【十七話】ダンジョン実習開始。でもやっぱ戦闘狂は無双、あと猫耳も出るよ
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本日から、スマホでもより快適に読んでいただけるよう、セリフも文章の間に一行空けを入れるレイアウトに変更しました。
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ダンジョンに入ってすぐ。
どのダンジョンにも共通することだが、セーフティーポイントが存在する。
そのルールは、現実もS2Wも同じだ。
穂、柑奈、リーシャ、そして俺の4人は、セーフティーポイントに立っていた。
左右に並ぶ巨大な像。その足元は舗装されていないものの、驚くほど平らで歩きやすい。
資料によれば、このダンジョンは遺跡型。異世界に実在した遺跡が、ダンジョンという形で再現されたものらしい。
「呪われた職業は、今日は使わなくていいかな?」
「あははは。呪われたって言っちゃうんだ」
愉快そうに笑う柑奈であったが、足手まといなどという悪口でしかない職業名を口にするよりはマシだ。というか、俺にとっては呪われた職業でしかないのだから、そう称しても間違いではないのだ。
「今日の実習、慧のコスプレ必須」
「嘘は言わないようにな」
「うん」
俺の指摘に、あっさりと嘘であることを認めた穂。まったく残念そうな様子がないことから、最初から期待していなかったのだろう──隣に立つリーシャは、嫌いなピーマンを出された子どものような顔をしているが、大した問題ではない。
「うーん。一応、経験値はお願いできるかな? レベルはS2Wで上げても、現実に反映されるから」
本当なら、この呪いの職業の力など、借りたくはないんだがな。しかし、戦闘では岩陰に隠れてブルブル震えているしかない俺では、このスキルを使わなければ本物の足手まといになってしまうんだ。やむを得ない。
「まぁ、そうだな……穂とリーシャも、それでいいか?」
「おっけー」
「美の化身様の仰せのままに」
予想通りの反応を二人が示すと、俺はスマホをタップしてスキルを設定する。
▼▼▼
スキル:守ってあげたいタ・イ・プ
スキル:絶対無敵アイドル
・-S10%/+E10%(自身の全ステータス10%ダウン / パーティーの全経験値10%アップ)
・-S20%/+E20%(自身の全ステータス20%ダウン / パーティーの全経験値20%アップ)
・-S30%/+E30%(自身の全ステータス30%ダウン / パーティーの全経験値30%アップ)
スキル:だってお姫様なんだもん
・鈍重付与/+A10%(パーティーメンバーの動きが鈍化 / アイテムドロップ率&レア度10%アップ)
・魔力消費50%UP/+A20%(パーティーメンバーの魔力消費量50%アップ / アイテムドロップ率&レア度20%アップ)
▲▲▲
相変わらず、俺の尊厳を抉ってくるスキル名だな、おい。
それはさておき、あの狒狒との戦いの後、絶対無敵アイドルという思わずスマホを遠くに投げ捨てたくなるスキル名に、新たに-S30%/+E30%という設定が加わってしまった。
他のスキル効果と一緒に使うと、合計でステータスが60%減少する──というわけではないことが、探索者協会で調べてもらった結果として判明している。
全部の効果を発動させると、最初に10%のステータスが減る。その計算の後で20%が減り、その計算後に30%が減るという形だ。
例えば元のステータスを100とすると──
最初に10%減 → 100 × (1 - 0.10) = 90
次に20%減 → 90 × (1 - 0.20) = 72
最後に30%減 → 72 × (1 - 0.30) = 50.4
──このような形の計算となるので、60%とはならないのだ。それでも50%減少というあたり、なかなか凶悪なデバフだと言えるだろうが。
確か、小説なんかでは、段階的減少などと呼ばれている計算方法だな。
嘆かわしいことに、順調に呪い(職業)が成長してしまっていることに、遺憾の意を表明したい。
「美の化身様、どうかなさいましたですか?」
「なんでもない。自分の運命に呪詛を投げかけたい気分になっていただけさ」
リーシャの問いに、思わず心情を吐露していた。だが、何も考えていないだろうなー。俺の顔を見て、何を妄想したのか、鼻血を現在進行形で垂れ流しているコイツは。
「今日は、ドロップなし、経験値は全部盛りでいってみよっか」
「大丈夫か?」
50%越えのデバフになるんだが? 情報収集などが仕事の斥候とはいえ、前衛として戦うこともあるのに大丈夫なんだろうか?
