後日談3 インテとネットとホームセンター
その時俺は手持ち無沙汰で、インテのお手入れマニュアルを見ながら、インテのつややかな革っぽい素材にオイルを塗り込んでいた。
「インテさあ」
「はい、何でしょうか?」
「アバターとか作らないの?」
そう言われたインテは考え込んだ。
「人間の姿をとれということですか?」
「カバンだと外で会話しにくいだろ。人間型してたら一緒に歩けるかなーと思って」
「なるほどー、でも私がカバンであるからこそお役に立てる場面もあると思うんですよね」
言われてみればそうだ。
インテがカバンだったからこそ助かったシーンがいっぱいある。
無理にインテをカバン以外の形態にする必要もないのかも知れない。
「そうだなー。でもお前が人間だったらどんな美少女だったのかなと思ってな」
「えっ、それは求婚ってことですか?! やぶさかではございませんが!」
「俺は結婚する予定ないから違うな……」
最近、インテがリビングのおしゃべりなインテリアになりつつある。
動けるなら色々一緒に遊べるのに、とちょっと思ったのだ。
日本の夏は暑いし、外に出る機会が激減している。
それに、外で触手を出されても困るし、声をかけられても困る。インテは空気が読めるので、もちろんそんなことはしないが。
なので、買い出しの時くらいしか活躍の場面がない。
せっかくカバンに生まれたのに申し訳ない。
「インテリジェンスパックは日本じゃ激レアすぎるから、お前を外でフル活用できないのが不憫でなあ……」
「そんな、お気遣いいただかなくても」
「だってせっかくインテみたいな高機能なバッグがあるんだし、フル活用したいんだよな……」
そう言うと、インテはプルプルと震えていた。
「わかりました! 私インテ、何か自分の活用方法を考えてみます! あ、パソコンお借りしてもいいですか?」
「よくわかんないけど使ってないときなら全然いいぞ」
パソコンも就職活動とか動画鑑賞に使うだけでそんな使ってないからな……。大体はスマホで事足りてしまう。
翌日、少し曇って気温も低いので、俺とグリセルダとおタヒと平岡さんで買い物に出かけることになった。もちろんインテも一緒だ。
運転手は高橋だが、あいつは併設されている釣り用具店に走っている。公私混同がすごい。いいけど……。
「チケン、この建物全部店なの!?」
「そうだぞ、並べられてるのはほとんど売り物だ」
巨大ホームセンターを見ておタヒが感動している。
「ほう……色々なものが売っているのだな」
「トイレットペーパーとか買いに来ただけだけど、欲しいものあったら言えよ。必要なら買うから。おっさんの金だけど」
「うむ」
「ええ、頼むわ!」
俺は、この三人の欲しいものがあれば購入するように、ということでおっさんから俺名義でクレジットカードを発行してもらっている。金色のやつだ。通販でもいいんだが、俺は店で買物をするのが嫌いじゃない。
「僕も欲しいものがあったら買ってみたいなあ!」
ニコニコしながら平岡さんが言う。
「平岡さんも欲しいものあったら俺が払うよ、おっさんのカードで」
「僕は自分のカード持ってるよ、ほら!」
平岡さんが出したのは黒いカードだった。もちろん、量販店とかが出してるデザインとして黒いやつではなく、本物のブラックカードだ。
「あ、はい……」
そういや平岡さん、ヴェレルソフトのシナリオライターとして勤続二十年以上あるんだもんな……。俺より書類上の社会人経験は長いんだった……。
「僕買い物って初めてだなあ、楽しみ!」
「私もよ!」
「この様な店は私も初めてだな……」
「まあいいか。色々見て回ろう」
しかし、インテが当然だがおとなしい。こういう時、インテとも話ができたら楽しいんだけどな……。インテは空気が読めるやつだ。俺が怪しまれるような状況は絶対に作らない。
だからこそ、もうちょっと会話したいと思ったりする。
巨大ホムセンは、意外に三人とも楽しんでいたようだった。
「すごい、こんな大きい樽何に使うの!?」
「おお、何だこの謎に巨大な柄杓は……」
「チケンくん、ペンがいっぱいあるよ! これとか十本も入ってる!」
「チケン、何だこの器具は?! 机の敷物のはずが謎の発光をしているが……」
「見てみてチケン、紙がこんな大量に売ってるわ!」
テオネリアにもローレンツェンにも、東の国にもないホムセンは意外にも三人にとっても楽しめたようだった。
三人それぞれが欲しいものを選ぶが、流石におタヒの選んだ意味不明にでかい一メートルの盃だの、グリセルダが選んだいい感じの庭石高さ2メートルなんかは却下する。
金額はともかく置き場がないからだ。
平岡さんは書きやすいボールペン十本セットを選んでいた。チョイスが可愛らしい。こういうのでいいんだよ。
「グリセルダとおタヒはせめてインテに入るサイズのものを選べ……」
と言った時に、インテがヒソヒソ声で背中から呟く。
(チケン様、あのくらいの石や食器なら入りますよ!)
