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ロックン令嬢

 先ほど16年過ごした我が家を追い出されました。それはそれは哀しいすれ違いによるものです。


 掻い摘んでいきさつを話しましょう。


 学園に通うようになってから、よくない噂が湧いてくるようになりました。


 (わたくし)は仮にも高位の貴族なので、そんな噂を流した奴等には極刑を下してやろうと思っていたのですが、お父様がそれは無理だと言います。


 結果、大量に私の名誉を毀損する噂が流れてしまいました。


 曰く、夜に遊んで(授業中)に寝る。


 曰く、成績が悪く勉強もしない。


 曰く、とてもうるさい。


 曰く――。


 認めましょう、事実であると。しかし、これはあまりに偏った見方です。私のいいところは何一つ広められていないのです。


 私は好きなことの為には命を削れる頑張りやさんです。だから、授業中に寝てしまっても仕方ないんです。そして、授業を聞けないなら成績が悪くても仕方ないんです。


 そして、私は音楽が好きなんです。愛しています。それに煩いだなんてとんでもない。人の好きなものを否定することこそ何よりの悪でしょう。


 これはイジメです。なぜなら私がイジメだと思ったから。


 そんな悪の一味によって私の評判は地に落ちました。学園は退学になり、噂を真に受けてしまったお父様には『まあ、なんだ。お前は逞しいからきっとなんとかなるさ。どうしてもダメだったら死ぬ前に帰ってこい』なんて冷たいことを言われてしまいました。


 今、私の全財産は身体とギターが一つずつ。そして、誰よりも熱い心臓(ハート)のみ。上等、それだけあれば充分。絶対に私を虐めた奴等を見返してやる!


 天を少し過ぎ日の下で、熱せられた石畳を強く蹴った。




 私の音を聞け!


 心の叫びが歌にのって、世界に伝えられる。


 王都のアンサンブル交差点――全ての馬車が止まり、歩行者が斜めに道を渡ることのできる交差点――の一角で必死に歌う。

 

 ベクトルに違いはあれど、誰もが世界に対して持ってる不満。それを私が束ねて、轟かせて、世界に訴えるんだ。『何とかしろよ!私が何か悪いことをしたか!?』って。


 怖くなんてない。|みんな(聴衆)と一緒だから!世界にだって立ち向かえる。それが音楽の力だ!


「ありがとうございましてよー!!」


『うぉぉーー!!』と私を讃える声が響き渡る。掴みは上々。

 

 ここからさらに熱く!!


 その時――。


「ここでの許可のない活動は禁止されています!通行の妨げになるので解散してください!」


 無粋なマヌケが現れた。私の邪魔をする悪党だ。必死に対抗しようとするも、仲間(聴衆)は蜘蛛の子を散らすように去り、残されたのは私一人。


 残念無念。一人では巨悪に立ち向かうことはてきないのです。悔し涙と鼻水を飲んで、敗走することとなりました。

 


「おう、嬢ちゃん!心に響く歌だったぜ!」


 ポツポツと歩いていると、さっき逃げていった薄情な仲間の1人であろう男が屋台から声をかけてきた。


「いいもん聞かせてもらったお代だ!」


 ニヒルな笑みを浮かべた彼が売り物であろう焼き鳥を私に差し出す。中々に見る目のある男だ。きっと情に厚いのだろう。


「おいしーですわ!これからも応援よろしくお願いしますの!」


「おうとも!」


 そして、私は今日の宿へ向かおうとしたのだが、再び声をかけられて、足を止める。


「お嬢ちゃん、うちのスープもどうだ?口がスッキリするぜ」


 それに返事をする前に次から次へと『お嬢ちゃん、うちも!』って声が聞こえてくる。嗚呼、世界はこんなにも優しかったのか。


「み゙なざん、あ゙りがどうございますわー!!」


 よかった、みんながみんな私を虐める悪党じゃないんだ。


 少し、この世界が好きになれた気がする。




 沢山の応援を頂いた後私は帰路についた。


 帰路といっても家を追い出されてしまったので、宿である。


 そして、宿と言ってもお金がないので無料の宿である。


「泊めてもらいにきましたわ!」


「……え?」


 彼女は私のクラスにいた庶民(奴隷)。名前は確か、チート・オリシュさんです。彼女は普通の娘が躊躇うような身分の高い奴等にも平等に声をかけて回る優しい子と聞いています。しかも、両親を失ったとかで一人暮らしだとか。つまり、私を泊めてくれる子です。


