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足手まといな俺(♂)ですが、スキルがお姫様だのアイドルだの言っています。ついでに幼馴染が全員戦闘狂です。  作者: 穂麦
三章

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【十六話】猫耳メイドは呼び出し二十分の到着が基本です

 本当、この学園は性格が悪いな──と、心の底からそう感じずにはいられなかった。


 俺たちが今いるのは、S2W内にあるダンジョンの入り口である、大きな石柱の前。


 ダンジョン実習のために集まっているため、当然周りには、俺たち耀星学園の生徒たちが二百名ほど集まっている。


 初めてのダンジョン実習に、興奮気味なヤツ、不安気味なヤツなど、生徒によって様々な反応を見せている。どちらも実習が始まれば、皆等しく絶望に打ちのめされた表情になるだろうけどな。


 きっとアヤ姉は、そんな表情を見たかったことだろう。そういうの大好物だから。


 俺たちのいる場所を見渡すと、担任である木浦 渋音先生――通称ウネちゃんが、マイクを使って実習前の最終説明を始めた。その表情はいつも通りの可愛い系お姉さんだが、アヤ姉の説明を聞いた今となっては、悪意を隠すための仮面だとしか思えない。


「ダンジョン内では、皆さんが持ち込んだ携帯食だけでは、アバターを維持するためのエネルギーが不足する事態も想定されます。そのため、状況に応じてダンジョン内で食料を現地調達する必要も出てくるでしょう。その際、絶対に口にしてはいけない植物やキノコ類については、配布した資料に詳しく記載されていますので、各自でしっかりと確認しておいてくださいね」


 ウネちゃん──やっぱ学園の闇側の人間だったのか。彼女は絶対に知っている。スマホにダウンロードされた資料は、数年前に作られた一昔前の物で、今から向かうダンジョンに自生している、本当に危険な毒草の情報がいくつも抜け落ちているということを。


 資料に載っている食べてはいけない植物は、食中毒になるなどの効果ばかりだ。しかし、抜け落ちた草の効果は語尾がピョンになるとか、猫耳が生えると言ったふざけた効果の物ばかり──絶対に穂が俺に食わせようとするよな? アイツに料理を作らせないように注意をしなければ。そう心に誓ったとき、なんか変なフラグが立ったと感じたのは、気のせいだろうか?


 だが、今気にしなければならないのは、学園の(やみ)ではなく、身近な病み(やみ)の方だ。


「穂。俺に変な物を食わせようとするなよ」


 さっきからウネちゃんの話を聞いているかどうかすら分からない、ついでに何を考えているのかも分からない表情で、隣に立っている穂に念を押しておく。


 コイツが俺に危害を加えたことは無いだろうさ。でもな、危害にならない範囲でならしでかす。むしろ絶対にしでかすと確信をもって言える。セクハラとかなんやらを。そういうヤツなんだ。


「慧、失礼。私をなんだと思っている」

「俺の人生で、お前以上は絶対に現れないと確信できる変人だな」

「それなら、おっけー」


 なるほど。こいつの中では、変人という呼称は褒め言葉の範疇だったのか。やはり、この不可思議な生き物を、常識で理解しようとすること自体が、間違いだったのかもしれない。


 コイツが変な物を喰わせようとするのは諦めて、自分で警戒するようにしよう。そのように決意して、再びウネちゃんの説明に意識を向け直した。


「それでは、これから予め登録した三人一組のパーティーで、ダンジョンに入っていただきます。正確には、従魔契約をしている生徒さんがいる場合は、三人一組に一体の従魔を連れて行く、という形になりますね。ダンジョン内で、もし他のパーティーと遭遇することがあれば、状況に応じて合流し、助け合うことも可能ですので、その点も考慮に入れて行動してください」


 他のメンバーと会うことがあれば、助け合え、か。一見すると、困った時はお互い様という、学園の優しさからくるアドバイスのように聞こえる。だが、底意地の悪い学園のことだ。絶対に、この言葉の裏にも何かがあるんだろう。


 ──それにしても、ウネちゃん、本当にいい笑顔で説明しているよな。


 生徒のためとはいえ、満面の笑みで欠陥資料を渡して、教え子を地獄に落とそうとするなんて。純朴だった俺の心は猜疑心で一杯だよ。卒業までに、生徒の誰もが人間不信の塊になってしまうんじゃないだろうか?


