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足手まといな俺(♂)ですが、スキルがお姫様だのアイドルだの言っています。ついでに幼馴染が全員戦闘狂です。  作者: 穂麦
三章

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【十四話】今日は機嫌がいい。だからみんなの顔が溶ける……なぜ?

 今日の俺は、朝からずっと機嫌がいい。


 登校中もそうだったし、こうして自分の席に座り、朝のホームルームが始まるのを待っている今この瞬間も、自然と口元が緩んでしまうのを抑えきれない。


「ふふ、ふふふふ……」


 思わず、自分でも少し気味が悪いと思うような笑い声が漏れてしまう。


「慧、ごきげん」


 隣の席で、いつものように机に突っ伏していた幼馴染の穂が、眠たげな目を半分だけ開けてそう呟いた。


「おっ、わかるか? さすが幼馴染だな穂」

「慧を見た人、みんな顔が溶けてる。よって慧の機嫌はいい」


 俺の機嫌がいいと、周りの人間の顔が溶けるのか?完全に人外扱いだな。まあ、今は最高な気分だから、そんな些細なことはどうでもいい。


「その理由、知りたくないか?」

「別にいい」


 俺の親切な申し出を、穂は一刀両断に切り捨てた。なんて理不尽な!


「慧の新しいスマホ。プロ仕様の撮影機能がついた榎本モデル。理由は間違いなくそれ。だから説明は必要ない。でも、自慢話は聞く。かも~ん」


 お、おう。さすが穂、よく分かっているじゃないか。


「そうか、聞いてくれるか。このスマホはな、かの有名な冒険写真家、榎本 慎(えのもと しん)先生が、過酷なダンジョン環境下での使用を前提に自らプロデュースした、伝説の逸品なんだ」


 正直なところ、今も冒険者になることには気が重い。この呪われた職業のせいで、仲間たちには申し訳ないという気持ちが常に心のどこかにある。


 それでも、ダンジョンの奥深くにある誰も見たことのない絶景を写真にして、こんなきれいな場所があるぞって自慢したい――その気持ちだけは、確かなのだ。


「具体的には、低照度環境下でもノイズを極限まで抑える深淵センサーに、高速で動くモンスターさえ(俺の腕次第だが)ブレずに捉える刹那フォーカス。さらには防水・防塵はもちろん、多少の物理攻撃にも耐える金剛ボディまで搭載していてな……!」


 穂は頷いて聞いてくれている。相変わらず目は眠そうだが、それでも俺は説明を続けた。


「中古の上に型落ちモデルなんだけど、今でも名機として専門誌で特集が組まれるほどの逸品なんだよ。それを昨日、偶然立ち寄った店で見かけてさ!値段がちょうど、あの仮面の狒狒(ひひ)の――」

「すとっぷ」


 自慢話が最高潮に達したところで、穂に冷静な声で遮られた。


 危なかった……。


 そういえば、親父にあの狒狒の件、特に俺の呪われたスキルについては、絶対に他言無用だと釘を刺されていたんだった。周りにはクラスメイトたちが大勢いる。こんな場所で迂闊に口にする話ではなかった。


「あー……いや、うん、そうだな。少し話しすぎた。それより、お前の動画の登録者数、あれからどうなったんだ?」


 俺はなんとか話題を逸らす。


「10になった」


 穂が、どこか誇らしげに言ったが……10人、なんとも微妙すぎる数字だ。かろうじて一桁は脱却したが、誰か一人が気まぐれに登録を解除すれば、また一桁に逆戻りしてしまう。


「……そ、そうか」


 あまりの微妙さに、なんて声を掛ければよいのか分からず、曖昧な相槌しか打てなかった。


「10になった」

「……そっか」

「10になった」

「…………そっか」


 同じ言葉を繰り返す穂に、このままでは夜までこの問答に付き合わされるのではないかという、強烈な危機感を抱く。こいつ、一体俺に何を求めているんだ?


 その答えを、長年の幼馴染としての付き合いで培われた経験から必死に検索し、ようやく正解らしきものに行き着いた。


「10になった」

「………………す、凄いな! ついに二桁の大台突破か!」

「うん」


 眠たげな目のまま、しかし明らかに満足げなドヤ顔で頷く穂。どうやら、これで正解だったようだ。


 俺は安堵のため息をつき、その小さな頭をわしゃわしゃと撫でてやった。


 どこか遠くで「保母さんみたい……」などという声が聞こえた気がしたが、せめて保父さんか保育士にして欲しい。


 朝のホームルームまでには、まだ少し時間がある。徐々に生徒たちが教室に入ってきて、ざわめきが大きくなってきた。


「おはよー。二人とも相変わらず早いねー」


 快活な声を響かせながら、俺の隣の空席に座ったのは、もう一人の同い年の幼馴染である柑奈だった。


「ああ、そうだな。全部、どっかの穂お嬢様のせいだよ」


 俺はため息をつきながら、今朝の惨状を思い出す。


 ――S2W(エスツーダブル)は、量子世界に構築された、仮想現実というよりは異世界と呼ぶべき場所だ。現実世界のライフカプセルを使ってログインする際、アバターは現実で着ていた服装、つまりあのピッチリとしたインナースーツ姿で生成される。


