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足手まといな俺(♂)ですが、スキルがお姫様だのアイドルだの言っています。ついでに幼馴染が全員戦闘狂です。  作者: 穂麦
三章

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【二十四話】ライオン、お前はそれでいいのか……?

12月27日 2度目の投稿です

 素晴らしい経験をした。


 プロ仕様の撮影機能がついた榎本モデルのスマホは、最高だ!!


 猫の盆踊り──そうじゃない。魅惑のマタタビ(粉末)を手に入れた俺たちは、場所を移動した。


 まずは例の仮面ライオンがいる場所の風下へ。そこで一通り準備を整えた俺たちは、近くにある深い茂みに身を潜めた。


 その準備というのは、一部の生徒が風魔法を使い、魅惑のマタタビ(粉末)を仮面ライオンの元に送るというものだ。


 そして仮面ライオンがマタタビに釣られたら、彼らはすぐに逃げて俺らと合流し、一緒にダンジョンの奥へと移動する。


 作戦をまとめるとこうだ。ライオンが魅惑のマタタビ(粉末)の強烈な誘惑に夢中になり、ヘロヘロになっている隙を突いて、俺たちはその脇をすり抜けて先に進む。名付けて『仮面ライオンを無視して、ごお』作戦だ。


 なお、作戦名は穂が考えた。決して俺ではない。


 しかし、なかなか動かない。


 クラスメイトの何人かが風魔法を使って、魅惑のマタタビ(粉末)を効果的に飛ばしてくれているのだが、まったく動こうとしないのだ。


 あまりにも暇すぎて、余計なことを考えてしまう。


 やっぱり、あの猫モンスターたちから枝を強奪した上で、本来なら倒してドロップさせる予定だったというのは、いくらなんでも鬼畜の所業だったんじゃないだろうか。結果的にあいつらは盆踊りを楽しんで、満足して枝を置いていったわけだが。


 俺の尊厳は犠牲になったが、悪い結果ではなかったよな?


 なんとなく自分の犠牲が、無駄だった気がしなくもないが。


 いや、あの猫たちを犠牲にしてまで、俺の尊厳を無駄にしないでくれとは言わない。そんなサイコパスなことは願わないが、それでも納得できないモヤモヤとした何かが胸に残る。


 はぁ。ダンジョンという命の危険がある場所にいるのに、こんな下らないことで悩んでいるのはマズイか。


 何度も思っているが、俺って本当に雑念が多すぎる。もっとこう、カッコよく頭を切り替えられないものだろうか。


 そう言えば、少し気になったことがあったな。


「なぁ、柑奈。ちょっと都合が良すぎないか?」


「ん? 何が?」


 隣で周囲を警戒していた柑奈が、小声で応じる。


「あのライオンみたいなネコ科の魔物の出現ポイントのすぐ近くに、都合よくネコ科の特効アイテムがあるなんてさ」


 ゲームなら親切設計で済む話だが、ここは自然発生したダンジョンだ。捕食者と、その弱点となる植物が、こうも隣接して存在するだろうか?


「やっぱ、そう思うかー」


 柑奈が顎に手を当てて考え込む。


「それが普通の反応だよねー。他の自然発生型のダンジョンだと、こんな露骨な配置は滅多にないから、ちょっと変だとは思うよ」


 滅多にないということは、稀にはあるということか。その稀が今回たまたま重なっただけなのかもしれない。


 だが――俺の脳裏に、先日親父から聞かされた話が蘇った。


「思い出したんだけどさ……」


 前回の狒狒(ひひ)との戦闘が強烈すぎて、今回のライオンの登場にビビってすっかり忘れていたことがあった。


 俺は声をさらに潜め、周囲のクラスメイトに聞こえないように注意しながら、父さんが言っていた仮面の魔物についての情報を柑奈と穂に伝える。


 ――あれは自然発生したモンスターではなく、どっかのヤバイ組織が人為的に作った生物兵器かもしれない、という話を。


「えっ、それは初めて聞いたよ」


 柑奈が目を見開く。穂も、眠たげな目をわずかに細めて反応した。


「慧、それ本当?」


「ああ。ソースはうちの父さんだ」


「なるほど。なら信憑性は高いか」


 柑奈が、納得したように頷く。


「だったら、あのライオンは、この周辺の不自然な植生を考えれば……推測なんだけど、これを作った人たちは、あのライオンがここから逃げないようにしていたんじゃないかな?」