「今回は、実習のペナルティー覚悟だけどね。そのペナルティーも、学園が情報を色々隠しているんだから、ほとんどの人が受けると思うよ」
「そうだな……それに底意地が悪くても、学園が関わっているんなら、授業中に経験しておいた方が安全か」
「うん。それもあるねー」
柑奈の意見を聞き、次に穂に尋ねる。
「穂はどう思う?」
「スキルのデメリットは、私よりも柑奈とリーシャが受ける。だから二人の意見優先」
珍しくまともな──いや、俺以外にはわりとまともだったな。普段、俺とのやり取りが狂っているのがナチュラルすぎて、感覚が麻痺していたが。
「じゃ、経験値のスキルは全部やるぞ」
決して、スキル名は口にしない。絶対無敵アイドルなどとは言いたくない。俺はそれ以上は何も言わず、スマホをタップして、スキルの効果をすべてONにする。
「全部ONにしたけど、大丈夫か?」
一応確認しておく。ステータスが半分になっている計算だからな。ダメなら、セーフティーゾーン内であればOFFにできるし、確認せざるを得なかった。
「やっぱ身体の動きが、すっごく鈍いけど、少し動けば慣れると思う」
「なら、大丈夫か……リーシャの方はどうだ?」
柑奈は問題なさそうだと判断すると、リーシャの方を確認するも、なぜか頬を赤くし身を震わせている。もちろん俺は嫌な予感がした。
「この感覚は、美の化身様の愛……っ!!」
「さ、行くか」
変態発言は、無視だ。
「慧──」
「コスプレはやらないからな」
普段も嫌だが、今日はクラスメイトと遭遇する可能性もあるのだ。コスプレなどやってたまるか。
「このダンジョン攻略に、慧のコスプレ必須」
「嘘は言わないようにな」
「うん」
あっさりと諦めた。最初から期待していない、いや、コスプレすれば儲けもの程度に思っていたんだろうな、きっと。
「予定だと、ダンジョンは半日かけて攻略する……で、いいんだよな」
「それで間違っていないよ。5時間でゴールできるけど、それはモンスターと遭わなかった場合だから」
ここも、学園から渡された資料には5時間でゴールできると錯覚するように書かれていたんだよなー。モンスターが出ないなんてありえないのに。
「半日かけても無理なんじゃないか?」
「ははは。そうだねー。他に隠し事もあるだろうから、その内容次第だけど、最低でも半日くらいっていう気持ちでいた方がいいかもね」
「だよなー」
ゴール地点には、猫耳を生やしたクラスメイトが大量に並んでいそうだ。そんな状況に溜息をつきながら、俺たちはセーフティーポイントを後にした。
「変な物、拾い食いするなよ」
その道中、一応は穂に忠告をしておく。
「おーけー。大船に乗ったつもりでごー」
────────────────で?
