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こんなことがありました。  作者: 金子よしふみ
第二章 新しい生活

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秋山鷹鷲

 登校初日の半日を過ごして、気づいたことがあった。それは校内が緊張感に満ちているということだった。いや、違うな。しっくりいく表現にするなら、メリハリが効いていると言った方がいい。

 例えば、秋山(あきやま)(よう)(しゅう)というクラスメートのことを聞いてもらおうか。

 俺の斜め前の座席のコイツは、早々に話しかけてきて、自己紹介やら学校のことやらをペラペラしゃべってきた。俺に何かを語らせようとはせずに一方的に。男の多弁はモテないんじゃないかと思うくらいの 冗長的に。

 一言で鷹鷲を表現するなら、どこにでもいるお調子者、ということになる。

 短髪に、いかにも体育会系な体躯とノリ。休憩時間にさんざんアホなことをしたり言ったりしているのに、授業中に騒ぐことはなかった。教師が教室を盛り上げるためにする話に便乗することはあったが、それ以外はマンガを読むようなことも、内職さえもすることはなかった。

 お調子者というのは、学校が決めた時間や項目を無視して、超法規的にアホなことをするからこそ、お調子者というレッテルを張られるというのが、俺の小中高の些末な経験から導き出されていた定義なわけだが、ここでは該当しなかった。

 鷹鷲だけではないのだ。クラスにはいるだろ、数名くらいそういうお調子者が。しかし、いないのだ。休憩時間には明らかにアホな行動をしているっていうのに。分別あるお調子者。形容矛盾に聞こえて仕方ないのだが、事実なのだからそう述べざるを得ない。

「なあ」

 ある休憩時間、そんなお調子者に声をかけられた。

「お前って、どっちで呼んだらいいんだ?」

 この唐突な、前置きのない、文脈無視の尋ね方一つとっても、鷹鷲が残念な部類に入るのを垣間見ることができるというものだろ。

「どっちって、何が?」

「苗字と名前だよ」

 俺は他人から「お前」呼ばわりされるいわれもなければ、苗字であろうが、名前であろうが、どう呼ばれても構わない。まあ、よっぽど親しくなければ名前では呼ばせないがな。

「どっちでもいい」

 投げやりに答えたつもりだったのだが、鷹鷲には十分だったらしく

「じゃ、ノブな。だから、オレも呼び捨てでいいから」

 何に対して「だから」だ? まったく順接になっていないぞ。しかも、名前ですらねえぞ、「ノブ」って。名前の半分じゃないか。誰もあだ名を付けろなんて言ってないんだぞ。

 が、しかし。しかしである。コイツにはこんな風に呼ばれても不快な気分にはならなかった。いや、むしろ、こういう呼ばれ方の方が、コイツに呼ばれる時にはしっくりきた。なぜなのかは、今になっても俺にとっては謎であるが、解答を考えるのも時間の無駄な気がしたので考えることはない。いずれにせよ、仕様がない。何でもいいって言ったのは俺の方だしな。

「どっちでもいいよ」

 ぶっきらぼうに言ったつもりだったのに、鷹鷲は屈託なく笑っていた。まったくもってもったいない。ボーイ・ミーツ・ガール的な展開にも可能性がゼロではない、笑顔なのにな。


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