晴天女神と銀の鈴
『晴天女神』は私が20年以上前に、ある小説の賞(賞の名前を忘却)に投稿して落選した作品です。
人物を少し変更して書きました。
春日真空は春日家代々伝わる、由緒正しい晴天神の血を受け継ぐ娘である。
晴天神とは雨が降りすぎる状況を改善する為、天候を晴天へと導く役割を担う一族の事だ。
男なら晴天神女なら晴天女神という風に、性別によって言い方が変わる。
故に真空は娘なので、晴天女神と呼ばれる。
さて、月に一度の晴天女神の腕を試す日が、やって来た。
春日家の大黒柱、同時に晴天神の春日碧天は、真空の実力を確かめる為、テストを命じる。
二人とも白いポンチョを身にまとい、互いを見つめる。
テストが行われる場所は、待ちから外れた奥千山。
険しい山道の途中にある平地でテストを受けるのが、昔からのならわしだ。
曇り空が広がり、今にも一雨来そうな雰囲気の中で、碧天の眼差しが空を仰いだ。
「雨が囁いてるね。
肌にヒシヒシと伝わるよ」
真空が空の表情を読みといた。
それに対し、碧天も天候について述べた。
「腕を試すには、もってこいの天候ですね」
曇り空から伝わる温度に変化が現れ、父と娘は俊敏に反応した。
((雨が来る!))
春日家の勘がはたらいた。
〈バババババババ……!〉
予感は当たった。
「今ですよ、真空!
雨を太陽の光に変えなさい!」
「はい!
空より注ぐ雨よ……静まりたまえ。
そして、雲に隠れた光よ……おいでなせ」
真空が空中へと言の葉を唱える。
〈バババババババ……パラ……パラ……〉
「雨が、弱くなってきた。でも、止まない」
「ん……ですが真空、あれをご覧なさい」
「あれって?」
碧天が目である場所を示すと、真空もその場所を見た。
そこには、お地蔵様が隠れるように佇んでいる。
「気付かなかったよ。
あんな場所にお地蔵様がいたなんて」
「きっと、人に見付けて貰える事はなく、ああして時おり身を打つ雨風に耐えていたんでしょう。
その強い雨を少しながら静めたのですから、真空の言の葉には、心に晴天を呼ぶ力が宿っているんですね」
『心に晴天を呼ぶ力』……初めて耳にする言葉だが、悪くない響きだ。
「それは嬉しく思うけど、だけど本当の空に晴天を呼びたいよ」
真空が志すのは、真の晴天女神だ。
晴天女神となれた暁には、銀の鈴を受け取り自由に天候を司る事が出来るのだ。
「真空、右手を出してください」
「え……はい」
「心の晴天を呼び寄せたご褒美ですよ」
碧天は真空の右腕へと手作りの銀の鈴を結びつけた。
「ワアッ……綺麗‼
手作りでも、本物よりいいかも!」
「いつの日にか、真の銀の鈴を付ける程に、晴天女神の力を付けて下さいね」
「勿論!
私はいつか晴天女神になってみせるよ!」
〈チリン!〉
小雨が降る中、未来の晴天女神の腕で、手作りの銀の鈴が地上へ向けて音色を放った。
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