「なんで、たった30分で、猫耳を生やしているんだよ」
「美味だった」
ただいま、気づいたら猫耳を生やしていた穂を正座させてお説教中。
「拾い食いするなって言ったよな」
「拾い食いじゃない。落ちてきたのを受け止めて食べたから、受け食い」
そうか。猫耳食材は、落ちてくるタイプだったのか。
「で、猫耳が生えるってわかっていて食ったのはなんでだ?」
コイツは、変態だが頭だけはいいからな。知らずに食べるはずがない。
「猫耳。それは一生に何度かは生やしてみたい萌えアイテム」
「何度も生やしたいんなら、カチューシャで我慢できなかったのかな、本当に!」 「慧なら私よりも似合うはず。れっつ、とらい」
そんなことを言いながら、傘に猫耳のような突起物がついたキノコを差し出してくる穂。コイツ、キノコを生で食ったのか。驚愕で思考が一瞬だけ止まるも、とりあえずそれを手に取り──。
「リーシャ。クラスメイトが変なことをしたら、ソイツの口にコイツを突っ込んでやってもらえるか?」
「はいです! 美の化身様の仰せのままにーっ!」
ダンジョンの中で、他のクラスメイトと出会うこともあるからな。そのときは、猫耳を生やした姿を画像にでも収めておいてやるか。
「慧って、けっこう過激だよねー」
「大胆な慧に、ぽっ」
無表情&棒読みで両頬に手を当てている穂。対して呆れたように笑う柑奈。この状況で柑奈の呆れた表情に癒やしを感じてしまうのは、俺が疲れているからか。たぶん、そうだな。
「俺の常識が疲れて悲鳴を上げているんだけど」
「慧、そんなこと言ったら柑奈が可哀想」
「そうだな、柑奈だけは可哀想だよな」
心温まる幼馴染トークをしながら、さらにダンジョンを進んでいく。ところで、穂の頭に生えた猫耳は、いつ消えるんだろう? などと気にならなくもないが、いつも通りの眠たげな顔を見ていると、そんな心配をするだけ負けのような気がするので、スルーしておく。
さらにしばらく歩き続けると、やがてモンスターが出始めた。それらはコウモリや猫といった、ほとんど普通の動物と変わらないモンスターばかりだ。
モンスターというのは、知性がない限り、動物のような姿のヤツは危険度が低い傾向にあると聞いたことがある。だから、柑奈や穂、リーシャにとってはさほどの脅威ではない。
などと考えたら、そう言えばリーシャは普通の猫の姿なのに知性があったよな? と、思い出した。バカな言動というか、俺に関していつも暴走しているが、一応は──認めたくはないが百歩譲って知性があると言えなくもない。
なら、わりとヤバイモンスターだったのかもしれない。
「にゃははは! 全ては美の化身様のため、私が褒められるため、その身を捧げろです!」
戦闘中に欲望を吐き出しまくるなんて、やっぱバカだな。知性があってもバカであれば危険度は低いのかもしれない。そう結論付けると、俺は無双状態の幼馴染たちと猫の戦いを隠れて見学する。
この場所を過ぎても、次々に新たなモンスターが現れる。しかし、やはり無双状態だ。
「にゃにゃーんっ!」
と、リーシャが掛け声とともにモンスターに跳びかかる。ハサミ型の武器を二つに分け、剣のように振るう。
「ふんふん~♪」
鼻歌を歌いながら柑奈が一突きで仕留め、
「No.587 フレイムピラー!」
穂は魔法で相手を焼き尽くす。
完全にオーバーキルだ。明らかにこちらの戦力がおかしい。掠り傷一つ負う様子すらなく、もはや戦いが成立してすらいない気がする。
そのまま、ひとしきり周囲からモンスターの気配を消し去ると、彼女たちがこっちに歩いてきた。
「いい汗かいた」
などと言っているが、穂は相変わらず抑揚ゼロ、疲れもゼロ、汗ひとつなし。
俺は、どんな反応を示すのが正解なのだろうか? 一応、ねぎらうのが何もしなかった俺にできることなのだが、セクハラ発言をされるのが嫌で反応に困ってしまう。
「ご褒美に胸のボタン三つ外して、せくすぃーぽーずして」
「絶対にしないからな」
いや、こちらから反応しなくても、セクハラ発言をしてくるのが穂の生態だった。とりあえず、その言葉を拒否しておき、背負ったリュックから水筒を取り出して渡す。この荷物持ちも俺の役目の一つだ。呪われた職業のせいで、力が上がるわけでもないので、持ち運べる荷物量は限られているが。
「おお、慧の味」
「これは美の化身様液……!」
リーシャ、従魔契約して数日なのに、セクハラ発言が穂に似てきたな。
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