「逃げないって、どうやって?」


 ダンジョンとはいえ、ここは見渡す限りの広大な草原エリアだ。壁も柵もない。その気になれば、どこにだって移動できるはずだ。


「この周りって、あのマタタビもそうだし、他にもライオン型のモンスターが好きそうな環境が整えられてる気がするの。つまり、あのライオンにとって、ここは最高に居心地がいい場所なんだよ。だから、ここから移動しても、またすぐに戻ってくる。あるいは、ここから離れようとしない」


 柑奈の推測に、俺は思わず唸った。


 なるほど。物理的な檻ではなく、環境による檻か。


 マタタビのような嗜好品や、好みの獲物を配置することで、特定のエリアに留まらせる。飼い殺し、あるいは放し飼いの実験場。そう考えると、辻褄が合う気がする。──なんとなくだけど。


「うーん。でも、こういう方法って維持するのに手間と時間がかかるから、ちょっと気になるかな。これ、ただのダンジョン実習のレベルを超えてるから、学園が仕組んだんじゃないとは思う。怪しいけど。一応、戻ったら先生たちに報告したほうがいいだろうねー」


「評価点、上がるといいな」


「そうだね。特別な評価がもらえるかもね」


 あの仮面ライオンは、ヤバイ組織が関わっている可能性が高い。


 だが、学園がこの場所を実習場所に選んだということは、少なくとも学園側は学生でも対処可能と判断したか、もしくは学園側もこの事実を知らないか、だ。


 いくら学園が腹黒いとしても、実習で合格するのが不可能な課題を出すとは──ありうるが、でも、いや、どうなんだ?


「あっ、来たよ。音を立てないように気をつけてね」


 柑奈が鋭く警告を発する。


 茂みの隙間から覗くと、巨体が土煙を上げて疾走してくる影が見えた。


 仮面を着けた、あのライオンだ。


 すごい勢いだ。残像が見えそうなほどのスピードで、マタタビの煙が漂うエリアへと一直線に突っ込んでくる。


 さすがネコ科。マタタビの誘惑には抗えないらしい。


 飼い慣らされた猫のごとく、周囲への警戒心は感じない。野生の威厳はどうしたと言いたいところだが、今の俺たちにとっては好都合だ。


 俺が弱──いや、呪われたスキルのせいでまともに戦えないから、奴の正確な強さは分からない。だが、あの柑奈が真正面からでは勝てないと断言したほどの相手だ。まともにやり合えば、こちらの被害も甚大だろう。


 頼む。


 そのまま煙を吸って、気持ちよくなって、その場でゴロニャンと寝転がってくれ。


 そうすれば、俺たちは平和的にこの場を去れる。


 ライオンが、紫色の煙の中に勢いよく飛び込んだ。


 そして、大きく息を吸い込む。


 その直後だった。


「グルルッ!? ガルルルルァァッ!!」


 ライオンの動きが、奇妙に変化した。


 寝転がる? いや、違う。


 足元がふらつき、千鳥足になり、その巨体がどうと揺れる。


 そして、仮面の奥の瞳が、ギラギラと怪しく充血し始めた。


 ……おい、待て。


 これ、マタタビでリラックスしてるんじゃない。


 完全に悪酔いしてやがる!!


 こいつ、酒乱かよ!!


 ネコ科モンスターの近くにマタタビがあったこと自体が罠だったんじゃないか?


