ランチ
そうこうしていると、正午近くになっていた。園内の人ごみを見つめながら、
「そろそろランチだけど……レストランは混んでるだろうな」
の俺の一言に
「用意してあるよ」
カナ姉は肩から下げていたバッグを軽く叩いた。
入口ゲートから正反対に設けられていた無料の休憩施設に入っての昼食となった。
カナ姉のトートバッグは保冷バッグだった。シックな感じのバッグだったからまるで気づかなかった。これまた俺の驚愕となった。なぜなら、保冷バッグを使うなら、以前のカナ姉なら銀色の表面のものを使っていたのだ。それがどうだ。一見してそれとは気づかないようなバッグを使っているとは。
「どうしたの?」
俺の表情が、どうやら眉を引くつかせていたようで、タッパーをテーブルの上に置きながらカナ姉は不思議そうに聞いた。そのタッパーが無色透明だったのを見ると、俺は何とも言えない安堵感に浸った。そこでファンシーな弁当箱が二つ出され……カナ姉ならありうることだったが、それでも二人分だからと言う理由でそれを選択する辺りにカナ姉の普遍性が垣間見られたのだった。
内容物は、おにぎり、卵焼き、タコさんウィンナー、小型のハンバーグ、プチトマトのシンプルなものだったが、ハンバーグは冷凍ではなく手作りだった。それがなぜわかったかと言えば、とりもなおさず味であった。幼少からカナ姉の手作り物を食ってきた舌がそう判断したのだ。間違いはない。それにしても、昨日の今日でこれだけ準備するとは、きっと早起きしたのだろうし、この弁当用の買い物にも行ったろうし。
「上手いよ」
それを謝辞のつもりで言った。
「そ、そう」
なぜか噛んでしまったカナ姉は、慌ててプチトマトを口に運んでいた。
「なんかさ、洋服もめっきり可愛らしくなってさ、カナ姉の香りも前と違っているから、今日は驚きっぱなしだけどさ、手作り料理は変わってなくて安心したよ」
「そ、そんなの、伸大がこっちに来てからも、私がお弁当作ってあげることもあったでしょ」
「それはそうだけどさ、何かね。言いたくなったからさ」
「そ、そう」
梅雨だと言うのに、晴天で日差しが強かったせいで日焼けでもしたのであろうか、カナ姉の顔が随分と赤くなっているように見えた。
食事が終わって、タンブラーからお茶が紙コップに注がれた……いやはやタンブラーまで用意してくるとは。俺の知らない所でカナ姉の面倒見良さのスキルは、段違いにアップしているらしかった。
「カナ姉、アイスがいい? それともかき氷?」
ランチをごちそうされっぱなしと言うのもなんだし、デザート代わりにどうかとの提案をしてみた。休憩施設の脇に売店があったから都合がいい。
「じゃあ、かき氷」
「シロップはいちご?」
「うん」
「それも変わんないんだね」
「ちょっ! 子供っぽいってこと?」
「違う違う」
慌てて席を立って売店へ駆けた。カナ姉の変わった所がカウントアップされていくなら、変わらない所もカウントアップしないとなんてことが言えるわけがなかった。
それにかき氷にかけるシロップの件で言えば、
「俺は相変わらずメロンなわけだから、俺だってガキだってことになるぜ」とも言えたなんてことを思いついたのは両手にかき氷のカップを持って席に戻った時であった。
カナ姉は冷やしたタオルを顔に当てていた。やはり日焼けしたのかと思いつつも、出前品を差し出した。すっかり赤見が引いた顔のカナ姉は、実に上手そうにかき氷を口にした。




