【十八話】強敵出現!……強敵出現……強敵出現?
両サイドの壁に並び立つ、巨大な石像。
それがどこまでも続いていた。だが、その見飽きた光景もようやく終わりを告げる。
「やっと見えてきたな」
ようやく遺跡の入り口に到着したのだ。
ここまで現れていたモンスターたちは、途中から全く出なくなった。入り口に近づいたからなのか、そのあたりはよく分からないが、隠れてビクビクしなくて良くなったのはありがたい。
もっとも、問題が皆無になったわけではないのだが。
「……」
「リーシャ。口を半開きにして涎を垂らしながら、俺をじっと見るのはやめてもらえないかな?」
リーシャが、さっきからずっとこっちを見ている。これまでも色んな奴から同じような目で見つめられることが度々あったが、相手が変態だと知っているだけで、これほど寒気がするものなのか。知りたくなかったよ!
「遠くを見つめる美の化身様に触発されて、忠誠心が溢れ出てしまったです」
リーシャはそう言って、口元を乱暴にメイド服の袖で拭うと、柑奈や穂と共に俺の前を歩き始める。
忠誠心が脳からも外に漏れれば、少しはまともになってくれるのだろうか……などと叶わぬ願いを抱きつつ、俺も三人の後をついていくことにした。
巨大な岩山をくりぬいたような場所に門がある。遺跡の出入り口は、巨大な石造りの門のようだった。とにかく重厚な門は圧迫感が凄まじく、思わず遺跡に入るのを躊躇わされるほどであった──俺だけは。
「慧、置いてっちゃうよー」
「かもーん」
柑奈と穂は、何事もなかったかのように遺跡へと入っていく。
くそっ、これが力のある奴と、力のない奴の格差か!? 悲しき職業格差に呪詛を吐くと、俺はすぐさま彼女たちを追いかける。置いて行かれたら即座にモンスターの餌食だ。のんびりしている余裕などない。
遺跡の中の空気は驚くほど冷え切っている。冷蔵庫とまでは言わないが、洞窟の中はこんな感じなのだろうか。少し前に入った洞窟タイプのダンジョンは、参考にならないだろうな。ダンジョンは通常の空間とは色々と違うのだから。下手に普通の洞窟と同じ扱いをしたら、どこかのツリ目美少女に「ぷぷぷ、洞窟とダンジョンが同じだと思ってんの?」とか言われるのがオチだ。
「ぷぷぷ、洞窟とダンジョンが同じだと思ってんの?(棒読み)」
「なに寝ぼけたこと言い出してんだ、穂」
勝手に俺の思考を読み取らないでほしい。
「美の化身様、お疲れじゃねぇですか? 私がおんぶしますですよ」
リーシャ、親切を装っているが下心が見え見えだぞ。
しゃがんで背中を向け、いつでもおんぶできる体勢をとっているが、あいにくお断りだ。不可抗力を装って俺の尻を揉む気満々なのが丸わかりだからな。
「おんぶはしなくていいから、いつでも戦えるようにしておいてくれるか?」
「はいです。お任せあれ!」
癪だが、呪いの職業のせいで戦えない身としては、強く出られないのが辛いところだ。たとえ相手がセクハラ目的であってもな。俺は仕方なく、善意の皮を被った下心の塊を遠回しに制止するに留めた。
そして、さらに歩き続ける。
古い遺跡であれば埃っぽかったりカビ臭かったりするものだが、それがないのはここがダンジョンだからか。しかし、周囲の石壁や床に冷やされたのか空気が冷たいのは、ダンジョンであっても普通の遺跡と変わらないようだ。自分たちの足音だけが響いているのも、実際の遺跡探索と同じような気がする。
「……何かいるね」
遺跡をどれほど進んだ頃か。斥候として先頭を歩いていた柑奈が制止をかけてきた。
「よく分かるな」
「空気が違うからね」
理由を言われても分からないどころか、柑奈が目を向けている先に何がいるのかすら見えない。俺の目には、どこまでも石造りの通路が広がっているようにしか見えないんだが、これ以上は何も言うまい。足手まといであることを、わざわざ強調する必要はないからな。
「大丈夫。さす慧の直感は、敵を取り逃がすことがない」
「そうか。さす慧って凄い人なんだな。俺でないことは確かだ」
穂、まだ「さす慧」に飽きていなかったのか。今さらこんな血迷った発言をするなんて。だが、今はそれどころじゃない。
「か弱い慧は、私達のすぐ後ろに隠れる。お姫様は守る」
「くっ、お、お願いします、穂さん」
苦労するのは穂たちなんだ。お姫様扱いに甘んじるのは男のプライドが霧散しそうだが、強くは出られない。今は大人しく守られるしかなかった。
「任せる。慧の柔肌には傷一つ付けない」
その言葉を穂が言い終ると同時に、柑奈が動いた。
彼女は、腰に巻いた銀色の鞭を振るう。マキナと呼ばれる、科学的に作られた魔法具だ。
銀色の鞭が石畳を叩く。その衝撃を紙一重でかわし、姿の見えなかった敵が姿を現した。
黒い包帯で全身を覆った異形のモンスター──シャドウアサシン。かなりヤバいことで有名なモンスターだ。
恐ろしく速く動く上に、手に持ったナイフには毒も塗られている。何よりも、柑奈に見破られるまで姿を確認できなかったように、いつの間にか近づいてきて音もなく仕留めてくる陰湿極まりない相手だ。
それにしても、ウネちゃん……お兄さん、ガッカリだよ。
こんな化け物が入り口付近にいることを隠すなんて。何人か生徒がロストしているんだろうな。もう、ウネちゃんが笑顔の裏で真っ黒なことを企んでいるようにしか思えない。まるでギャングのボスが、漆黒のドレスを着て豪華な椅子に座り、右手にワイングラス、膝の上には(かわいい)猫を置いて、俺たちの一喜一憂を見下して笑っている……そんな光景すら脳裏に浮かんでしまう。
「来るよ!」
シャドウアサシンが動くと同時に、柑奈が叫ぶ。
同時に穂も杖を構えて詠唱を始め、リーシャもハサミ状の武器を二つに分けて両手に持つ。最も素早い柑奈は、真っ先に迎撃して相手の足を止めるため、身体を深く沈めていた。
もちろん俺は、絶対に前に出ないよう、背負っていたリュックサックを盾にしてビクビクしている。
強敵と対峙し、高まる緊張。
シャドウアサシンもこちらを警戒しているのか、無闇に距離を詰めてくることはない。しかし、着実に間合いは詰まってきている。
最初に動いたのはシャドウアサシンだった。柑奈が迎撃しようとマキナを振るおうとした、その瞬間だ。
カチッという音と共に、シャドウアサシンが足を止めた。なぜかその顔に困惑の色が浮かぶ。
次の瞬間、通路が割れた。落とし穴だ。
その事実に気づいたとき、お兄さんは思わず叫んでいた──。
「なんで、ダンジョン住人が引っかかってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」
──と。
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