 このモンスターの酒癖の悪さそのものが、設置された最大の罠だったんだ!


 なんか、意図したものじゃない気がしなくもないが、とにかくおかしなことになったのは確かだ。


「ガァァァァッ! ウィ~ッ!」


 ライオンが、妙に人間くさい酔っ払った親父のような唸り声を上げながら、あろうことか俺たちが隠れている茂みの方へと突っ込んできやがった!


 方向感覚が狂っているのか、それとも酔っ払って気が大きくなって絡みに来たのか。


 どちらにせよ、最悪の展開だ!


「逃げろぉぉぉッ! 絡まれたら面倒くさいぞ!!」


 俺の叫びと共に、クラスメイトたちが一斉に茂みから飛び出す。


 蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う生徒たち。


 それを追う、千鳥足の巨大モンスター。


 その光景は、恐怖というよりは、シュールな喜劇のように思えた。


 ライオンは、鋭い爪で切り裂くわけでも、牙で噛みつくわけでもない。


 前足をだらりと下げ、ユラユラと身体を揺らしながら、


『おぅおぅ、待てやぁ~ネェちゃん~』


 とでも言いたげな挙動で、特に女子生徒をしつこく追い回しているのだ。


 そう、なぜか女子生徒だけを追いかけているのだ。


 お前、いいやつだな、と俺は密かに感動していた。大概のやつは俺を女の子扱いするのに、お前は俺を男扱いしてくれるんだな、と。


 だが、そんなことを口に出すわけにはいかない。女子生徒が悲鳴を上げて逃げているのだ。こんなことを言ったら、大顰蹙(だいひんしゅく)を買いかねない。


 女子生徒の後を、ライオンはニチャアとした粘着質な気配を漂わせて追いかける。


 危機的状況のはずなのに、なんだろうか、これ。危機の方向性が、ダンジョンのものとは絶対に違う。


 どう見ても、終電間際の新橋駅周辺で、部下のOLにセクハラしようとして逃げられている酔っ払い課長の姿にしか見えないのだ。


 いや、不思議がっている場合じゃない。あの一撃は、当たれば岩ぐらい砕けそうだぞ!


「きゃあっ!」


 その時、女子生徒の一人が、足元の根っこに躓いて転んでしまった。


 運の悪いことに、それは先ほど「囮になれば……」と口走って、元カレと心温まるコミュニケーションをした、あの女子だった。名前は確か、衣砂(いすな)だったか? よく覚えていない。


「い、衣砂っ!」


 そうか、衣砂であっていたか。


 絶体絶命のピンチ。


 そこへ、逃げていたはずの元カレが、踵を返して戻ってきた。彼は震える足で、しかし勇敢にもライオンと彼女の間に立ちふさがる。


「衣砂! 早く立って、逃げろ!!」


「できないよ! カズヤ君を置いていくなんて!」


 元カレの方は、カズヤだったか。そうかそうか。


「バカ野郎! 俺のことはいいから、行くんだ!!」


「ダメだよ! 一緒に戦お! 二人でなら、きっと……!」


 倒れ込んだ元カノと、それを守る元カレ。


 戦場に咲いた、美しくも儚い愛の華。


 お互いを見つめ合い、頷き合う二人。


「うん。カズヤ君、そうだよね。二人でなら……」


 二人の間にピンク色の世界が広がりかけた、その時だ!!


「ギャアーーーーーーーーーーーーーッ!!!」


 彼氏の絶叫が、草原に木霊した。


 おい!


 二人だけの世界に脳内がトリップしたからって、モンスターに襲われている最中に、敵に背中を見せるバカがいるかァァァッ!!


 感動的なシーンに酔いしれていた彼氏の背後から、酔っ払いライオンが覆いかぶさっていた。


 だがその攻撃は、爪による斬撃でも、牙による噛みつきでもなかった。


 ドンッ!