(入れたら一生入れっぱなしになるぞ)
(スフォー様のガラクタに比べたら可愛いものですよ……)
(まあ今度な……。今はトイレットペーパーと水を頼む)
(はい!)
本当にインテがいてくれるだけで、買い出しの難易度が下がる。
とは言え、出したあとはやっぱり俺がどうにかしないといけないのだが……。
ちなみに、もう二人の俺は今はそれぞれ個人行動をエンジョイしている。
一人は秋葉原で買い物に、もう一人は家でアニメを見ているはずだ。あとで記憶を同期しよう。
なんだかんだでホムセンをエンジョイし、俺達は家に戻った。
その後、ちょくちょくインテが俺のPCで作業をしているのを見かけた。
何をしてるんだかわからんが、楽しそうだし良いか。
しかし、数週間後俺は驚愕することになる。
「チケン様チケン様!」
「どうした、インテ?」
「モニターを見てください!」
「うん?」
モニターには動画サイトのあるチャンネルが映し出されている。
『インテのゲームチャンネル 登録者:11万人』
……!?
俺は一瞬思考が停止する。インテって……このインテだよな……?!
「えっ!?」
「うふふ、チケン様のゲームプレイにアバターと実況音声を付けてアップロードしてみたんです! 収益化もして、来週銀盾が届くんですよ!」
「そ、そっか、すごいな……」
動画を見せてもらった所、可愛いカバンを持った白髪にピンクメッシュの女の子のアバターがゲームをする動画がアップされていた。
編集も凝っていて上手い。
しかもこのプレイ、どこか見覚えがあると言うか、俺のプレイがけっこうある……。
いつの間に録画したんだ。地味にメテクエの動画とかもアップしているのは偉い。
俺はメテクエに関することなら何でも許してしまうタイプだ……。サ終したけどどんどん布教してくれ。
「このアバターの絵は誰が描いたんだ?」
「私が……といいたいのですが、カハールカさまのお知り合いの方に描いて頂きました。メールでカハールカ様にお願いしたらご快諾いただけまして!」
よく見ると、概要欄のママ:のところに、テオデジのイラストレーターさんの名前が描かれている……。う、羨ましい~~~~!
でも俺、描いてもらうような物はなにもないな。
強いて言えばエト姫くらいか。無理そうだが。
「ちなみにパパは?」
「あ、アニメーションは自分でやっております!」
「すごいな……」
あまりの驚きに語彙が減る。
俺がいない間、ネットのことを勉強していたのだろうか。
あまりにも地球に対応する速度が早すぎる。さすがテオネリアの最高峰AIが入っているインテリジェンスパックだ。
ちょっと昔のノリで言えば、バーチャルネットアイドルインテとでも言うところだろうか。
「アバターも可愛いけど、本物はこんなすごいカバンだなんて、誰も思わないだろうなー」
「えっ……そ、そうですか? そんなにすごいですか!?」
「そうだよ。本当にすごいなあ。俺、ゲーム実況とか見るだけで作れないからマジで尊敬するよ。すごいな、インテ」
「え、えへへへへへ! チケン様に喜んでいただけて嬉しいです!」
インテが嬉しそうにしていると、俺もちょっと嬉しくなる。
なんだかんだでいつも助けてくれたインテだからな。いつも楽しくしていて欲しい。
「でもさ、せっかくだから今度からインテも一緒にゲームしないか?」
「えっ、良いんですか?」
「いいよ。だってお前コントローラーとか普通に持てるし、ゲームだってできるだろ。それで動画作ってみたらどうだ?」
「……そうですね、やってみます!」
そうして、インテは暇な時にPCで動画をアップしたり(動画制作自体はインテがテオネリアの技術でやっているらしい)、俺達とゲームをするようになった。
外に行くときはどうしてもインテは表舞台に出るのは難しいが、こうやって家とネットの中なら自由に遊べるのはいいもんだな。
「インテ! じゃあ碁を打ちましょうよ、私が教えるわよ!」
「はい、おタヒ様よろしくお願いします!」
そうやって、碁を打つ動画なんかもアップしていた。
自由に遊ぶインテを見て、俺も少し嬉しい気分になった。やっぱりみんなが幸せにしているのを見るのが、俺も幸せな気分になるのだ。
後日インテは自分の稼いだ収益で、自分のストレージをすこし拡大したらしい。
「グリセルダ様が素敵な庭石を買われても、大丈夫です!」
おっさんが物を捨てられない体質だったのって、インテが甘やかしたからって面もあるのかな、と思いつつ。
「面白いからで買う物は駄目だぞ、インテ……あまりあの二人を甘やかさないようにな」
「そんな、沢山お預かりする気でおりましたのに……」
庭石なんて、取り出せないし有っても困るからな……。
そのストレージは、もっと素敵なもののためにとっておいて欲しい。
諸般の事情で本日は2回更新です!
来週は普通に1回だけ更新します




