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観覧車
ゴンドラの中は二人きり。園内に多くの人がいるにもかかわらずその声は遠く小さく聞こえるだけで、隔離された静謐な空間の出来上がりだった。この状況でいろいろと頭の中で想像やら妄想やらを展開しないという理由がないというのは、よほどの鈍感野郎だが、俺とても相手がカナ姉とはいえ、シチュエーションがそうさせたとてなんら不思議はなかった。
「ねえ、伸大」
窓の外を見ていたカナ姉の口調はいつになく穏やかで婉然と聞こえた。
「何?」
平静を装わなければならなかった。しかし、カナ姉はすぐに言葉をつなげることはしなかった。ややあって
「ほら見てごらん」
指した。頂上に近づいていくゴンドラからは海が眺められた。
「高く上がると、こうやって見られるんだね」
「そうだな」
それきりカナ姉が口を開くことはなく、俺も何かを言わなければならない気も起らなかった。
それも観覧車から降りると、カナ姉はいつもの明るい様子で
「ほら、バスの時間だよ」
と言って早歩きで進んで行った。
車内ではすっかり寝息を立てたカナ姉が俺の肩に頭を寄せてきた。そこから離したら、カナ姉は自分の頭を窓にぶつかるというのも目に見えていたので、駅に戻るまでそのままにしておいた。




