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足手まといな俺(♂)ですが、スキルがお姫様だのアイドルだの言っています。ついでに幼馴染が全員戦闘狂です。  作者: 穂麦
三章

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【二十六話】悪魔と契約した者の末路 : メールボックスの死んだ日

エピローグです。

 自宅の玄関を跨いだときには、すでに日は沈みきっていた。


 どっと押し寄せる疲労感。


 だが、泥のように眠る前に、どうしても片付けなければならないことがある。


 俺は靴を脱ぎ捨てるようにして自室へ直行すると、即座にカーテンを閉め切った。


 密談の準備は万全だ。


 すぐさまスマホを取り出し、父さんへ向けて緊急の活動報告書を打ち込み始める。


 あまり知られたくない内容だから、チャットよりもメールの方がいいだろう。メールの方が暗号化が強固だって言うし。


 ~~


 【To: 父さん】


 件名:緊急報告(ダンジョン実習での異常事態)


 本日、実習先のダンジョンにて仮面の魔物と遭遇した。


 外見はライオン。例の仮面を装着していて戦闘能力が高い。


 柑奈は、周辺の環境がおかしいと言っていた。


 ライオンの出現地点のすぐ近くに、都合よく特効素材のマタタビが自生していた。柑奈の分析によれば、周辺の植生全体がライオンの好む環境で固定されているとのこと。


 おそらく、特定のエリアに魔物を留めておくための環境的な檻ではないかとも言っていた。何者かが意図的に配置した可能性が高いとも。


 ~~


 文章を打ち終え、俺は指を止めた。


 ……例の画像を送るべきだろうか?


 組織の陰謀やら情報の秘匿性を考えれば、迂闊なデータ共有は避けるべきかもしれない。だが、そもそもあの場にいたクラスメイト全員が見たのだ。いまさら隠しようはないだろう。


 なら、少しでも早く、そして少しでも多く情報を伝えた方がいい。


 俺は覚悟を決め、撮影したばかりの『親父ライオン(酔いどれ・腹出し・寝姿)』と名付けた、あの汚い画像を添付した。


 送信ボタンを、力強くタップする。


 数分後。


 デスクの上のスマホが、短く無機質な振動を返した。


 ~~


 【To: 慧】


 件名:Re: 緊急報告


 了解。すぐに裏を取る。重要な情報だ、よくやった。


 写真は保存した。


 笑った。


 ~~


「……やっぱり、そうなるよな」


 簡潔すぎる父さんの返信を眺め、俺は深く溜息をついた。


 父さんの「笑った」の三文字が、俺の今日一日の汚い想い出を、笑い話へと昇華させていく。


 スマホを置き、窓の外に目を向ける。


 窓越しに見える夜空は、冷たく澄んだ光を放つ星々が散りばめられていた。ふと、柑奈や穂と共に潜ったレベル1のダンジョンを思い出す。


 あの時、洞窟の天井を埋め尽くしていたヒカリゴケを見て、俺は「夜空みたいだ」と感じた。けれど今は、本物の夜空を見て「ヒカリゴケみたいだ」と感じている。


 順序が逆転してしまった自分の感性が少しだけおかしくて、小さく鼻で笑った。


 それにしても、本当に濃密な一日だった。


 記憶のファイルを開こうとすると、もれなく虹色のゲロを吐く仮面ライオンの強烈なインパクトが割り込んできて、思考が汚染される。


 これからも、こんな胃もたれしそうな日々が続くのだろうか?


 ……正直、体力がもつ気がしない。


 だが、静まり返った部屋で感じるこの疲れは、不思議と不快ではない。


 やり遂げたという充足感というか、騒がしい時間を全力で走り切った満足感というべきだろうか。


 そんな気分のいい疲れに身を委ねようとした瞬間、再びスマホが震えた。


 誰だ。柑奈か? それとも父さんの追加報告か?


 期待半分で画面をスワイプした俺は、そのまま思考もろとも硬直した。


 ~~


 【From: 穂】


 件名:コスプレはよ


 ~~


 ……本文なし。


 件名だけの、あまりにも端的な不審メール。


 その瞬間、忘却の彼方に追いやりたかった悪魔との契約が蘇る。


 猫モンスターの命を救うため、俺は穂に誓ってしまったのだ。「次回のコスプレは無条件でする」「撮影も許可する」と。


 俺は黙ったまま、机の椅子に座る。そして、そのまま頭を抱えた。


 あれは確かに人道的な判断だったと自信をもって言える。だが、いま思い返せば、悪魔に魂を売ったも同然の軽率なトレードだったとも思えてきた。


「……明日から、別の意味で疲れそうだな」


 これからも、納得のいかない疲れの方が圧倒的に多いだろう。


 理不尽に巻き込まれ、尊厳を削り取られ、周囲の変態たちに振り回される。


 だけどさ。


 そんな疲れのすべてを、いつか笑って思い出せる日が来るのなら。それはきっと、幸せなことなんだとも思う。



 でもな……


 俺は思うんだ……


 心の深いところから、本気で……


 ~~


 【From: 穂】


 件名:コスプレはよ


 ~~


 【From: 穂】


 件名:コスプレはよ


 ~~


 【From: 穂】


 件名:コスプレはよ


 ~~


 【From: 穂】


 件名:コスプレはよ


 ~~


 【From: 穂】


 件名:コスプレはよ


 ~~


 ………………


 …………


 ……


「これはないだろ……」


 俺はもう一度、メールという名のチビッコ悪魔()との契約書を読み返し、力なくベッドへ倒れ込んだ。


 それと、スパムはやめてくれ──うん?


 チャットアプリの通知音がしたんだが、なんでこんなに心臓の音が大きく感じるのだろうか。



 恐る恐る、チャットを確認してみると──



 【穂:コスプレはよ】


 【穂:コスプレはよ】


 【穂:コスプレはよ】


 【穂:コスプレはよ】


 【穂:コスプレはよ】


 ………………


 …………


 ……


 穂、メールとチャットの、ダブルスパムはキツすぎるぞ。

これで第三章も区切りとなります。

最後まで読んでいただきありがとうございました!



面白いと思っていただけた方へ。


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