「では、準備のできたパーティーから、順番にダンジョンへ進入してください。まずは、出席番号一番の相沢君たちのパーティーから、どうぞ!」


 ウネちゃんの指示のもと、生徒たちはパーティーごとに列を作り始める。そして、列の先頭から巨大な石柱の前に立ち、各々のスマホを操作するたびに、その姿が淡い光の粒子となって掻き消えていく。


ただ人数が多い上に、パーティーの確認を行っているせいで、列が進むのはゆっくりだ。


「なあ、そろそろリーシャを呼んだ方がいいんじゃないか?」

「うん」


  俺の言葉に、穂が頷くと、静かにスマホを取り出す。その後、ただ一言だけ、相変わらずやる気のない声を漏らした。


「リーシャ、かもーん」


 そして、待つこと約20分後。


 リーシャがやってきた。ただし激しく息を切らし、地面に両手と両膝をつけた状態ではあるが。それにメイド服は僅かに乱れ、前回見た時は完璧にセットされていた黒髪も、心なしかほつれているように見える。


「(ぜぇぜぇ)び、美のけ、ぜぇぜぇ身様ぜぇぜぇぜぇぜぇあ、あなた様の(ぜぇぜぇ)忠実なる(ぜぇぜぇ)下僕ぜぇぜぇリー(ぜぇぜぇ)シャ(ぜぇぜぇ)ただいま(ぜぇぜぇ)馳せ(ぜぇぜぇ)参じ(ぜぇぜぇ)ました(ぜぇぜぇ)で(ぜぇぜぇ)す(ぜぇぜぇ)……っ」


 もはや息切れが酷すぎて、その言葉を聞き取ることすら困難なほどだ。


「あー、お疲れ。とりあえず、これ飲んで落ち着いて」

「(ぜぇぜぇ)あ(ぜぇぜぇ)りが(ぜぇぜぇ)とう(ぜぇぜぇ)ござい(ぜぇぜぇ)ます(ぜぇぜぇ)、柑奈ぜぇぜぇぜぇぜぇ……」

「ほら、今は何も言わなくていいから。むせないように、ゆっくり飲んで」


 見かねた柑奈が、自分の水筒から麦茶を注いでリーシャに手渡す。一方で、全ての元凶である穂は、我関せずといった涼しい顔で、ただじっとその様子を眺めているだけだ。いつも通りだな。


「……お、おい、このチビッ子魔法使い(ぜえぜえ)! オメー様、今日のこの実習のこと(ぜぇぜぇ)わたくしに伝えたの、さっきの電話が初めてだったですよ!?」


 どうりで姿が見えないと思った。というか、この息切れの様子から察するに、さっきの穂からの電話があるまで、リーシャはS2Wに入ってすらしていなかったと考えるべきか。


 いや、ちょっと待て。穂の家に住んでいるハズなのに、よく20分でここまで来れたな。コイツの身体能力は高いと思っていたけど、本当にとんでもないんじゃないか? などと驚愕してリーシャを見ると、驚異的な身体能力の代償として、頭の中が驚異的に残念なことを思い出し、驚いて損した気分になった。


「細かい話は、置いておく。そして永遠に放置」

「全然細かくねぇーですよっ! 久しぶりに……本当に久しぶりに!! 美の化身様の元で働ける機会を、ちびっこ魔法使い、おめぇ様はなんだと思っているです!?」

「私は毎日会っているから問題ない」

「ふざけんなです! 羨ましいじゃねぇですか!! 私にも学籍を寄こせです!!!」


 相変わらず、この二人が揃うと一気に賑やかさが増すな。


「先生、メンバーが揃いましたので、パーティー登録の手続きをお願いします」


 騒ぐ二人を完全に無視して、柑奈がウネちゃんに声をかける。そのマイペースさに、ウネちゃんは少しだけ呆気に取られたような表情を浮かべたが、俺にとってはいつも通りなので何も言わない。この程度のことを気にしていたら、コイツらの幼馴染なんてやれないぞ?


「え、あ、はい。じゃあ、登録しますね」


 この二人の奇妙なやり取りは、見慣れていない人間からすれば、ただただ困惑するだけだろう。主に、穂の常識から逸脱した傍若無人ぶりに──さらにはリーシャという危険物も混ざっているのだから仕方がない。


「パーティーナンバーは……」


 柑奈がパーティーの登録番号を告げると、ウネちゃんは自分の端末を数回タップする。それで手続きは終わりだ。


「はい、これで手続きは完了です。橘君たちのパーティーも、準備ができ次第、ダンジョンへ向かって下さい」


 俺たちは改めて三人+一体で列に並び直し、巨大な石柱の前に立つ。


 すでにダンジョンには何度も入っていることもあり、そこに緊張感などない。いつも通りスマホのアプリを起動させてタップをすると、次の瞬間には冷たい空気の遺跡にいた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


面白い、続きが気になると思っていただけた方へ。


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