地理準備室へ
そんなこんながあって、鷹鷲が騒ぐものだから、俺は仕方なくついて行くことになった。
放課後、鷹鷲が部活に向かう前だった。
教室が並ぶ第一棟から渡り廊下を経て、各教科専用――例えば化学実験室や美術室やら――のある第二棟。人気のない四階の端の教室。地理準備室の前まで来た。
「ここか?」
「ああ、ここだ」
「こんな所に御神体があるってのか? それとも法力を使える坊さんでもいるってのか?」
俺の疑問に、鷹鷲はただいたずらっぽく笑っているだけだった。一体、一教室で何を拝むんだと思っていた。
鷹鷲がドアを開けた。
一人の女子生徒がパソコンに向かっていた。薄いカーテンからこぼれる日差しが、俺たちに向けられた顔に影をつくった。しかし、それでも彼女のことを見ることができた。その確信に満ちた眼光、真一文字に結んだ口元、背筋をぴんと伸ばした毅然とした姿勢。ロングの黒髪が振り向いた拍子になびき、緩やかな陽射しでキラキラとしているように見えた。
今思い出しても、驚くことなのだが、俺は意識する前につぶやいていた。
「カミ様」
言い当てて妙なニックネームだと、その瞬間理解した。
「御神体であらせられるぞ」
こんな時にも鷹鷲はこんな調子だった。そして、そのお調子者がここに至って彼女のことを紹介した。




