。
そこで話せたこと、話せなかったこと。
話さなかったこと。沢山のことがあった。
だけど、その情報で聞いているのではない事は分かった。
「何? もしかしてあなたも転移者?
新しい聖女サマってやつなの?」
朱里は聞いた。わざわざ前の人間の失敗を見に来たのか?
「ああ、『イセカイテンセイ』があるのは同じっぽいですね」
令嬢は納得したように言った。
「あなたは転移者、私は恐らく転生者というやつです」
そう言って令嬢は何が面白いのかにっこりと笑った。
「そして、あなたをここから解放することができるかもしれないものです」
そうはっきりと令嬢は言った。
朱里は考えた。
上等なドレスを着ていて、同世代で、けれど、学園であったことは無く。
誰もこの場所に帯同していないので他国のものではないだろう。
この国の人間で、けれどこのドレスを着れる階級のもので、そしてこの牢に単独で入ることが許されるもの。
「知のエリーシャ……」
「あら。ご存じでしたの!!」
令嬢は微笑んだ。
噂だけは聞いていた。
この国には変わり者の貴族がいると。
知の蓄積を目指し、社交はほとんどせず。
けれど財をなし、国に貢献している変わり者の集まり。
学園も、知識はその年にはとっくに得ていると、通わない珍獣の様な貴族。
その一族の名を朱里は聞かされていた。
その一族に自分の年に近い年齢の令嬢がいることも
何故か髪の毛がうねっていることも知らなかったけれど、それは聞かされていた。
「やはり、先に聞かされていた、男好きのお馬鹿さんというのは間違いだったみたいですね」
満足げに言われて、朱里はため息をつきそうになった。




