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足手まといな俺(♂)ですが、スキルがお姫様だのアイドルだの言っています。ついでに幼馴染が全員戦闘狂です。  作者: 穂麦
三章

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【二十五話】これが最後の戦いになる。――頼むから、カッコイイ被写体であってくれ!

 親父ライオンが豪快なイビキをかいて爆睡する中、俺たちは気付かれないよう、その脇をすり抜けた。


 気付かれないようにする理由が、「親父ライオンに襲われたくない」よりも「絡まれたら面倒臭い」に変わっているのは、クラスメイト全員が同じだと思う。


 周囲には、マタタビの甘い香りと、虹色の吐瀉物が放つ酸味、そして猛烈な発酵臭が入り混じった、前衛的すぎるアロマが充満している。


 肉体的、いや精神的な致命傷を負ったのは、一名のみ。


 元カレさんと元カノさんの間には、色々と壊れてしまったものがあるだろうが、他の生徒はいたって無事だ。


 元カレさんは完全に心がポッキリといっていた。


 仰向けのまま、虹色のゲロにまみれた顔で虚空を見つめていた。あの場から離れた今も、その瞳は死んだ魚のようで、魂だけがどこか遠い世界へ家出をしている。


 本来なら、元カノさんが「大丈夫?」と駆け寄って慰め、そこからよりが戻るというのがラブコメの筋書きだ。


 しかし、現実は非情である。


 元カノさんは、さっきから彼からソーシャルディスタンスを五メートル以上確保していた。


 そして、その様子を若干一名――例の女子生徒が腕を組み、満足げな表情で歩いている。


 誰かが「終わったな」と口にしたのが聞こえた。


 不謹慎極まりない言葉だが、誰も否定しない。クラスメイト全員が、もうあの二人がよりを戻すことはないと確信していたのだろう。


 気を取り直して、俺たちはダンジョンの奥へと進む。


 さすがにこの人数になると攻略が楽だ。もはや冒険というより、ただの集団下校である。


 モンスターが現れても、数の暴力で一方的にボコボコにして終了だ。


 ダンジョンによっては、大人数で組織だった行動をすると、防衛反応として大量のモンスターが湧いたり、人数制限のギミックがあったりするのだが、ここは初心者向けの低レベルダンジョン。


 そんな意地悪な仕様はないらしい。


 このダンジョンで意地悪なのは、学園だけだということだ。


 大した障害も無く進み続け、やがて俺たちは巨大な扉の前に立った。


「ボスだね」


 柑奈の言葉に、緩みきっていた空気が少しだけ引き締まる。ついにボス戦だ。


 俺は懐のスマホを握りしめ、小さくため息をついた。せっかく念願のプロ仕様の撮影機能がついた榎本モデルのスマホを買ったのに、今のところカメラロールに収まっているのは、猫の盆踊りとゴロ寝をする親父ライオンだけだ。


 猫の盆踊りはいい。むしろ最高だ。しかし親父ライオンのせいで、大幅な減点が付いてしまった。


 これでは榎本モデルのスマホが泣く。何のために高かったこいつを持ってきたのか分からない。このボス戦こそが、俺の榎本モデルが火を噴くラストチャンスだ。頼むから、その性能に相応しい、カッコイイ被写体であってくれ。


「行こっか」


 柑奈が指揮をとる。


 クラスメイト達が力強く頷く中、俺も頷く。まぁ、俺は皆の影に隠れて震えながら待つことしか出来ないのだが。しかも今回は、シャッターチャンスを待つという個人的な趣味付きで。


 重厚な扉が開くと、その先でボスが待ち構えていた。


 黒い包帯で全身を覆った、人型の異形。――シャドウアサシン。


 また、お前かよ!


 心の中で盛大にツッコミを入れた。


 だが、腐ってもボスだ。初見殺しで有名な、素早さと即死攻撃を兼ね備えた厄介な相手である。


 クラスメイト達の後ろに隠れる俺にも、彼らに緊張が走ったのが分かった。誰も油断はしていない。


 俺も油断せず、しっかりと最後尾に隠れる。ついでにスマホを構えた。


 なんか、ごめん。


 戦闘が始まる。


 前衛は武器を構え、シャドウアサシンと向き合う。


 どちらが先に動く? やはり柑奈が先陣を切って、相手の足を止めるのか。それともシャドウアサシンの素早い動きに合わせて、コチラも動くのか?


 先に動いたのは、シャドウアサシンだった。


 ヤツは走り、数秒と掛からず距離を詰め、姿が揺らいで──消えた!


 張り詰めた糸のような空気に満ちていた部屋に、乾いた音が響いた。聞き覚えのある音が。


 俺のスマホの撮影音だ!