 当然、そこから制服に着替えることになるのだが、なぜか穂は制服ではなくわざわざパジャマに着替えて学校(S2W内)にやってくるのだ――毎日。


「……おかげで俺は、こいつに制服を届けるために、朝から全力疾走させられたんだよ」


 苦労話を柑奈にしていたのだが、そこに苦労の元凶が割り込んできた。


「ごくろう」

「労う前に、いい加減、学校で二度寝するためにパジャマに着替えるの、やめてもいいんじゃないか?」


 スマホの件で、上機嫌ではあるけどな。だが、それは決して、全てを無条件で受け入れるっていうことではないんだ。機嫌が良くても、疑問を抱くことくらいはする。


「却下。二度寝にこそ、許されざる甘美な香りが宿る禁断の果実。一度味わったら、二度と忘れることのできない背徳の味。私から二度寝を取り上げるなんて、とんでもない」

「……そっか」


 ダメだこいつ、何を言ってもやめる気はないな。そのことを早々に悟った俺は、スマホの自慢話をする気持ちも冷めて、再び穂の頭を撫でることにした。


 その最中にも、生徒たちは続々と教室に入ってくる。ホームルームの時間が近づいているせいで、そのペースも速くなっている。


 その中で、ひときわ周囲の視線を集める一人の生徒が、優雅な足取りで入ってきた。腰まで伸びた艶やかな黒髪が印象的な美少女、悠雁 苑葉。


 息をのむほど整った容姿をしているのだが、なぜか彼女に向けられる周囲の目は、ご近所さんが愛らしいペットの小型犬に向けるような生暖かい優しさのもので統一されている。なんとも不思議な同級生だ。


 だが――


「…………(ジロリッ)」


 ――なぜか、目が合った瞬間、彼女に鋭く睨みつけられることが多い。


 僅かにこちらを一瞥した苑葉さんは、しかしすぐに興味を失ったようにフンと鼻を鳴らし、そのまま友人たちがいる席へと向かい――そして、何も無いところで「きゃっ」と可愛らしくコケた。


 睨まれたのも、子犬にキャンと吠えられたくらいの感覚だし、特に気にする必要はないだろうな。


「慧、もっと褒めて」

「あー、はいはい。偉い偉い」


 穂からの催促に、俺は再び彼女の頭を撫でる。ひょっとして、さっきの苑葉さんは、穂の頭を撫でているこの俺のポジションが欲しかったのだろうか?


 別に、失ってもこれっぽっちも惜しくはない役割だから、いつでも譲ってやるんだけどな。それどころか、二度寝したこいつがパジャマのまま学校に登校してくるのを、毎朝全力疾走で追いかけて着替えを渡すという、過酷なミッションごとセットで引き受けてくれるというのなら、大喜びでこの不名誉な役職を譲渡させて頂く。むしろ譲渡したい。


 だが残念ながら、彼女にそんな気配はない。


「慧、そろそろやめてあげたら? 穂の頭、なんか凄いことになってるよ」

「ん……? ぁ」


 柑奈に言われてふと手元を見ると、穂の髪型は、もはや前衛芸術としか言いようのない、奇抜で独創的なオブジェと化していた。無数の毛束が複雑に絡み合い、重力に逆らうように天を突いている。


「あー、ごめん」


 俺は慌てて、カバンから櫛を取り出し、その芸術作品を丁寧に解きほぐしていく。


「あ、その櫛、可愛いね」

「ああ、穂のだからな」

「え? なんで慧が持ってるの?」

「こいつ、絶対に自分で髪をとかしたりしないからって、穂のお母さんから慧くん、これお願いねって半ば強制的に渡された」

「……そうなんだ」


 柑奈の、どこか呆れたような声に、俺は何も言い返すことができなかった。


 俺だって、これ、何かおかしいんじゃないかな? って、薄々感づいてはいたからな。


 こんな他愛のないやり取りをしている間にも、クラスメイトたちは次々と教室に入ってくる。そして――


「はい、皆さん、席についてください。これで全員、そろっていますか?」


 いつの間にか教壇に立っていた担任の木浦 渦音先生――通称ウネちゃんが、優しい声で教室を見回していた。その可愛らしい雰囲気から、いつの間にかそんな愛称がクラスで定着していた。


「すみません。遅れました」


 そこへ、数人の男子生徒が慌てた様子で駆け込んでくる。至って普通の、どこにでもいる、いわゆるモブofモブであると、なぜか本人たちが声高に自称している連中だ。


 むしろ、そこまで自分をモブだと主張できること自体、一周回って希少すぎて、もはやモブとは言い難いと思うのだが、それは俺の気のせいだろうか?


