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こんなことがありました。  作者: 金子よしふみ
第二章 新しい生活

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夏凪カンナ

 放課後、鷹鷲は部活に行った。あのでかい声とエナジーの暴走をもっと有効に使えないものかと思うのだが、まあこれで静かにいられる。ゆっくりと街並みを堪能しながら帰途につけるというものだ。

 そのはずだった。俺は声を発することもなく教室を出て行こうとした。が、廊下をけたたましく鳴らしながら、近づいてくる駆け足の音が聞こえてきた。次の瞬間、一人の女子生徒が教室に入って来た。もとい、訂正しよう。突入してきた。

「ちょっと、伸大! 来てんなら連絡しなさいよ」

 その女子生徒が俺を一喝した。教室内に残っていた生徒の視線砲火をまたしても浴びることになってしまった。

 確かにこの件に関しては、連絡を怠っていた俺に非がある。何せこの女子の性格は十全に知っており、連絡をしなければ、こういう事態になりかねないと予想はできていた。しかし、もう高校生なのだから、そんな猪突猛進もないだろうと、高をくくっていたのが悪かったのだ。正直言えば、これも後の言い訳でしかない。つまりは連絡一つするのも面倒だったのだ。

「悪かったな、カナ姉」

 (なつ)(なぎ)カンナ。俺と同郷の一つ年上。スポーツ推薦でこの高校に入学していた。ショートカットの髪が駆け足の勢いをそのまま残し、まだ宙を舞っている。竹を割った性格とは一般的にいう言葉であろうが、カナ姉に関していえば、竹を粉砕したと言い表した方がいい。

 制服のリボンの色で先輩と分かったであろう教室内のクラスメートたちは、きっと思ったであろう。

「あのそっけない転校生をどなる先輩……どういう関係?」

 てな。それにしてもこんな勢いで教室まで来なくてもいいだろう。いや、授業中に突入して来たり、下校時に校門の前で仁王立ちになっていられたりするよりかは、ましだったので、よしとして納得しておかなければなるまい。

 俺は動揺していない(てい)で教室から出て行った。

「ちょっと待ちなさいよ、伸大」

 カナ姉は教室内の生徒たちをモブキャラ以下のアウト・オブ・眼中の扱いにして、俺について来た。部活に向かう生徒たち、帰宅に向かう生徒たちでにぎわう廊下の喧騒を打ち消すような、でかい声が俺の隣で響いていた。

「で、俺があのクラスだって誰から聞いたの?」

 カナ姉からの矢継ぎ早の質問やら感想やらを受け流した後、俺の番とばかりに尋ねた。

「手当たり次第に二年の教室を見て回ったに決まっているじゃない」

 決まっているのはカナ姉の中だけであって、それを一般常識にしないでもらいたいね。

「千景さんから、転校してくるって聞いてたし」

 千景さんて言うのは俺の母さんで、おばさんと呼ぶと、そう言ったことを後悔するに十分なことが起こりうるので、カナ姉はそう呼んでいる。その母さんからカナ姉の所に連絡があったそうだ。どおりでカナ姉から、俺の携帯にも着信やらメールやらがごそっと届いていたわけだ。

「伸大のこと、よろしくねって言われたし」

 かつてのご近所さんに何を頼んでいるのかと、後で実家に連絡した時に一言添えておかなければなるまい。

「おじさんは、海外だって」

 別にそれは聞いても聞かなくてもどっちでもよかった。父親は俺にとってはごく親しい銀行みたいなモノんだからな。

「そんなこと言わないの」

 俺をたしなめてから

「私の担任にも、二年の学年主任にも聞いたけど、教えてくれなかったから、一教室ずつ確かめたってわけ」

 そんなことを言った。行動する前にちゃんと聞いたわけか、これを人は成長というのだろうな。

「部活は何かするの?」

「そんな気はない」

「ふーん、そっか」

 それだけで答えたかと思うと、

「じゃあ、私は部活の後輩を教えに行くから、夜にでも連絡しなさいよ」

 と言って、駆け出して行ってしまった。

 それにしても怒涛だったな。連絡しなさいって、何をすればいいのだろう。感動の再会は果たしたはずだろ。俺はご覧の通りピンピンしてただろ。これ以上何を知らせたらいいんだ?

 とはいえ、連絡しないと、きっと明日も教室に乱入してくるだろうことは推測というより推定であるから、面倒でも、メールの一つでもしておこうかな。そうだな。夕飯に何喰ったかぐらいでいいか。

 そんなことを思いながら、俺は転校初日の学校を出て行った。

 校門を出る時、一度振り向いてみた。日はまだ高く、白い校舎が照らされていた。ガラスがまぶしくて見ていられなかった。じっとしていても汗が額を、そして背を伝っていった。故郷とは違う、うだるような熱があふれていた。

 部活だろうか、血気盛んな声が聞こえていた。ランニングから帰って来た、汗まみれの生徒たちとすれ違った。蝉の声も聞こえていた。

 夏が始まる景色だった。

 夏が始まる音だった。

 しかし、俺にとってはどれも遠い世界のことのように思えた。


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