 その次の瞬間。シャドウアサシンの足元が唐突に崩落した。


「は?」


 誰かの素っ頓狂な声が響く。


 しかし、他人の声がシャドウアサシンの未来を変えることはない。ヤツは悲鳴を上げる間もなく、真っ逆さまに穴の底へと消えていった。


 先程までの危機感を、どこにぶつければいいのだろうか。クラスメイト達が頭の上に?マークを量産しているのはきっと気のせいだ。


「……じゃ、行こっか」


「うむ」


 柑奈の言葉に穂が頷くと、他のクラスメイト達も続いた。


 頭の切り替えが早いなー。同じ経験を短い期間で二度もすれば当然だが。


 ここにいる全員が、シャドウアサシンがダンジョン自体のトラップを作動させて自滅するシーンを再現されたのだ。さすがに二度目となれば、立ち直りも早くなるというものだ。


 緊張など皆無な雰囲気が、このボス部屋には満ちている。


 しばらくすると、穴の底から床の破片がふわふわと浮き上がってきて、パズルのように組み合わさり、何事もなかったかのように元通りになった。


 そして部屋の奥には、円形に輝く魔法陣が出現する。あれはボスを倒すと現れる、脱出用のワープゾーンだ。


「…………はぁ」


 撮影した画像を確認したが、呆れるしかない。プロ仕様の榎本モデルが捉えたのは、ボスが落ちる瞬間のブレブレの残像だけだったからだ。


「これぞ、さす慧のご加護」


「この状況で、それはやめような。二回続くと、さすがに本気にするヤツが出そうだから」


 そこで目を輝かせているリーシャとか。


「……行こっか」


 入室時と同じセリフなのに、柑奈の言葉には覇気が微塵もなかった。柑奈、同じセリフを繰り返すなんて、そうとう疲れているな。(ボス部屋前で一回、ヤツが落ちて二回)


 クラスメイト達も無言で頷く。その頷きは、疲労とも諦めともつかない重いものだった。


 ワープゾーンに乗ると視界が白く染まり、次の瞬間にはダンジョンに入ったときと同じ場所に立っていた。


 無事に課題はクリア出来たが、なんでこんなにモヤモヤしないといけないのだろうか? クラスメイト達も、釈然としない物を抱えているようで、複雑そうな表情をしていた。


「え、これで終わり?」


 誰かの拍子抜けしたような声が聞こえた。


 本当に、俺たちは何をやっていたんだろうなとしか言いようがない。色々と経験した気がするが、ライオンのキャラが濃すぎて、他の記憶が完全に吹っ飛んでいるのも、このモヤモヤの原因かもしれない。


「慧」


 穂が、音もなく俺に近づいてきた。


「シャドウアサシン、慧がシャッターを押した瞬間に落ちた。あそこに落とし穴が突然できたように見えた。そもそもダンジョンに住むモンスターが、罠に引っ掛かるはずがない。これは全く別の力が働いたと見るべき。……力、それすなわち、人智を超えたさす慧の加護」


「思ってもいない事は言わないようにな」


「うん」


 アッサリと出まかせであることを認めた。


 だが、その思考を深める前に、俺の視界にもう一つの「終わり」が飛び込んできた。


 解散間際、皆がそれぞれの帰路につこうとしている中、あの元カップルが別々の方向に歩き始めていたのだ。


 元カレが、未練がましく振り返る。やはりよりを戻したかったんだな。


 その時、彼女――衣砂が、冷たく、はっきりと、しかし誰にも聞こえないように一言だけ呟いたのを、俺は見てしまった。


「……ごめんなさい。私、その臭いが生理的に無理なの」


 元カレの膝が、カクンと折れた。


 物理的な攻撃は一切受けていないはずなのに、彼の男としての尊厳と、よりを戻すという野望が、音も立てずに崩れ去っていくのが見えた気がした。


「終わったか」


 俺は心の中で、今日何度目かになる言葉を呟いた。


 スマホの画像フォルダを確認し直す。


 ・猫の盆踊り(癒やし)


 ・腹を見せてイビキをかく親父ライオン(汚い)


 ・ブレた床(虚無)


……やっぱ、濃すぎるな。


 俺のスマホが、この短時間で珍画像の展示会場になっている。特に親父ライオンのせいで。


「……これが、最新技術の限界なのか?」


 こんな変な画像しか撮れないなんて。猫はいいんだが、他があまりにも……。


「いや、違う。これは試練だ。俺に腕を磨けと神が──ないな」


 自分の気持ちを奮い立たせようとしたところで、神という単語を口にした瞬間、絶対神(絶対領域の神)を思い出して、一気に気持ちが萎えた。地道に腕を磨いていこうと思う。


 落ち着きを取り戻した俺は、スマホを使い、スキルの効果を切る。俺のコスプレも消え、元通りの服になった。


 穂もリーシャも残念そうだ。特にリーシャは、血の涙が出るのではと思うほど残念そうだったので、頭を軽く撫でてやった。すぐに機嫌が直った。やっぱ猫だな。


 いつも通り穂もねだってきたので、頭を撫でてやった。なぜか柑奈もねだるので頭を撫でた。


 だが、男子ども、お前らは撫でないからな! たとえそんな悲しそうな目をしても、ダメなものはダメだ!


 それから女子、少し目が怖いぞ……!!

最後まで読んでいただきありがとうございます!


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