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こんなことがありました。  作者: 金子よしふみ
第二章 新しい生活
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期末テスト前のランチタイム

 週が明け、登校してみると、学校内がそわそわと落ち着かない雰囲気になっていた。無理もない。期末テストがいよいよとその背を見せていたからであった。

 そんなある日、午前の授業が終わり、ランチタイム。学食に向かう生徒もいれば、教室内で弁当を広げる生徒もいる。弁当つながりで言えば、校庭のベンチや屋上で弁当を広げる生徒もいる。

 鷹鷲は当たり前のように、俺の前の席のイスを回転させ、俺と対面になってそこに座った。カナ姉からの昼食は遠慮していたため、コンビニで買ってきたパンや紙パックのジュースを机上に広げていた。

「はあ」

 食べ始めた途端にため息を一つした鷹鷲に

「どうした?」

 と尋ねてしまった。鷹鷲はナイス振りと言わんばかりに堰を切ったように話しかけてきた。だから、言って後悔したのだ。なぜ、聞いてしまったのかと。

「もう後二週間もすれば期末テストなんだぜ。俺なんて部活ばっかりだから勉強なんて二の次、三の次なんだよ。部活が休みになるのはテスト一週間前だし、その一週間での追込みは苦痛以外の何物でもないね。しかも、二年になって、ますます訳分かんなくなって……」

 鷹鷲の言葉の途中で俺は遮って言った。

「だったら毎日少しずつでも予習や復習したらどうだ。っていうかよ、部活を選んだのはお前なんだから、愚痴ってねえでやってくしかねえだろ」

「まさしくその通りだ。んなわけで数学のノート貸してくれ」

 何の文脈で「んなわけで」と数学がつながるか俺には皆目見当もつかなかった。さすがは鷹鷲。俺とはまるで違う思考回路で発言するのは、この日も変わりなかった。とはいえ、俺は鷹鷲の申し出を容易に一蹴することができた。なぜなら

「俺、ノート書かないから、貸せないね」

 だったからである。それを聞いた鷹鷲の顔は驚嘆というより、アホ全開なキョトンとした、言語不理解の表情になった。きっと人類が宇宙人と遭遇したら、きっとこんな表情をするだろうという顔だった。良かったな、鷹鷲。人類の先駆けとなるフェイスアクションをとれたんだ。

「ノート書かないって……なんで? てか、お前、勉強どうしてんだ?」

「いや、どうって。話聞いてりゃ分かるじゃん」

 アホの驚嘆はますます深くなった。

「聞いてりゃって、何を?」

「授業」

「ジュギョウ?」

 この単語は小学校から知っているはずなのに、まるで古代文明の未解明な象形文字のような単語の発音になっていた。

 というわけで、どういうわけかを話したわけである。

「教諭がさ、やり方とか内容とかを懇切丁寧に解説してくれてるんだから、それを聞いておけば、わざわざ板書を書き写す必要性なんてないじゃないか」

「……」

 無言な鷹鷲のフォローするわけではないが、俺だってノートを開いてないわけではない。面白いと思ったことはメモ書きのように書き留めるようにはしている。例えば、ガウスが小学生の時に一から百までの和算を五分で解いたとか。

「じゃあ、ノブには苦手科目がねえってことか」

「そんなことはない。社会科系は苦手だな。手順とかコツがないからな。ひたすら覚えなきゃいけないし」

「へ~」

「だったら、あそこに行くといいわよ」

 話に夢中になっていたはずではないのだが、カナ姉が傍らまで来ていることに気付いてなかった。腰に手の甲を付けて仁王立ちになっている。

 この状況を避けるために、昼飯はちゃんと食うと言ってあったのだが、カナ姉はやはりというか気になったのだろう。主食以外のおかずだけをタッパーに入れて持って来たのだった。どうやらパンだけかおにぎりだけで俺が済ますというのが目に見えていたようだった。

「んで、どこに行くって?」

「カミ様のところだよ、ですよね?」

 鷹鷲は俺とお無さ馴染みとの会話が仲睦まじく映ったのか、カナ姉に付加疑問的に確認した。

「オレ達、勉強苦労生にとっての最後の砦。赤点、補習、追試から解放してくれる崇高なる存在」

 鷹鷲は演劇部でもないのに、まるでオペラのように語った。しかも立ち上がって、腕を拡げて。微妙な節だったけれど。

「困った時の何とかってやつか。なあ、鷹鷲、それなら今から勉強しておけよ」

「そうなんだけどな、やはりというか、念には念をというか、保険が必要というかな」

 アホの言うことは、意味が掴み兼ねるが、鷹鷲だけでなくカナ姉も知っていることなら、いかがわしさとか怪しさ満点と言ったことではないだろう。何より話題を振って来たのはカナ姉だし。ということは、どこぞの神社かで天啓の如く、おみくじにテストの山が書いているとかなのだろう、などとそんな風に俺は思っていた。

「俺も、困ったら、そこに行けってか」

 あくまで冗談半分で言ったつもりだった。鷹鷲はそれを聞いて俺に抱き付いてきやがった。止めやがれ、気持ち悪い。という意味を込めて一本背負いをくらわせてやった。俺にはそんな趣味は無い。

 ここで一筆。俺は護身術に覚えがある。祖父が師範代で道場を開いているので、俺はそこで身も心も鍛えられていたわけである。ちなみにカナ姉も門下生の一人である。護身術を習っていたのに、鷹鷲に抱き着かれた点に関してはスルーしていただきたい。何と言ってもこいつの動きは予想不能だから。

「心の友よ~」

 床に転がった鷹鷲が、どこかで聞いたことのあるようなセリフをのたまわって

「行く時は一緒に行こうぜ、ノブ」

 と続けるものだから、放っておくことにした。

「ほら、それより早く食べないとお昼休み終わっちゃうわよ」

 カナ姉の冷たい視線が食事再会の合図になった。そして、その瞬間に思ったことを今でも鮮明に覚えている。なぜ、あんなことを思ったのか。俺にはその必要性はなく、困った時のなんたらぐらいなら潔く身を切るつもりだったのだが。

 ――いつ行くかな、そのカミ様の所


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