「大丈夫ですよ、水嶋君。まだチャイムは鳴っていませんから。早く自分の席についてくださいね」


 ウネちゃんに促され、自称モブofモブのリーダー格である水嶋 欽哉は、仲間たちと共に自分の席へと着いた。考えてみれば、名前も全然モブっぽくないよな――などと、どうでもいいことを考えながら、俺はその様子をぼんやりと眺めていた。


 朝のホームルーム。ウネちゃんが、いつもとは違う、少しだけ真剣な表情で連絡事項を伝えている。


「皆さん、最近、S2W内で通り魔事件が多発しているというニュースは知っていますか? 顔を隠した何者かに、いきなりナイフのようなもので切りつけられるという、非常に悪質な事件です」


 S2Wでの事件というのは、それほど珍しいものではない。特段、治安が悪いという印象があるわけではないが、それでもニュース番組などでは、たびたび何かしらの事件が報道されている。


 だが、こうして学校側が公式に注意を喚起するというのは、少し珍しい気がした。まあ、入学してまだ一ヶ月程度しか経っていないからな。気のせいっていう可能性の方が高そうだが。


「被害は、ダンジョンなどの人目の少ない場所で発生することがほとんどですが、一部は街中でも起こっているようです。もし、不審な人物を見かけた場合は、絶対に近づかないようにお願いします」


 確か、この事件は単独犯ではなく、複数の犯人がいる可能性があるとかって、ニュースで言っていたな。


 俺のこの呪われた職業では、万が一遭遇しても、できることなど何もない。せいぜい、関わらないようにビクビクしながら逃げ回るしかないからだ。


 連絡事項は進んでいき、不審者情報から、やがて生徒たちの関心事へと移っていく。


「次に、来週に実施する予定の、S2Wでのダンジョン研修についてお伝えします」


 その言葉が出た瞬間、教室の空気が変わった。やはり、自分の身に関わる話となると、みんな俄然興味が湧くらしい。さっきまでの不審者情報なんて、ほとんど右から左へ聞き流していたくせにな。ウネちゃんが、少しだけ苦笑いを浮かべているのが見えた。……まあ、俺もその同類の一人だけど。


「今回、研修で皆さんに挑戦していただくダンジョンは、LV2の洞窟タイプとなります。このダンジョンに入るには、事前にLV1ダンジョンを攻略している必要がありますので、まだの方は今週中に……と、お伝えするつもりだったのですが、皆さん、本当に真面目な方ばかりのようですね。確認したところ、このクラスは全員が、既にLV1ダンジョンを攻略済みでした」


 俺たちも、入学式の後、その日のうちに挑戦したが、どうやら他のクラスメイトたちも、似たようなパターンが多かったらしい。それにしても、好戦的すぎる。うちのクラスの連中は。俺のように、この呪われた職業のせいでまともに戦うことすらできず、完全に浮いてしまっている存在は、他にいないのだろうか。ぜひとも、いて欲しい。


「ただし、全員がLV1ダンジョンを攻略済みではあるのですが、パーティー登録の申請がまだ済んでいない方は多いようです。今回の研修は、三人一組でのパーティー行動が義務付けられていますので、人数に注意して、今週中に必ず申請を済ませておいてください」


 三人一組、か。そんな取り決めがあったとは、完全に忘れていた。そういえば――


「はい、橘君。どうしましたか?」


 俺がスッと手を上げると、ウネちゃんはすぐに見つけてくれた。それと同時に、クラスメイトたちの視線が一斉にこちらへと突き刺さるのを感じた。


「質問、よろしいでしょうか?」

「はい。どうぞ、何でしょう?」


 一つだけ、どうしても気になったことがある。


「人型の従魔は、パーティーメンバーの一人として数えるのでしょうか? それとも、ペットという扱いで、人数にはカウントされないのでしょうか?」


 穂の話によると、リーシャのような、完全に人間の姿をした使い魔は非常に珍しいらしい。少し、いや、かなり面倒くさい性格のヤツではあるが、連れていければ、貴重な戦力にはなるはずだ。もしペット可なら、ぜひとも連れていきたいところだ――心底、面倒臭くて気が重いけど。


「ああ、その件ですね。人型の従魔であっても、あくまで従魔は従魔です。パーティーのメンバー枠を必要とはしませんので、連れていっても大丈夫ですよ。ただし、今回の実習に同伴させることができる従魔の数は、各パーティーにつき一体まで、と決まっていますので、その点だけ注意してくださいね」

「分かりました。ありがとうございます」


 どうやら、リーシャを連れていっても問題はないようだ。


 人手――いや、猫手か?が多ければ多いほど、俺自身の危険も減るだろう。アイツを連れていけるのは、素直にありがたい。


 せいぜい、利用させてもらうとしよう。

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