「泊めてもらいにきましたわ!」


「……?」

 

 私は宿を得て、彼女は私の側にいられる。最高にwinwinな取り引きですわ!やはり私は天才ですわ!授業さえ聞いていればそんなにたくさんの赤点なんて取らなかったでしょう。


 こんな天才的な提案を聞いたにも関わらず、彼女はぼーっとしている。きっとあまりの感動に頭が追いつかいのでしょう。私はなんて罪な女なのか。


「……分かりました、一晩だけなら。高級なものはありませんがどうかご容赦ください」


「よろしくてよ」


 緊張してか、顔が引き攣り一生と間違えて一晩と言ってしまったようですが、寛大な私は赦します。誰にでも間違えはあるのですから。




「私の学友も、お父様もお姉様も、みんな『お前ならなんとかなる』って言って私を見放すんですの!あんまりではないですか!?」


「あはは……」


「私は何も悪いことをしていないのに、みんな私を責めるんですの。きっと誰かが私を虐める為に噂を流した()()ですわ!」


「あはは……」


 彼女の家は、以下にも庶民という感じでみすぼらしいものでした。何故か風呂だけは比較的上等なものがありましたが、それ以外は安物ばかりです。

 

 碌なものがないとがっかりしていた所、すごいものを見つけてしまいました、お酒です。貴族は18になるまで酒は飲めないのですが、庶民には制限なんてありません。

 

 私は今や家名を失い、魂からの貴族的輝きは曇らずとも法的には庶民です。つまりお酒を飲んでも何も問題ありません。


 始めて酒を飲んだ私は機嫌が良くなったので、彼女に身の上話をしてあげているのですが、余りに悲しくなって涙が出てしまいました。


「もう一杯入れなさい」


「あの〜、お水でも呑みませんか?」


「私からお酒を奪うつもりですの?貴方も私を虐めるんですね!」


「違いますから!今お酒を入れますのでコップをください」


「やっぱ眠くなってきたので要りませんわ」


 何故か急速に眠くなってきたので寝ることにした。明日も頑張ろう。 




「おはようございますわ〜」


 あれから数日、私はお酒の魅力にどっぷりハマり、おひねり代わりにお酒や食料を貰う毎日を送っています。


 もうお酒のない日々に戻れる気がしない。今まで飲まなかったことを後悔する美味しさでした。


 なんと、あれがあれば将来の不安とか諸々が一瞬で吹っ飛んでしまうのです。あんなに爽快な気分は初めてでした。


 しかし、そこに水を差す出来事がありました。お父様からの付き人がやってきて、お手紙を渡してきたのです。要約すると内容は『お前が酒にハマったと聞いて心配だ。一度顔を見せに来い』というものです。


 年頃の娘の様子を調べているなんてマジでキモいですわー。きっと一度顔を出せば最後、お酒を取り上げられて、セピア色に染まったあの世界に引き摺り戻されるんです。


『マジでキモい、娘をストーカーさせるとかマジねーから』って旨を返してやりましたわ。今頃ショックで寝込んでいるのでしょう。いんがおーほーとかいうやつですわね。


 そんな不満を込めた今日のライブも大反響。やはり、私の居場所はここです。私は私の音楽で世界を獲りますわ!


 お前ら、私の音を聞け!


 そう、心で叫びながらピックを振り下ろした。

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