 という鈍い音と共に、ライオンは前足で彼氏の肩をガシッと掴み、そのまま勢いで押し倒したのだ。


 壁ドンならぬ、床ドンである。


「ウ゛ゥ~……」


 ライオンの巨大な顔が、彼氏の目の前に迫る。酒臭い(マタタビ臭い)息が、彼氏の顔面に吹きかけられる。


 はたから見れば、巨大な猛獣に組み伏せられた絶望的な状況だ。


 しかしその構図は、どう好意的に解釈しても、酔っ払ったおっさんが若者を強引に押し倒して絡んでいるようにしか見えない。


 もう、あのライオンの名前、親父ライオンでいいだろう。


「…………」


 彼氏は、恐怖と、そして別の意味での屈辱で白目を剥いている。


 怪我は……していないようだ。肉体的な怪我は。


 だが、男としての尊厳と、元カノの前でのカッコいい見せ場は、粉々に砕け散っただろう。


 というか、終わったかな? よりを戻す未来が。


 そして、ライオンはトドメとばかりに、大きく口を開ける。


 食われる!?


 誰もがそう思った、次の瞬間。


 ゥ、ェ、ゲエエ、オロロロロロロロロロ──ッ!


 ライオンの口から、キラキラと輝く虹色の奔流が、彼氏の顔面めがけてリバースされた。いったい何を喰ったら、あんな不思議な色のゲロが出るんだろう?


「ぎゃ、あ、あぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁーーーっ!!!」


 元カレの悲鳴が、今度こそ本気の絶望を帯びて響き渡る。


 臭い。離れていても分かる、あの強烈な吐瀉物の臭い。


 マタタビの成分と、ライオンの胃液が混ざり合った、この世のものとは思えない刺激臭が辺りに充満する。


 ライオンは「ふぅ、スッキリした」とでも言いたげに、彼氏の上からどくと、そのまま満足そうにその場にゴロリと横になり、高いびきをかいて寝始めた。


 残されたのは、虹色の吐瀉物にまみれ、ピクリとも動かなくなった元カレと、その横で腰を抜かして呆然としている元カノの姿だけ。


「ふっ」


 その惨劇を見つめる俺たちの背後で、冷ややかな、それでいてどこか清々しささえ感じる嘲笑が聞こえた。


 振り返ると、あの複雑な関係の女子――元カノだか三角関係だかの彼女が、腕を組み、冷酷極まりない笑みを浮かべていた。


「ざまぁみろ、って顔してるね」


「そうだな……」


 柑奈の言葉に、俺は小さく頷いた。


 確かに、あんな姿を見せられたら、どんな熱い恋心も急速冷凍されるに違いない。というか、今のあれは物理的にも精神的にも、最大、いや最悪の攻撃だった。


 なんか、そして元カノさんの様子は──恋人作るのが怖くなったな。


「大丈夫、慧の彼氏になった人、慧に優しくしてくれるはず」


 またもや、俺の思考を適切に読んでくる穂。だが、訂正させてくれ。


「彼女がいいんだが」


「自分と比較にならないくらいカワイイ男子と歩きたがる猛者はいない」


「くっ」


 いや、いるはずだ。反論はできなかったが、きっといるはずだ。


「……行こう」


「そうだね。あの子には悪いけど、今のうちに」


 これ以上は精神的にきつい。俺は話を打ち切って早々にこの場を後にする。


 例の元カップルは、他のクラスメイトが呼んでいるから大丈夫だろう。


 いびきをかいているライオンは、腹を見せて大の字っぽい姿勢で寝ている。完全に親父だな。


 一応、写真だけでも撮っておくか。できれば汚いものは、まだ撮りたくなかったが。


 それでも、あの親父ライオンのことは、やっぱり父さんに知らせたほうがいいだろうから。








 【未来の俺への教訓】酒は飲んでも呑まれるな。呑まれた親父には近付くな。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


面白い、続きが気になると思っていただけた方へ。


ページ下部より、

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